『家の光』は来年、創刊80周年を迎える。創刊以来、組合員の営農と生活を守り協同の精神を育むことを基本に、楽しく役に立ち、分かりやすい記事づくりを進めてきた。この12月号から誌面をリニューアルするが「今こそ協同の力を確認し、協同の力を発揮する時代」と柳楽節雄常務は語る。JAの教育文化活動への貢献がこれからも期待されるが、柳楽常務は「JAへの結集力、求心力が問われる今、協同の力を発揮する土づくりを『家の光』ですすめ、JAのバックアップに努めたい」と強調した。東京農工大学の梶井功名誉教授と語り合ってもらった。
|
JAの教育文化活動にさらに貢献
◆組合員教育担う『家の光』
梶井 私は最近JAの「教育」について危惧しています。協同組合原則でいう組合の教育でも重視されているのは組合員に対する協同事業の意義の教育です。農協法の第10条で規定した教育も最初は「組合の事業に関する組合員への教育」でした。それが54年の改正で“技術および経営の向上を図るための教育”に変わり、さらに01年改正でついに教育という言葉もなくなってしまいました。中央会の事業としての教育は残っていますが、最近の中央会の教育に関する指導指針を見ると職員教育には熱心なようですが、肝心な組合員への教育は手薄ではないかと思います。
『家の光』創刊当時の産業組合会頭、志村源太郎は、協同精神は家庭で養われる、その“涵養”のために『家の光』を創刊する、と書いています。まさに組合の事業に対する組合員への教育のための雑誌としてつくったということですね。その意味では組合員への教育という点で、家の光協会は非常に大きな役割を担わされていると思います。
|
なぎら・せつお
昭和23年生まれ。島根大学農学部卒。昭和45年家の光協会入会、6年家の光編集部編集長、9年総務局長、11年総務企画局長、12年3月常務理事に就任。 |
柳楽 JAは協同の組織であり、人の組織です。協同の力、必要性を学び合う教育の役割はますます重要になってきたと考えています。
『家の光』はご指摘のように協同精神を養う家庭雑誌として創刊されたわけです。
現在も協同組合の家庭雑誌というコンセプトは変わっていません。先輩から繰り返し聞かされてきたことのひとつに、初代編集長・有元英夫の「指導と教育は異なる」ということがあります。有元さんは、指導とは馬を前から引っ張るようなもの、教育とは牛を後から追うようなものだ、と言った。そして、牛は前から引っ張るとしり込みしてしまう、だから、よく噛み砕いておもしろく楽しく読めて、それが組合員の血となり肉となっていくような活気のある編集をしなさい、と。
現在JAグループでは、教育というと指導のように捉えられている。有元さんが話されたように協同組合についての教育、みんなで学び合う協同学習が本当に組合員の血となり肉となるようなことをやっていかなければならないと思っています。
◆楽しく役立つ誌面づくりを
とくにJAが広域化するにつれて組合員との関係が疎遠になりはじめ、一方で組合員が多様化し、そういう人たちをどうJAに結集させるのか、JAの求心力が問われているといわれます。
こういう状況のなかで家の光協会はJAの教育文化活動に貢献する役割を果たしていこうという方針で事業に取り組んできており、『家の光』はJAと組合員、地域住民とのコミュニケーション・ツールとしての機能発揮を果たすことをめざします。『家の光』を活用しようというJAトップも増え、1000部以上増部するJAも増えてきています。指導ではなく、まさにJAに対するバックアップとなるような要素づくりとして『家の光』をつくっていきたいと思っています。
◆農村女性の自立につながった読書会
|
梶井功
東京農工大学名誉教授 |
梶井 JA活動も地域組合活動にならざるを得なくなっている。多様な組合員に協同活動の意義を教育することが、ますます重要になったとすべきでしょう。ところで、かつて評論家の樋口恵子さんが『家の光』の「家」とはどういう家を考えているのか、と指摘していますね。つまり、家父長主義的な家を前提にして『家の光』などと言っては問題だと。
柳楽 戦後、婦人部ができて、とくに読書会が立ち上がると、お嫁さんたちも読書会があるからと、夜でも外出し会合ができるようになった。その場で家の苦労や悩みを語り、自立してきた歴史があるわけですね。農村での女性の地位や女性が育っていくためには、みんなで話し合っていくことが大切だという視点は誌面のなかで絶えず考えてきたと思います。
梶井 それは農村女性にとって非常に大事な点ですね。こないだの「農協のあり方についての研究会」の論議で、農業委員や市町村議会議員にくらべJAは女性理事の登用が少ないという問題が取り上げられましたね。そのとき、JAグループ側委員から、JAの理事と農業委員とは違う、JAの理事はまかり間違えば財産処分までして責任を負うことがあり得る、残念ながらそこまでできる女性が現実には少ないという実態がある、といった指摘をしました。この発言について女性進出を阻む見方だとの批判が出ましたが、私はこれは事実を指摘したものと思います。
柳楽 問題は、そのような実態をどう改善していくか、議論すべきです。一方で女性理事を登用しているJAでは経営者保険に加入したりなどの対策をとっているところもありますから、こういう取り組みも含めてどうすれば女性理事の登用が進むのかという議論をしてもらいたかった。
『家の光』は女性部とともに歩んできたという歴史がありますから、男女共同参画や女性理事の登用ということも具体例を示しながら提起してきました。農業も暮らしも女性が主役です。これからもJAでも女性が力を発揮するにはどうすればいいかを提起していきますし、全国の元気な女性の知恵と活動を全国へ発信していきたいですね。
梶井 家の民主化などと声高に叫ぶより、今日は『家の光』の読書会があるから、といえば家族が行ってらっしゃいと快く送り出してくれる、そういう取り組みが大事ですね。
たとえば、JA北信州みゆきの女性大学は毎月講義があるわけですね。その場に定期的に女性たちが出席できるような環境をつくらなければこれはできないでしょう。まさに「家の改革」なのだと思います。
柳楽 全国で記事活用グループが258JAで2800グループも結成されています。
◆「家族」も新たな時代のテーマ
柳楽 そういう意味でも、私たちはこれからの農村での家庭はどうつくっていったらいいのか、80年を契機にもう一度、家族を問い直すということもテーマにしています。
梶井 80周年を機に『家の光』誌面を刷新するとのことですがポイントはどこでしょうか。
柳楽 現在、地域が崩壊しかねない状況にあります。地域の核になって活躍するのがJAです。JAに組合員が結集し、参画し、JAも求心力を発揮して地域の活性化を図ることが大切です。
『家の光』は、協同のDNAを伝え、人・JA組織・JA女性組織、地域が元気の出る誌面づくりに邁進したいと刷新しました。
家族みんなで読める雑誌として「すぐ使えて、何度でも役に立つ」「わくわくする、元気が出る」ように現場にたった記事づくりを進めます。また「読みやすい」誌面づくりとしても判型を大きくし、写真やイラストを多用し、文字も一回り大きくし読みやすい紙面にします。
梶井 具体的にはどんな企画が登場しますか。
柳楽 とくに元気の出る企画としては特集企画や「立松和平の元気探訪」。立松氏が元気なJAを訪ねます。初回はお話のあったJA北信州みゆきです。
役に立つ企画として「ライフプラン&家計簿運動」としての「夫婦で知る年金」や「まんがマネー講座」「介護こんなときどうする」。「年金」はLAの方が活用できるように全中、全共連、農林中金の協力を得てセミナーのテキストとして活用。
表紙に著名人も登場しますが、「食」「農」「家族」についてもインタビュー。12月の小林幸子さんもお米への思いを語っています。表紙登場を契機に食と農の応援団に。
JAの土づくりに「JAなるほど講座」「やってみようJA女性組織」。梶井先生ご指摘の女性参画の点で言えば、JA女性組織の「女性組織参画促進強化月間」にあわせて「かわろうかえよう宣言」に基づいた学習計画も進めます。
とくに食の安全が問われる中、スローフード、スローライフ、地産地消などに関心が高く、やはり地域にある自分たちの農産物をいかに食として食べていくのかという視点から、たとえば料理記事でも都会の料理雑誌と違い、身近な素材を食べる記事といった地域に根ざした雑誌という視点をより強化したいと思っています。
◆地域の元気を全国へ
梶井 地域に根ざすといえば、地区版があるというのは他誌にない大きな特徴ですね。
柳楽 7版ある地区版は身近な話題が載っているページというだけでなく、自分たちが登場する場にもなっています。私たちの雑誌だ、というイメージをもってもらえています。
雑誌の情報というのは単なる情報というより、それがどれだけ活用されたかということだと思います。たとえば、地産地消も今では全国に広がりましたが、最初は女性部の青空市であり、それを「がんばれ、お母さんたち。」という企画で紹介した。その情報が各地で活用されていって広がっていったわけですね。
JAを基盤とする雑誌として、JAの良さ、JAの事業のことを伝えることも大きな役割です。たとえば、JA共済についても単なる商品特性でなく、事業の仕組みも伝えます。保険会社は都市にそのお金は集まっていくが、JAの場合はきちんと地域に戻ってくるということなどですね。梶井先生がご指摘されたように組合員に対するJAの事業の教育ということを誌面を通じて伝えることも重要だと考えています。
連続する台風被害と新潟中越地震の被害にあわれた皆様に心からお見舞い申し上げますとともに、誌面においても、一日も早い復興につながる企画を取り上げます。
元気になるために役立つ本づくりをしていきたい。教育が現場で実践されるよう努力していきたいと思います。
梶井 ご活躍を期待します。ありがとうございました。
インタビューを終えて
“寔(まこと)に精神的方面の組合的訓練を忘れては、産業組合は無いも同然なり。…”
これは『家の光』が創刊されたそのときの会頭・志村源太郎の著書『産業組合問題』の結びの言葉である(家の光協会刊「協同組合の名著」第3巻292ページ)。効率的経営に腐心するあまりに、“無いも同然なり”と志村を嘆かせるようなことになっていないか、今日のJA経営の衡に当たっている人たちに、常に心がけていてもらいたいと私は願っているのだが、その見地からいって、組合員教育を重視した志村の方針を今に受け継いでがんばっている家の光協会の諸事業を、多くのJAで是非活用してほしいと思う。
とくに『家の光』誌について考えられている80周年を記念しての内容革新は、同誌を一層魅力あるものにすると、常務の語られるところを聞いて感じた。対応して『地上』等も変わっていくのだろう。JA教育文化事業の担い手としてのさらなる活躍を協会に期待したい。
(梶井)
|
関連記事:
80年の歴史−『家の光』と(社)家の光協会−
(2004.11.1)