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特集 新生農薬会社始動 協友アグリ |
座談会 系統中核メーカーとして日本農業に貢献する |
より安全・安心な農産物の生産をめざしてを |
淺山哲夫 協友アグリ(株)社長 北本孝也 JA全農常務理事 多田正世 住友化学(株)常務執行役員 (司会) 坂田正通 本紙論説委員 |
坂田 農業・農協を巡る情勢が厳しいなかで、新会社が設立されましたが、その背景と経過を北本常務からお話いただけますか。 北本 農業事情もそうですが農薬を巡る状況も厳しいものがあります。とくに、昨年の農薬取締法の改正、そしてマイナー作物の問題もあり、消費者の安全・安心というニーズにどう応えるかが課題となっています。また、生産者も作業軽減とか環境への配慮した防除の取り組みといった要望も高まっています。つまり、消費者にも生産者にも目を向けた農薬事業が求められているわけです。そして、農薬業界も外資系メーカーが直接参入するなど、国内メーカーの再編も急速に進んでいます。 ◆原体メーカーから脱却し、より農家に近いところで営業活動を 坂田 多田常務、住友化学としてどうして全農と提携することにしたのかをお話いただけますか。 多田 基本的な考え方は北本常務のお話の通りです。そのうえで、住友化学として、なぜ、全農なのかを少しお話します。住友化学としては、農薬事業はライフサイエンスの一環として、コアビジネスとして育てていこうというのが、社の方針です。この分野には研究投資・営業投資あるいはM&A投資など、積極的な投資を進めてきました。 坂田 多田常務は以前から、ビジネスモデルとして農協システムを評価されていますね。 多田 私どもでは、さらに農家の利便性、あるいは他社との差別化をはかるために、農薬だけではなくて肥料や農業資材を住友化学の農業用関連資材グループとして集約して、農家のニーズに応じた形で提供していく営業体制を整備しつつあります。私たちは、これを「問題解決型ビジネスモデル」といっています。 ◆従来のパターンでは展望はない――充実した園芸剤 坂田 淺山社長、八洲化学としては事業の再構築ということになるかと思いますが、新会社発足の意義についてお話いただけますか。
淺山 お二人からもありましたように、現場が非常に厳しい状況にあります。そのなかで、農薬販売会社として旧来のパターンでは、もう展望が持てないというのが、私たちの認識です。生産基盤の縮小とか価格競争とかいろいろな課題がありますが、展望が持てない理由をあえて二つに絞ると、一つは、食の安全へのニーズの高まりです。これへの対応が現場レベルで不十分だと、系統メーカーとして認知してもらえません。 坂田 淺山社長、いままで扱っていなかった剤が協友アグリで扱えるようになり、園芸部門で全農の負託に応えられるようになるわけですね。 淺山 そうです。 坂田 具体的にはどのようなものがあるのでしょうか。 淺山 とくに住化武田から百数十剤を移管していただき、園芸剤も相当数あります。現在、全農も入っていただき各県ごとに来年度の事業検討会を行なっていますが、そのなかでも各県から園芸剤への大きな期待が寄せられています。 ◆農薬は「買い手市場」 坂田 多田常務、農薬メーカーは国内だけでは生き残るのが難しくなってきていると思いますが、そういう面で、住友化学はどういう戦略・戦術をお考えですか。 多田 まず、日本の農薬マーケットをどう見るかですが、栽培面積は簡単には増えないだろうし、減農薬の流れを阻止することも難しいと思いますので、農薬の販売が増えることは考えにくく、漸減または横ばいというのが私ども見方です。 ◆国内は総合、海外はニッチで 多田 それでは住友はどうするのかということですが、世界はニッチマーケットで、国内は総合力で、という考え方です。 坂田 それはなぜですか。 多田 例えば、シンジェンタやバイエルはヨーロッパでは圧倒的な強さを持っていますが、アメリカでも圧倒的かというとアメリカではモンサントが非常に強いわけです。つまり、世界の大手企業はホームマーケットで圧倒的な強さを発揮しているわけです。ホームマーケットで強くないと世界では戦えないということです。 坂田 農薬は「買い手市場」というご指摘がありましたが、北本常務、生産資材コスト低減という観点からみて、どうお考えですか。
北本 経済事業改革を進めるなかで、農家により低価格で農薬や生産資材を提供することが課題になっています。農薬でいえば、すでに全農がメーカーと共同開発したMY―100とかジェイエースさらには大型規格品などを実現してきました。 ◆農薬は適正使用されれば、安全 坂田 農家の人と話をすると、農薬取締法改正で、最近は農薬があまり効かなくなったとときどき聞くんですが… 淺山 最近の農薬は、環境や安全に配慮して、特定の病気や特定の虫にだけ効くようにし、その周囲にいる天敵への影響が少ないように開発されています。ですから、予定外の病気や虫を殺すような農薬は敬遠されますからね。そういう意味ではないでしょうか。 坂田 消費者と話すと、農薬を毒だと考えている人がいる一方で、必要だと思うけれど自分のところで食べるものには余り使って欲しくないという人もいますね。多田常務は、農薬工業会の会長もされていますが、農薬の安全・安心について、どのように考えておられますか。
多田 安全で環境にやさしい農薬を提供するのは、メーカーの責任であり、使命だと思います。日本では、農薬取締法でそういうことが担保されているわけです。ですから、法律やサイエンスの世界では、農薬事業が安全・安心を害する事業といわれることは絶対にありません。ただ、生活排水に比べると微々たるものですが、農薬が環境に対し何らかの負荷を与えるというのは事実で、このため環境中で安全な形に分解しない農薬は認可されないのです。 ◆生産現場の情報を消費者に伝えることが大事 坂田 メーカーがいうとなかなか信じられない面もあると思いますが、全農ならどうでしょうね。 北本 なるべく使わない方がいいという方々には、「全農安心システム」でそうしたニーズに応えていくのも全農の一つの考え方です。もう一つは、日本の食料自給率をこれ以上下げるわけにはいかないわけです。多田常務もいわれたように、農薬の安全性は農薬取締法で担保されているわけですから、使用場面でどう適正に使うかです。JAグループは、JAにも県段階でも営農指導部門がありますから、農家に対して的確な指導をすることが可能ですし、それが安全・安心につながっていくのだと考えています。 坂田 総論だけではなくて、例えばキャベツのどこをどう洗えば、多少農薬がついていても安全だというような、消費者の台所に立ってのPRとかをされたらどうですかね。 北本 生産現場の情報が、消費者にあまり伝わっていないんですね。「全農安心システム」は、栽培情報が分かるシステムですから、こういうことを普及して消費者に正しい情報を提供していくことが大事ですね。 ◆IPM剤が揃っているのは協友アグリだけ 坂田 最近、生物農薬を含めた総合防除・IPMということがよくいわれますが、協友アグリではこれについてはどう取り組まれていくのでしょうか。 淺山 IPM候補剤が総合的に揃っているのは、協友アグリだけだという自負心をもっています。交信撹乱剤としてのフェロモン、それから住友化学から移管していただきました天敵。そして以前から扱わしていただいているBT剤。住友化学がIPMを志向して新しく開発したプレオ剤。こういうものが揃ってはじめてIPMが実証的な事業としてできるわけです。 ◆農・人・環境のハーモニー 坂田 協友アグリのアウトラインについて、ご説明いただけますか。 淺山 11月1日に発足しました。社名は、農協の「協」と住友の「友」をいただき、農薬だけではなく農業全般という意味を込めて「アグリ」としました。 坂田 事業の概要は… 淺山 新しい会社ですので、イメージを一新したいということで、「農・人・環境のハーモニー」を会社のイメージにしました。「農」は、農業であり、農作物です。「人」は、生産者はもちろん、消費者までを考えています。「環境」は食の安全・安心を意味しています。これを新会社のイメージとして、これから内容を充実させていきたいと考えています。 ◆系統農薬事業の中核を担える農薬メーカーとして期待 坂田 系統中核メーカーになるということですが、他にも系統メーカーがありますが、そのあたりの位置づけは北本常務はどうお考えですか。 北本 系統メーカーは3社あり、全農の農薬事業では6割弱を占めていますが、農薬市場全体では2割強のシェアだと思います。系統メーカーの支援・協力が私どもの農薬事業の強化に結びつくと考えています。そういう意味で、協友アグリの発足によって、IPMとか受託防除など農家のニーズや時代の流れに沿った分野の取り組みを強化して、系統事業にプラスになると考えたわけです。 坂田 住友化学は、協友アグリにどんな支援・協力を考えられていますか。 多田 新しい系統メーカーである協友アグリに期待することは三つあります。 ◆普及アドバイザーを充実しより現場の近くで 坂田 淺山社長は、新たに住友グループの社員を迎え入れて、会社としてはどんな運営を考えられていますか。 淺山 旧来の系統メーカーのあり方では展望はないと最初にも申しあげましたが、剤も人やその人たちがもっている英知という財産もいただいたわけです。八洲のもっている良い面もありますから、それぞれのもっている良い面を活かして欲しいと私は申しあげています。 坂田 普及アドバイザーを含めた協友アグリの第一線の人たちを、JAグループは受け入れ、支援していくのですか。 北本 農協や県段階には営農指導員がいますが、環境や安全性についての農薬の専門的な知識を持った人が農家を支援しないと、農家にも消費者にも受け入れられない部分がありますね。ですから、ぜひ一緒になって協力し合うことが良いことではないかと私は思いますね。すべて自分だけでやりとげることは不可能だと思います。 ◆全農・住友の提携で日本農業に貢献できるベースが 坂田 JAグループの農薬事業が弱いといわれるのは、専門知識をもった人が少ないからですか。 北本 農薬事業そのものが、時代の変化や食の安全性ニーズの高まりのなかで、様変わりしてきていると思いますね。そういうなかで、メーカーとも一緒になって、日本農業の発展のために、消費者のために、取り組むことだと思いますね。 坂田 多田常務、外資が参入してくるなかで、国内メーカーが生き残るにはどうすればいいのでしょうか。 多田 外資系は日本の従来の考え方からみれば、非常にユニークな経営戦略をとります。それは農薬だけではなくて、全産業に共通することです。一つは、規模の追求です。もう一つは、4半期とか短期の利益や経営効率を追求することです。この二つの原理で動いているものと推察します。 坂田 住友化学は逃げない… 多田 私たちはこの事業に賭けていますから、全農と提携できたことは大変に心強く思っています。そして、日本の農業に貢献できる本当の意味でのベースができたかなと考えています。そして、一方的かもしれませんが、これを第一歩にして提携を広げていければというのが、住友化学の思いです。 坂田 輸入農産物が増え、日本の農業が危機だといわれていますが、北本常務はどうお考えですか。 北本 海外の原体メーカーの人たちも、高品質で食味の良い日本の農業は落ち込むことは考えられないといいます。そういうことで日本に対する戦略をもって参入してくるわけです。私たちも、自給率向上のために一所懸命やるのが、使命だと考えています。 ◆熱いエネルギーを現実のものとして 坂田 最後に淺山社長から、決意をお願いします。 淺山 いろいろな品目の剤を移管していただき、売上高では200億円弱くらいのベースでスタートしますが、株主やJAグループからのさまざまな負託を考えれば、系統中核メーカーとして、相当早くシナジー効果を出して、大きく飛躍していかないといけないと思います。そういうシナジー効果が十分に見込めるだけの、皆様からの力強いご支援もいただいておりますので、地域ニーズを的確に捉え、小さな信頼関係を着実に積み上げ、新生・系統中核会社として系統組織の認知を早く受けたいと考えております。
(2004.11.9)
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