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特集:トレーサビリティの確立で信頼回復を
    14年度畜酪対策を考える

鼎談
トレーサビリティ確立で信頼回復を
14年度畜産・酪農 対策を考える
(出席者)
中村祐三 全国農業協同組合中央会常務理事
矢坂雅充 東京大学大学院経済学研究科助教授
梶井功 前東京農工大学学長・同大名誉教授

中村祐三氏・矢坂雅充氏・梶井功氏

 牛海綿状脳症(BSE)問題の調査検討委員会報告は、日本の安全対策を「国際的に最も厳しい」と高く評価し、と畜場から出る食肉は「安全なもののみとなった」と太鼓判を押したが、マスコミはそこに着目しないで「重大な失政」の部分ばかりをクローズアップしている−−などと座談会は同報告をめぐる問題を掘り下げた。消費回復対策では生産履歴をガラス張りにするトレーサビリティについてコスト問題も議論した。とにかく畜産生産基盤の縮小が心配され、JA全中はBSE発生後の酪農・畜産農家の経営動向調査にかかった。それを踏まえて打つべき手を早く打つとのことだ。話題は▽フードチェーン思考▽安全食品づくりに対する消費者の能動性▽協同組合精神の自覚、など多彩だった。最後には水田転作における飼料米づくりの提起などもあった。

◆BSE対策はひきつづき14年度も継続

中村祐三氏
(なかむら ゆうぞう)昭和19年東京都生まれ。東京大学農学部卒業。42年全購連入会、63年全農本所総合企画部企画課長、平成4年東京支所米穀部長、6年本所米穀総合対策部次長、8年本所パールライス部長、9年大阪支所長、11年より現職。

 梶井 3月28日に決まった平成14度の畜産物価格と関連対策をJAグループはどう評価されているかを、まずお聞かせ下さい。

 中村 全体として現場の実態を踏まえたJAグループの要請が、ほぼとり入れられ、総額では牛海綿状脳症(BSE)対策で2064億円、価格関連対策で約800億円が措置されましたから、評価できる内容だと思っております。
 14年度の畜産酪農対策は従来と違った特徴点がいくつかあります。
 当初、秋の運動展開を予定していましたが、昨年はBSEが発生したため、今回は今年3月に持ち越されたという点が1つあります。
 それからBSE対策は13年度対策として実施されていましたから、14年度対策として継続する必要があったこと、また、価格関連対策にBSEの影響を反映する必要があったことが2点目の特徴です。
 3点目には虚偽表示事件があって食品の安全性や表示が課題になったという特徴点があります。

 梶井 BSE対策費の中身についてはどうですか。

 中村 BSEマル緊(肉用牛肥育経営への緊急支援)などをはじめ前年度からの事業が継続になりました。
 また、対策の拡充・強化もいくつかあります。つなぎ資金(BSE対応運転資金)は償還期限が前年度は1年以内でしたが、それでは短いという我々の要請で、別建ての新資金として償還2年以内の無担保無保証人融資ができました。
 一方、BSE発生農家には経営支援なりがありますが、発生地域に対しては風評被害を受けた時などの対策がないため、対策を要望しました。これについては具体化を検討中です(4月18日、追加支援決定)。

梶井功氏
(かじい いそし)昭和元年新潟県生まれ。東京農工大学教授、東京農業大学教授、東京農工大学学長を経て、東京農工大学名誉教授。主な著書に『梶井功著作集』(筑波書房)、『日本農業のゆくえ』(岩波書店)、『もう一つの農政論』(農林統計協会)などがある。

 梶井 価格関連対策についてはいかがですか。

 中村 BSEの影響が生産費などに反映されるのかどうかが焦点の1つでしたが、加工原料乳の補給金単価がキロ当たり70銭上がって11円になったことが評価できます。
 また、食肉の安定価格や子牛の基準価格などは据え置きとなったほか、関連対策として、新たに優良後継牛の緊急確保対策で1頭3万円がつくことになり、廃用牛の出荷促進にもつながると思います。

 梶井 牛肉の消費回復をはじめ今後の課題についてはどうですか。

 中村 全頭検査がされているんですが、なかなか回復しません。出荷滞留の解消や、下落した価格の反転も根っこは消費回復ですから、何とか好転してほしい。これが1つの課題です。
 そのためには、感染原因の究明はきちんとやってほしいと思います。これが第2の課題です。
 3つ目の課題は畜産農家の経営問題です。価格下落に対してはBSEマル緊などの補てんがありますが、これは所得が減った分に対する補てんで、かつ100%ではありませんので、経営的に厳しい状況だと思います。今後BSE発生後の経営動向調査で実情をつかみ、必要ならさらに対策を考えなければならないのではないかと思います。
 さらに関連課題としては、加工原料乳の補給金単価は上がったものの、これは生乳価格の7分の1の部分です。残り7分の6は今後、生産者団体と乳業メーカーの乳価交渉待ちになります。
 4つ目は滞留している廃用牛の対策です。これは農家が発生を恐れていることと、と場側の受け入れ体制が十分でないことの2つの要因によります。今後は発生地対策の実施によって農家の出荷が促進されるよう願っています。と場のほうは3月末で、受け入れていない県が16、また100%近く受け入れている県が10、残り20県が1部受け入れという状況です。政府で早く促進対策を進めてほしいと思います。
 5つ目は肉骨粉処理です。現在は1日約900トンの肉骨粉製造量に対し焼却能力は約600トンだといいます。しかしセメント製造工場等で焼却処理の拡大を急ぐべきです。
 最後に食品の安全・安心対策の強化と適正表示も大きな課題です。

◆トレーサビリティ確立へ地道に取り組む

 梶井 矢坂さんは、中村常務の評価をどう思いますか。

矢坂雅充氏
(やさか まさみつ)昭和31年東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科中退後、同大学経済学部助手を経て現職。論文等に『日本における農業の多面的機能』『農協と流通』『農業補助』『畜産政策改革と基本計画』などがある。

 矢坂 私からもお聞きしたいと思います。予算の多くがBSE関連に配分されましたが、そのためにワリを食って通らなかった対策とか、いずれ復活しなければならない政策についてどう考えておられますか。

 中村 BSE対策のためにその他の対策が削られたということはありません。BSE対策のほとんどは、牛肉の輸入差益などを財源とする畜産振興事業団の指定助成事業があてられています。欧州の例では発生から1年ほどで消費が回復していますが、財源確保の面からも、日本の場合もそうなることを祈ってます。

 矢坂 今、問題になっているのは「安全」というよりは「安心」です。そこで消費回復策の具体化のために消費者に訴えていく生産者団体の役割が非常に重要だと思います。緊急対策措置の期間が1年から2年へとずるずる延びると予算が尽きてしまいます。危機感を消費者と共有する必要があると思いますが。

 中村 JAグループのなかで虚偽表示事件が発生したのは残念だし、信頼を傷つけたという意味で申し訳なく思っています。そこで難しい課題ですが、トレーサビリティの確立に地道に取り組んでいかなければなりません。また政府のチェックや法律改正も必要です。そうしたことが信頼回復につながると思います。

 梶井 消費回復に関連して、BSE問題の調査検討委員会報告は、全頭検査によって「国際的に最も厳しい安全対策が実施され」「と畜場から出る牛由来産物はすべて安全なもののみになった」と高く評価しています。ところがマスコミは、ここの部分をほとんど取り上げていません。
 「高く評価できる」という部分もきちんと解説するよう全中としても注文をつけるべきですよ。もう1つ、少し前の某新聞の報道に魚沼コシヒカリが生産量の7倍も出回っている、これは生産者のごまかしだ、というのがありました。生産者のごまかしなんて、とんでもない。報道はもっときちんとすべきです。

◆乳価交渉は作る側と売る側で妥協点を

 矢坂 話は戻りますが、事業団の資金を取り崩しながらBSE対策が継続されました。そこで、どこかで早く市場を回復しないと、資金手当てが難しくなりますが、そういった情報も流されていませんね。生産者もJAも早く何とかしなくてはいけないという認識が持てないといった感じがあります。緊急避難的なBSE対策を、どこかで、どう平常時に戻すかが重要だと思います。
 乳価についても昨年度から始まった新しい乳価の形成の仕方よりも緊急的に酪農家のBSE被害を救わなければいけないという意識が強くあります。その結果、乳価交渉も生乳取引も、雪印乳業の問題もありますが、これまで考えてきた市場のシグナルとなるような価格形成という議論がいったん外側に置かれるということになる傾向はないのでしょうか。

 中村 新しい算定方式は客観データに基づく変動率方式で決定されましたから、BSE対策によって、新しい算定方式が外に置かれたということはないと思います。

 矢坂 従来の不足払い制度では、組織化され、大きくなってきた生産者団体と、寡占化した乳業メーカーの中で、うちうちで決まっている側面がややありました。そこで、もっと透明性のあるものにしたい、また政治問題で毎年変わるようなことはやめて一定のルールをつくろうということで不足払い制度改革が始まりました。しかしBSE対策のほうがまず重大だとして、これまで数年かかって議論され、スタートを切った生乳取引のあり方や価格形成への取組みが少し横に置かれることにならないかと心配です。

 梶井 横に置かれることになるとは必ずしもいえないと思いますけれど。

 中村 今年の乳価交渉が難しいのは事実でしょうね。生産者サイドではBSEの影響をふまえ、値上げしてほしいし、一方乳業メーカーも経営が厳しいと聞いています。

 矢坂 今の対立ですと、妥協の根拠がなかなか生まれず、折り合っても双方に不満を残したままです。BSE問題でも牛乳の安売りにしても作る側と売る側に対立があります。相手を説得し、理解してもらって妥協点を見出すという新しい交渉のあり方ができないものでしょうか。
 欧米でも小売業者が非常に強大化し、生産者団体も大型化していますが、結局はそれぞれが団結するだけで、市場が活性化しなくなるという危機感が高まっています。そうなると利益が上がらず、ますます市場が停滞し、生産者も誇りを持てなくなって、革新的な生産者がなかなか出てきません。そういう悪循環を断ち切る必要があります。
 EUでは小売業者がリーダーシップをとる傾向がみられますが、日本の場合は生産者団体が先導的な役割を担えるかなと思います。このままでは消費者が求めるものを安定的に供給できなくなるという共通の危機感を価格交渉の中でも出すべきだと考えます。

◆BSE発生の原因をもっと分析したほうが

 梶井 これからの乳価交渉について、お考えはどうですか。

中村祐三氏

 中村 乳業メーカーは生乳の生産基盤が縮小したら困るし、生産者はメーカーがつぶれては困るという持ちつ持たれつの共通認識を持った上での交渉になるかと思います。

 梶井 先ほど話に出た経営動向調査に基づく対策が重要ですが、調査対象は肉牛、酪農すべてですか。

 中村 そうです。主産県から約400戸をピックアップしBSE発生後半年余の動向をつかみます。

 矢坂 農水省・中央酪農会議の大家畜経営の調査とは関係なく実施するのですか。

 中村 JA全中が県中央会に頼んで独自で今やりかけています。

 矢坂 大家畜調査はBSE対策の裏側で昨年度で打ち切りになりました。残しておいたほうがよかったのに。

 梶井 BSE問題の波紋ですね。調査検討委員会の報告を読んだ感想は中村常務、いかがですか。

 中村 英国で発生した後の欧米などの対応に比べて日本の危機意識の欠如や危機管理体制の弱さに対する指摘は私もその通りだと思います。厚労省との連携が不十分な点も同感です。新しい食品安全の行政組織の提起も、その通りかなと思います。

 梶井 ほかの政府審議会などの報告と違い、委員自身が検討をまとめ原稿を書いたなど報告書の作り方が良いと新聞は評価していますね。

 矢坂 報告書のうち I 部は行政対応の検証ですが、ここでは畜産に限らず、官庁のコミュニケーションの悪さを感じました。同じ問題の左右を扱う場合に各省庁がどう合理的に連携し、食い違いがないようにできるかが問題です。私は食品安全庁的な組織をつくることに賛成ですが、コミュニケーションの悪さを放置したままでは問題に対応できません。
 II 部は行政対応の問題点と改善点で、マスコミはこれにばかり着目しています。しかし農林族とか省庁間などの一般的な話よりも、もっとBSEに絞り、なぜ、こんな問題が起きたかを深く分析したほうがよかったと思います。
 III 部は今後の食品行政のあり方で、主に欧州各国の食品安全機関の再編成の基礎となった食品の安全性を確保するための一般的な考え方を紹介しています。残念に思うのは日本の中で、そういうものをどう仕組むのかを、もっと気にかけてほしかったということです。
 全体としては責任の所在の追及に執着したり、欧州での議論に力点が置かれています。それよりも食品の安全性を確保し、その信頼性を保つという課題を社会的な意識改革に引き上げていくためにどういう政策のインフラが必要になるのかという議論の種を播くことが期待されていたと思います。そうした問題はこれまで企業レベルのもので、社会的問題としては余り議論されませんでした。

◆高度成長以降は消費者重視の農政になった

 梶井 それに関連して偽装表示事件では欠品を恐れたという問題があります。農畜産物には不可抗力的に欠品が生じますから、そこをはっきり伝えるべきでした。生産者だけでなく消費者も安心なものを作る主体に入っているということをもっと強く押し出さないとだめです。報告書は消費者の視点を強調するだけでなく、安心できる食生活を送るには消費者自身がどうしたらよいのかという問題も指摘しておくべきだったと思いますが、そこが欠けています。

 中村 報告書の中に、生産者優先、消費者軽視の行政対応を厳しく批判していますが、新しい基本法には消費者重視が盛り込まれていますから、少し厳しすぎる指摘かなと思います。

 梶井 戦後の農政も、高度成長以後は消費者重視の行政ですよ。そもそも食管会計が赤字になったのは、消費者米価引き上げで物価を上げてはいけないという消費者対策で米価を抑えてきたことも大きく影響している。それをあたかも農民保護のために赤字になったときめつけたんです。消費者米価を上げるなといったのは物価問題懇談会座長の中山伊知郎先生です。それで食管赤字に輪をかけたんです。
 それから野菜対策も生産者対策というより、消費者対策でした。とくに大都市の消費者対策として野菜の暴騰を抑えてきたけれど、暴落対策はなかった。だから消費者無視という議論には異論があります。60年代以降は消費者に視線を当てた農政でしたよ。

 矢坂 消費者重視をいう場合、消費者への情報量を増やすとか消費者の意見が伝わるルートをつくってほしいとかいう手法の充実をいっているような気がします。しかし、すべての情報を生で流せば消費者は混乱しますから消費者の求める情報を整理して流すといった新しい情報提供のあり方を考える必要もあります。

 梶井 その点、新基本法以後は違っていると思います。農水省には消費者の部屋があって誰でも入れるし、ほかの省庁に比べ、これなんかは農水省のいいところですよ。
 それから報告書には「農場から食卓までのフードチェーン思考が欠如している」とありますが、これは確かにそうです。チェーンという形で把握し、政策を立てるという点では非常に弱かった。

 矢坂 自分を信頼してくれる消費者と直接結びついて、自分が工夫して作った品物を届け、それを高く評価してもらいたい、そのためには所得が少々下がってよいとまで考える畜産農家が増えています。これは経済成長を前提とする時代ではなくなったことの反映だと思います。フードチェーンは、そうした生産者と消費者をつなぐ視点でもあります。
 トレーサビリティで消費者に信頼され、愛される道筋を開けば、それは生産者の生きがいにつながります。ただトレーサビリティによって監視されているとか、マニュアルを守らなければペナルティがありますよといった受け取り方をされないように運用することが大切です。

 中村 そういった意味で地産地消やファーマーズマーケットもそれにつながる取り組みだと思うし、各JAでの取り組みが必要です。

◆JAグループも信頼回復に全力あげる

矢坂雅充氏

 矢坂 これからトレーサビリティはいろいろな作物に波及していくと思いますが、すべての作物に、これを設定するのは難しいですか。

 梶井 それは難しいですね。だから地産地消とかファーマーズマーケットなどの形で作り手と買い手の顔が見える関係をつくっていくほうが、お互いに安心できると思います。

 中村 トレーサビリティといってもピンからキリまであります。生育過程から残留農薬等まですべてチェックして、消費者に情報開示というのが本来のトレーサビリティでしょうが、まずは、簡単に出来ることからすすめていく必要があると思います。

 矢坂 トレーサビリティで高付加価値がつき、価格が上がるということはありませんね。欧州でもそうです。しかしイタリアなどではBSE問題の時もトレーサビリティを確保した牛肉は消費が落ち込まなかったという効果がありました。一方、高付加価値をつけるには別のオプションのある仕組みが必要になるわけですね。

 中村 トレーサビリティにはデータベースの蓄積や残留農薬検査のコストがかかりますから、消費者もそれを負担するという考え方も必要かと思います。

 矢坂 しかし消費者にコスト転嫁ができない場合は業界全体の効率性を上げて、そのコストを負担するという議論が必要になるでしょう。

 梶井 話は少しはずれますが、協同組合が提供する品物は安心だというのが本来のあり方で、ロッジデールの原則も市価主義でした。しかし品質は保証しました。そこが他の企業と違うところで、ごまかしはやらないというのが協同組合です。
 ところが今回は協同組合運動の模範とされていたような農協までが欠品を避けるため虚偽表示をした。あってはならないことですよ。協同組合としての自覚がたるんでいたんじゃないかと思うんです。

 中村 そこで信頼回復に向けての取り組みですが、JAグループ全体でも信頼回復の運動に全力を挙げなければいけないと全中は経済事業刷新委員会をつくり、外部の方々にも委員をお願いしました。
 実施項目は第1にJAグループ内の自主点検です。とくにJAS法に基づく表示の点検・管理などです。第2に経済事業の刷新で、事業方式の見直しとコンプライアンスの徹底です。第3はJAグループとしてのトレーサビリティの確立です。しかし、いっぺんに全部はできないので、できるところからやろうという方針です。すでに全中は安心・安全プロジェクトを立ち上げ、どういうところからできるかを検討し、各JAに提起していきます。

 梶井 その中に、ぜひ教育の課題を入れてもらいたい。協同組合はどういう姿勢で事業に取り組むのかを考えることが非常に大事です。

 中村 第2の実施項目のなかには役職員の意識改革という項も入っていますよ。

◆「教育」をきちんとして誇りと責任を

梶井功氏

 梶井 去年の農協法改正で私が一番不満なのは「教育」という言葉を落としていることです。技術および経営の「指導」になっちゃっているんです。昭和22年の農協法制定の時には「組合員に対する組合の事業に関する教育」という文言が入っていたんです。それが27年だかの改正で「技術および経営の教育」となり、去年は「教育」でなく「指導」になってしまったんです。とにかく農協人は企業と違った仕事をしているんだという誇りと責任を持たなくちゃいけないという気がします。

 矢坂 たとえば農協と銀行のどっちに預金しようか迷ったときに、協同組合のほうが悪いことをしないかも知れないという漠然としたイメージがヨーロッパにはあります。日本ではそういう感覚は薄らいでいるようです。株式会社と同じことをすべきだという議論のほうが多い。やはり協同組合は利潤追求の企業よりもう少し地位の高いものだという自負心が必要じゃないか。そういう社会のほうが住みやすいと思います。
 話は変わりますが、先ほど、JAグループとしてのフードチェーンをつくろうとしているように理解したのですが、その中では組織の問題が出てきませんか。

 中村 例えば青果物は8割以上が卸売市場への出荷です。そのため市場への出荷後の品物は生産者から離れます。その8割をどうフードシステムとするか。それは卸売市場流通をどう考えるかみたいな難しい問題に入り込んできます。なお市場外流通の直販も増えてきており、その拡大も必要です。

 矢坂 それからJAグループがたくさん子会社をつくりますと、本体の協同組合精神をどう伝えていくのか難しいと思います。一筋縄ではいかないという気がしますが。

 中村 多様化の問題では、組合員も多様化していますし、またJA合併も進んでいます。そこで課題になるのはJAと組合員の距離です。しかし合併しても距離が離れないで、きちんとやっているJAもあるわけですから、協同組合の原点に立ちかえって取り組むことが必要です。子会社も同じことです。

 梶井 組合員は多様化するし、組織のほうは効率的運営を求めて合併し、大規模化していかざるを得ない。そこで遠くなる距離をどうやって縮められるか難しいですね。それから営農指導にはカネがかかるのだから賦課金の問題を考えたほうがよいと思います。

◆改めて畜産生産基盤の再構築を

 中村 話は畜産に戻りますが、もともと畜産の生産基盤はやや縮小傾向にありましたが、BSE問題の影響で、さらに縮小していかないかと心配です。そこで改めて畜産生産基盤の再構築を考える必要があると考えています。その中では生産性、効率性の追求はやはり必要ですけれど、それ一点張りは見直さないといけないのではないかと思います。
 1頭当たりの搾乳量は世界有数ですし、もう少しゆとりある酪農を考えてもいいのではないかと思います。それから飼料の自給率向上は難しいけれど、水田転作で少しでも上げていくとかして、やはり循環型に切り替えていく必要があると考えています。

 梶井 水田に飼料作物を入れるといっても、飼料作物は流通できる仕組みにしないと水田に入ってきません。考えるべきはやはり飼料米だと思います。濃厚飼料の原料を水田で作るということで、飼料米じゃないかと思います。超多収の飼料米を作るべきだと考えます。
 それから高泌乳牛を追いかけるのはやめにしたほうがよい。高泌乳牛は鼻先に餌を持っていかないと食べないと聞きました。自分で草地へ出ていって草を食べる能力を失ってしまうとのことです。そんな飼い方をしたらだめです。そこは、酪農のあり方を根本的に考え直していくという方向を出すべきです。この際、良いチャンスだと思います。


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