農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 経済事業改革と営農指導

営農を核に進めるJA経済事業改革
現地ルポ JAはが野(栃木県)

 栃木県のJAはが野は、平成14年に「県域物流」を導入、生産資材の配送などを全農栃木県本部に任せ物流コスト削減による生産資材コストの引き下げや、営農経済渉外員の発足による営農指導事業体制の強化を行ってきた。とくに営農経済渉外員の新設は生産者から農協らしい仕事との評価も生まれ、生産現場を支える力としての実績も挙げてきている。これらの改革の基本方針を同JAでは「組合員の目線で考える」と強調する。営農指導事業の強化を核にしたJA改革の取り組みを武田組合長と杉山常務に聞いた。

◆真の合併JAめざす

JAはが野
 JAはが野は平成9年に1市5町(真岡市、二宮町、益子町、茂木町、市貝町、芳賀町)の6JAが合併して発足。現在、正組合員数約1万8000人、准組合員約3700人となっている。
 管内の耕地面積は約1万7000ヘクタールで、このうち水田が8割以上を占める。ただし、園芸作物に力を入れ農産物販売高では園芸特産花きが132億円と米麦畜産の102億円を上回っている。とくにイチゴ(とちおとめ)は県内販売高の3分の1にあたる80億円の売り上げで全国一のイチゴ産地となった。
 イチゴの大産地になったのは合併当初に青果物を中心に徹底して共計・共販体制を推進することを目標にしたことが大きい。
 杉山忠雄常務は「1つの農協になったのだから同じ単価で売るという目標を掲げるべき。合併JAといっても旧JA単位での生産、販売を続ける共和国なら、真の合併ではなくメリットも出ないと考えた」と語る。
イチゴの生産者を訪ね今後の栽培について話し合う営農経済渉外員
イチゴの生産者を訪ね今後の栽培について話し合う営農経済渉外員
 新生、JAはが野への組合員の結集の核として販売事業を据え、共計・共販によるメリットを生み出すことをめざしたのである。
 そのために生産部会もJAはが野として一本化し、一方、JAでは広域営農指導員体制を導入した。これは管内全域で栽培技術の高度化と平準化を図ることが狙い。地域の枠にとらわれず、組合員に統一して栽培指導を行うとともに、各地域の営農指導員の指導にもあたる役割を持たせた。管内全体で共計・共販体制をつくるために生産者の合意を得ていくという取り組みでもあった。
 その結果がJAレベルで全国一のイチゴ出荷高という成果につながった。高単価での販売という実績だけでなく、生産組織内での仲間づくり進み現場が活性化した。

◆組合員の信頼を勝ち取る

 こうした取り組みとともに購買事業でのメリット発揮をめざして実施したのが平成14年の県域物流の導入だ。生産資材の配送はJAではなく全農栃木県本部主導による一元化に切り替えた。
杉山忠雄常務
杉山忠雄常務
 導入の理由を杉山常務は「合併以来、われわれの耳にはJAの資材は高い、という声が届いていた。それを解消するためにまず物流コスト削減によって実現しようと考えた」と話す。
 初年度に物流コストは8000万円の削減。物流コスト比率では9.5%から7.9%への引き下げとなった。
 ただし、全農への配送委託料は新たに発生する。この額も含めて物流コストの削減が実現できたわけだが、同JAでは委託料について毎年検証することにしている。
 県域物流への移行はJAからそれまで物流を行っていた車両や人などの削減を伴う。したがって、現在はJAにとってみると全農県本部に委託する以外にない、という体制だ。
益子地区のちゃぐりんクラブの田植え体験。
 益子地区のちゃぐりんクラブの田植え体験。
 しかし、「この改革にあたって求めたのは全農とのパートナーシップ。全農にもわれわれと同じ“組合員の目線で考えること”が必要だと理解してもらうことが重要だ」と杉山常務。こうした観点から、県域物流体制の実現だけで改革が終わるのではなく、委託料の見直しが改革をさらに進めるうえで課題となるとしている。
 同時に生産資材に対する全農への不満をパートナーシップで乗りこえて組合員から評価される生産資材価格を実現するために「共同協議方式」を導入したのも同JAの特徴だ。
 「JAは高い」との声を払拭するための方式で全農とJAの協議による市場実勢価格の提供をめざした。現在は、「全品目の8割程度はJAのほうが安い。組合員にはかなり理解されるようになった」という。
 また、同時に大口利用生産者に対して利用額によってランクを設定し0.5%から1.5%の値引き率を設定した。今後はさらに超大型農家対策として値引率の一段高い設定など総合的な支援策を検討することにしている。

◆JAの仕事を発信する営農経済渉外員制度

 物流改革によって生まれた余剰人員を新たに営農経済渉外員としてチームを設置したのも同JAの大きな特徴だ。チーム名は「ACSH(アクシュ)」。agriculture consulting supporter of HAGANOの頭文字をとったものでまさに組合員と手をつなぐ役割として新設した。
真岡地区に開設されているフレッシュ直売所。
 真岡地区に開設されているフレッシュ直売所。
 現在は8名体制。営農指導員と異なり、組合員が何を考え、JAに何を求めているのかをまず知ることを基本としている。JAといえばさまざまな資材や共済、金融などの「推進」というイメージがあり、「逃げる組合員、追うJA」の構図を打破することも狙いとした。
 そのため売り上げ推進ノルマは与えず、目標は1日20戸の訪問とした。
 初年度の15年度は1900戸を対象にし、月の訪問回数をランク分けした。
 「1か月に2回に訪問すると決めた農家は実はJAと疎遠になっているところ。これまで職員も敬遠してなかなか行かなかった農家」だという。
 同チームが稼働したのは15年3月。精力的に訪問活動をはじめたが、最初の数カ月間は、「合併によってJAとの距離が遠くなった」、「JAが相手にしてくれないではないか」といった不満が大半だった。それが訪問を粘りづよく繰り返すうち、栽培技術についての情報や営農資金の相談、さらには共済の仕組みなどまで組合員から質問が出るように変わっていったという。
 「JAと組合員の距離が広がっていたことを改めて認識することになったし、営農渉外員とはまずはJAの仕事、役割を組合員に説明するチームだという位置づけになった」と杉山常務は振り返る。
 組合員への情報伝達が重要なことからACSHチームは本所に所属し、毎朝8時半からの1時間をコアタイムとして営農、信用などの部長から最近の情報、農政の動向などについてレクチャーを受ける。とくに組合員からその日の訪問で質問が出そうな項目については説明を受け、タイムリーな情報提供ができるよう心がけているという。
品質向上を図るためのナスの目揃え会
品質向上を図るためのナスの目揃え会
 もうひとつの大きな役割は、組合長をはじめJA役員と同行した訪問の機会をつくることだ。組合員からは「庭先で組合長と話ができるとは思っていなかった」などの評価が出ている。訪問先では長時間じっくりと農業とJAについて話し合うことも多い。
 こうした活動がJAの実績にも結びついている。営農経済渉外員による購買事業実績は昨年度と今年度との上半期比較で1億円以上伸びを示しているという。ノルマが課せられているわけではなく「これはまさにACSHへの信頼。すなわちJAへの信頼だと考えています」。
 同JAは今後、営農指導員をJAグループ全体で取り組むことにしている専門指導員などの階層に分けて整備する方針だが、営農経済渉外員は将来的には営農のみならず「総合渉外員」として位置づけることも検討するという。
 「JAはそもそも総合農協。JAとはこうあるべきという思いがある人材が営農経済渉外員になればわれわれの思いも伝わる。10年後には花が咲くことを信じて組合員の目線で改革に取り組んでいきたい」と杉山常務は話している。

「営農」と「生活」を守る農協の原点に地道に取り組む

武田周三郎代表理事組合長

武田周三郎代表理事組合長

 農協は組合員の営農と生活を守るという看板を掲げて事業と運動をしてきた。それを今の時代にいかに実現するかが課題となっている。
 JAはが野管内はかつては米麦が中心だったが、だんだん米では農業が成り立たなくなりイチゴなど園芸作物に転換してきた。農協が新しい方向を組合員にいち早く示して米以外の作物づくりへとひっぱってきた例だと思っている。それも産地としての評価を高めるために、共選・共販体制を強化することを農協としてはいちばん重視した。より有利な販売を実現するにはみなが同じ方向を向いていることが大切だと考えている。
 米についてはさらに改革が進み、生産者自身が考えて生産を、といわれる時代になった。しかし、高齢化の進行や、中核農家とそれ以外の農家では経営規模などに大きな違いが出ているなど、地域の実情も複雑になっている。こういうなかではやはり農協が方向を打ち出し、生産者とJAで考えていく共同活動を強化するしかない。その一環として農協自ら営農に携わって農業を守るという事業も今後は求められると考えている。
 みなが集まれば強い力が発揮できる、という農協運動は、理屈ではその通りだ。しかし、JAグループとしての本当の力の強さとは、生産資材費をはじめ現場の生産者が実感できるものでなければならない。その視点から県や全国組織のあり方を考えるべきだと思う。
 われわれは物流改革をきっかけにした営農指導事業の強化に取り組んできたが、先進的な取り組みだと考えているわけではない。改革しなければ生産者が農業を続けていけないという危機感からだ。生産者が農業を続けている以上、われわれは地道に取り組みを進めるべきだ。

(2004.10.15)


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