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特集 対談 カナダにおける農業・農村の現状と協同組合・NPOの役割 |
摩擦の多い小麦市場 |
米国の保護政策に不満 |
イアン・マクファーソン カナダ・ビクトリア大学教授 白石正彦 東京農業大学食料環境経済学科教授 |
白石 最初にカナダ農業の特徴的な動向をお話下さい。
マクファーソン ここ50年間に急激な農業構造の変化を経験しました。50年前の農場数は60万でしたが、今は25万弱に激減し、高齢化しています。農民は経済主義的に走り、社会的関心が薄くなっています。 白石 カナダ政府は農業安定化計画つまり経営所得安定化政策を導入していますが、農業者のために役立っていますか。 マクファーソン 穀物は市場のせいもあって価格が低く、また気象条件、災害により、生産も価格も収入も不安定です。 白石 有機農産物の生産は増えていますか。 マクファーソン カナダでは着実に生産が伸び、いくつかの協同組合が関わっています。これには農薬に汚染されていない土地が必要であるため原住民の土地を使って生産する傾向があります。 ◇改革迫られる専門農協 白石 農業者に対するNAFTA(北米自由貿易協定)の影響はどうですか。 マクファーソン (協定国の米国とメキシコに)牛や豚を輸出するにしてもアクセスが難しく、米国は果実の輸出にも文句をつけてきますし、メリットは余りありませんね。
白石 次に、カナダの農協についてお話下さい。 マクファーソン 19世紀後半にサスカチュワン州でスタートした小麦販売農協は、10年前に市場の状況変化で財政的な困難に陥り、改革を迫られました。そして事業の多角化と企業化の方向を打ち出し、組合役員のうち3人を員外者としましたが、協同組合本来の体質のキープが難しい状況です。それから、ブリティッシュコロンビア州の酪農組合がイタリアの企業に買い取られるという状況もあります。 ◇新世代農協支援に格差 白石 事業を多角化していく組合は、米国やカナダでいわれているニューゼネレーションコーポラティブ(新世代農協)の概念に含まれますか。 マクファーソン 米国には、たくさんの新世代農協があり、ニッチマーケット(すき間の市場)をうまく開拓しています。これは米国が農業を巧妙に保護しているからです。カナダの新世代農協はたったの25です。 白石 25の中には、どんなタイプの組合がありますか。 マクファーソン 鶏肉や果実(ジュース)の加工、蜂蜜やワイン原料のブドウ生産などがあります。しかし残念ながら、新世代農協の事業はマクロ経済に大きな影響を及ぼしていません。これは90年代以降、行政による農業支援のシステムが後退してきているからです。 白石 規制緩和ですね。 マクファーソン 米国には金融にしろ通信にしろ、新世代農協を支援するシステムがありますが、カナダにはありません。 白石 農業者は生産分野の専門農協に加えて信用組合などにも入っているのですか。 ◇企業化は良いことか? マクファーソン 地域住民はいろいろな組合に関わりを持っています。農村の状況は人口の変化やコンピュータによって変わってきており、コミュニティも弱体化の傾向です。 白石 珍しい話ですね。それは、おいしいのですか。 マクファーソン おいしいだけではなくて健康にも良いので高級レストランで普通のコメに混ぜて料理しています。原住民は経済的に安定的な生活をする一つの手段として協同組合に関心を持ってきています。その組合の事業には手工芸品づくり、観光業、漁業などがあります。 白石 新世代農協は外部から資本を導入し、役員も外から迎えていますが、これを株式会社化への変質と見ますか。 マクファーソン 株式会社化は一つの流れですが、それが協同組合にとって良いことかどうかは疑問です。現実に外部資本の導入はいくつかの組合だけです。 ◇組合員と役員との距離 それ以上に問題は、農協が資本を十分に持っていないことです。大農場はあっても、すべての農場から出資金をさらに集めて組合を維持する力を持っていないし、地域金融機関から借り入れることも難しい状況です。だから多国籍食品企業が買い取りやすい。これは農業の分野だけでは対応できない問題です。 白石 カナダの農産物輸出額は173億ドルで、その多くは小麦だと思います。小麦の協同組合は各州にありますが、輸出では一本化しているのですか。 マクファーソン 協同組合の連合体をつくってマーケティングしています。連邦政府が小麦ボードを設置したのは、10年代ですが、近年では、その激しい販売活動に米国が不満を募らせたため米国市場から遠ざかっており、代わって私企業も含む連合体がアクセスしている状況です。 白石 小麦専門農協のシェアはどれくらいですか。 マクファーソン 各組合が農場から小麦を集め、うち輸出分を小麦ボードに売りますが、それは生産量の80%です。 白石 組合と組合員農業者との関係はどうですか。 マクファーソン 一つの組合の例をとると、農業者は組合に小麦を出荷しますが、それがどのように販売されたかという情報が伝えられないなど、組合役員との距離が遠くなっています。 ◇家族的な農業を基盤に 白石 農業者への農業生産資材の供給状況はどうですか。 マクファーソン 組合だけでなく、業者数は限られているものの、卸売からも、また生協からも供給され、競争は激しいのですが、資材価格は高くなっています。このため農業者はいつも不満をいっています。日本の農家は不満をいいませんか。 白石 日本とよく似ていますね。ところで組合運営への女性の関わり方はどうですか。 マクファーソン 関わっている例はサスカチュワンの信用組合くらいで、全体として少ないですね。子どもの面倒を見て、畑仕事もやり、その上で組合の運営に関わるのは困難です。 白石 では、最後にカナダ農業の今後を語って下さい。 マクファーソン 大規模な生産体制が将来の一つの形です。900〜1500ヘクタールほどの穀物農場経営を想定しています。 白石 それは雇用を主体とした経営形態ですか。 マクファーソン 一口でいえば協同組合経営です。ただ組合員の農業者はそれぞれ家族でやっていますから、掘り下げていえば、家族的な農業を基盤とした大規模なコーポラティブファームといえるでしよう。 白石 一つの経営体で何人くらいの農業者を想定していますか。 マクファーソン 穀物生産エリアは多くの人手を必要としません。3、4人で大型機械を使えば大農場でも運営できます。
(2004.10.26)
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