農業協同組合新聞 JACOM
   
特集 全農大消費地販売推進部がめざすもの

インタビュー 
ますます重要になる直販事業を強化
「全農安心システム」を核に、産地と消費者をつなぐ事業を展開
小野 正 JA全農大消費地販売推進部長
インタビュアー:白石正彦 東京農業大学教授

 米の流通が自由化されたことに象徴されるように、従来とは異なるJAグループにおける販売事業のあり方が問われているといえる。食の安全・安心、新鮮・美味を求める消費者の国産農畜産物への期待は大きい。そして量販店など流通業界は外資系企業の参入などにより生き残りをかけた厳しい競争にさらされている。こうした状況のなかで、品目を横断し総合的に直販事業を展開する全農大消費地販売推進部(販推部)の果たす役割がますます大きくなってきている。最近は「食と農の祭典」開催や直営店舗の開設など「消費者の もっと近くに」を積極的に実践する取り組みを行なっている。そこで、小野正販推部長に、現在のマーケット動向とこれから販推部が目指すものを聞いた。聞き手は白石正彦東京農大教授にお願いした。

◆厳しい過当競争 繰り広げる流通業界―消費者ニーズに対応し国産重視の動きも

 白石 販推部は全農の販売力を強化するために、米、畜産、園芸、加工品まで品目を横断して、量販店や生協に総合的に販売をしていく役割を担っているわけですが、そうした立場から、最近の量販店や生協の動向をどうみていますか。

 小野 大きな流れとして、まず、飽食の時代といわれますが、食品の消費は増えていかないとみています。それから、量販店、生協、CVS(コンビニ)など流通業界は、外資系小売の参入などによってオーバーストアになっています。さらに今年になって過去最高の出店ラッシュがあり、流通業界は過当競争にあるといえます。この飽和状態の国内市場をどう攻略していくのかが、流通各社の最大のテーマになっています。
 一方、消費者の食に対する動向のもっとも特徴的な点は、(1)簡便化、外部化、(2)必要なものを、必要なだけ買うという無駄のない買い方、(3)グルメ化とか健康志向があげられます。最近はこれにプラスして、(4)トレーサビリティや特別栽培農産物など、安全・安心なものを食べたいという意識が急速に高まっています。それから、地産地消とかスローフードなど、食と農を接近させる動きや日本の伝統的な食と暮らしの良さを見直すとか、環境との調和を考える動きが、消費者だけではなく流通業者のなかにもでてきています。

 白石 量販店やCVSの動向はどうですか。

 小野 量販店の動向の特徴は、一つは、数量・価格・品質の安定を基本にしながら、安全・安心それから環境に配慮した商品開発に相当に取り組まれてきています。例えば、イオングループの「グリーンアイ」のようにですね。それから、従来の低価格路線だけではなく、こだわりをもった「ワングレード・アップ」した商品政策に転換していく流れがでてきています。
 CVSも毎年1000店舗近く増やす会社もあり、過当競争ですね。

 白石 外食や中食の動向はどうですか。

 小野 ファミリー・レストランを中心に急成長してきましたが、ここにきて飽和状態になり、利用客数が減少して、過剰になっています。中食は、主婦のみなさんがパートを含めて働きにでることは避けられませんから、拡大していくと思います。

 白石 そういう人たちが、CVSとか弁当屋などを利用するわけですね。

 小野 そうですね。CVSや外食の食材はほとんど輸入食品が主力になっていますが、最近は、単なる安さだけではなく、美味しさとかを打ち出すところが多くなってきています。例えば、セブン・イレブンでは、国産にこだわった弁当とか惣菜を開発していますね。

◆全農の機能活かして 青果物、畜産物などで取引を拡大

小野 正 JA全農大消費地販売推進部長
小野 正
JA全農大消費地販売推進部長

 白石 全農との取り引きが伸びてきているところの特徴としてはどういうことがありますか。

 小野 青果物や畜産物の取扱量が大きくなっていることが共通した特徴だといえますね。青果物についていえば量販店の場合には、ストア・ブランドが主流ですが生産者の顔写真をつけた顔の見える農産物とか、地場野菜を取り込み、安全・安心とか地産地消を前面にだしてアピールするケースが多いですね。

 白石 生協の場合には…。

 小野 例えば、コープこうべの場合には、コープこうべが新たにつくった物流センターでの青果物パック事業を全農が担うことで、新規事業が拡大しました。それから、鳥インフルエンザの発生で、全国に産地をもっている全農の強みが活かされて鶏卵の取り扱いが増えたこともあります。コープネット事業連合の場合には、最新のコールドチェーンシステムを導入した首都圏青果センター東京(埼玉県戸田市)での共同事業が伸びていることと、畜産物で在庫管理とかを提携して事業を行なっていることがあります。ユーコープ事業連合も個配機能を首都圏青果センター大和が担っており、青果物取り扱いが伸びています。畜産物では店舗向けのパック肉製造を担っており伸びています。

 白石 一つのフードシステムとしてつないでいく機能を全農がもっていて、それを活かしているということですね。

 小野 直販事業は、物流を含めてきめ細かな対応をしていかないと継続していきませんね。

◆時代にマッチした「全農安心システム」をさらに拡大

小野 正 JA全農大消費地販売推進部長

 白石 最近は、安全・安心の問題や表示についての関心が高くなっていますが、そうした点についてはどう取り組まれているのでしょうか。

 小野 いまの量販店などの仕入政策をみますと、安全・安心についてはトレーサビリティは当たり前であり、それができる仕組みを持っていないところとは取り引きをしないところまで求められてきています。
 全農が業界に先駆けて進めてきた「全農安心システム」の第1号認証は平成12年7月です。そして15年度から本格的にこれを推進して、今年10月現在で、認証産地が118でJA数では81JA。法人が6、加工場が53、取引先が50となっています。品目別では米が80産地、園芸が26産地、農産加工が5産地、畜産が5産地、酪農が1産地です。
 トレーサビリティについては、ICタグとか2次元バーコードなどのツールが試験されていますが、コストが高いとか、IDコードの統一化ができていないなどの問題があります。全農安心ステムは安価で産地負担が非常に少なく、産地の生産情報を開示する仕組みとしては完成されていますので、今後も積極的に推進して、当面、100JAに拡大したいと取り組んでいます。

 白石 関心は高いですか。

 小野 時代にマッチしたシステムですし、生産情報がキッチリ分かるものは安心感がありますから、関心は高いです。

 白石 表示の問題ではいろいろありましたが、取引先との関係では変化がありますか。

 小野 表示違反は許されないことですが、一連の問題解決をするなかで、農畜産物の場合は気候や需給などによる変動は避けられないということが、量販店や生協に理解されるようになってきており、いまでは、国産農畜産物の最大の供給者として、取引先とのパートナーシップを求められるようになってきています。

◆直営店舗「JA全農のお店」で販売のノウハウを蓄積

白石正彦 東京農業大学教授
白石正彦 東京農業大学教授

 白石 最近は、「食と農の祭典」の開催や直営店舗を開店するなど従来とは一味違った展開をされていますね。

 小野 いま経済事業改革を進めていますが、そのなかで生産者が一番期待していることは販売力の強化です。それに応えるために各JAはさまざまな直販を展開し、地域の消費者に受け入れられています。そうしたなかで全農がこうしたことを展開するのは、食の安全・安心を大消費地の人たちに積極的にアピールしていきたいからです。そして「消費者のもっと近くに」を自ら実践することで、販売のノウハウを蓄積することが一番大きな目的です。

 白石 直営店舗は初めてですね。店名は何というのですか。

 小野 そうです。店名は「JA全農のお店」です。

 白石 場所と売り場面積はどのくらいですか。

 小野 吉祥寺(武蔵野市)の駅から5分くらいの場所で、売り場面積は70坪です。ここでは生産情報をすべて開示し、安心システムを中心に、生産者の顔が見える農畜産物を販売します。さらに、国産にこだわった惣菜やおにぎりもガラス張りで消費者から見える調理場でつくって販売します。

◆手間ひまをかけても生産情報の開示が消費者の支持得る道

 白石 このほかには、今後どういう展開をしていこうと考えていますか。

 小野 現在、全国本部と直販関連会社の直販実績は15年度でおよそ4100億円(日本ミルクコミュニティ除く)です。販路別では量販店が58%、生協が33%、Aコープが3%、外食が2%、その他が4%です。
 これからは流通業界の再編やJA合併による産地の大型化、米の制度変更、そして卸売市場法改正もあって流通はより開かれたものになり、市場外流通がどんどん拡大していきます。そういうなかでは、全農も直販事業をますます強化していかなければいけないと思います。

 白石 そのときに、外食や中食への戦略はどうなりますか。

 小野 外食は輸入食材が中心だったために、私たちが一番弱い分野です。しかし、米国のBSEや鳥インフルエンザによって、全面的に海外に依存するのはリスクが高すぎるので、リスク分散のために国内も使うという動きが出てきていますので、販路として位置づける要素がでてきたと考えています。
 CVSとは国産を使おうということで相談をするところが多くなってきています。

 白石 私は、フードシステムとして生産者・JA・全農の役割があり、これらは一つのネットワークだと考えていますが、JAや生産者が今後、力を入れるべき点は何でしょうか。

 小野 消費者が国産農畜産物に一番求めているのは、輸入品よりも価格は割高になりますが、安全・安心、そして新鮮さ、美味しさです。特に産地としては、安全面での信頼を一度失うと回復するのは大変という時代になったので、生産情報を開示する取り組みを手間ひまかけてもやっていくことが、いま一番求められていることだと思います。その上で、私たちは大消費地で販売しているので、JAや県本部は、地産地消などエリアにおける直販事業にもっと力を入れていくことだと思いますね。

 白石 今後、FTAなどで垣根が低くなれば、国産農産物や加工品を輸出するようになる。そのときに、消費者に受け入れられるノウハウの蓄積がなければ攻められないと思います。そうした全農の新しい地平を切り開いていくための戦略拠点としての機能発揮ができるよう、ぜひ頑張ってください。

インタビューを終えて

 小野部長には1980年代初めに全中・全農・全漁連・日生協で組織された協同組合間提携事務局の委託調査の折に大変お世話になった。今年1月からは大消費地販売推進部長として、消費者に接近した生協、スーパー、外食産業等を対象に品目横断的に農産物の販売企画と全農安心システムの拡充に尽力されている。インタビューで担当部署が、一方で各産地の単位農協と全農の品目別各部署をコーディネートしつつ、他方で変化と競争の激しい小売等の業態に販売促進を図るため、大都市での農産物の物流配送施設の高度化並びに消費者やスーパー・生協等への信頼を高めるのに認証コストが安い全農安心システムの品目とその産地の拡大、さらに12月にはアンテナショップとしての直営店の開店など意欲的な取組み実態を伺うことが出来た。今後、農業者の思いと消費者の思いを大切にし、両者の思いが重なり合う全農らしい農産物ブランド品を多元的かつ個性を発揮した流通システムの持続的革新によって、国内に加えて中国、韓国等の大消費地への輸出も視野においた21世紀型農協連合組織への挑戦を期待したい。

(白石)
(2004.12.13)


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