| |||
特集:2002年新生全農・事業刷新をめざして |
「全農マーク」を揺るぎない信頼のマークへ (聞き手)東京農業大学教授 白石正彦氏 |
BSE問題や食品偽装問題によって国内農業への信頼が問われているが、一方では消費者の農産物に対する関心も高まってきている。そうしたなかで、7月25日に経営管理委員会制度を導入し、これからの食料と農業・農村に責任をもち、消費者と生産者に責任をもつ組織として新生全農がスタートした。そこで、これからのJA全農のめざす方向と事業刷新について、岡阿彌靖正専務に聞いた。聞き手は、白石正彦東京農大教授。 ◆いい加減なことすると葬り去られる時代
白石 執行体制が、経営管理委員会(経営役員会)と理事会という体制になり、代表理事専務になられたわけですが、いまのご心境はどうですか。 岡阿彌 大変、重い仕事だなというのが率直な感想ですね。 白石 「重い」ということをもう少し具体的にいいますと。 岡阿彌 いま、農業も私たちJAの組織も苦しくなってきていますから、必死になってやらないといけません。国民の国内農業への信頼感は基本的にはあると思いますが、これを揺るぎのないものにしていくことが必要です。しかも、急いで構築していかないと、輸入農産物に隙を突かれることになりますので、スピードが要求されています。 白石 「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあり」がモットーとお聞きしていますが・・・。 岡阿彌 10年くらい前から、いい加減なことをすれば世の中から葬り去られる危険性があるので、必死になってやっていかなければいけない時代になっていると思い、それ以来そんな気持ちでずっとやってきています。いまは大きな企業が潰れ、パイが縮小してきていますから、買う側の選択眼が鋭く、厳しくなっています。そこで生き残っていくわけですから、相当な覚悟をもってのぞまなければいけないと思っています。 ◆農協があるから結集するという時代は終わった
白石 組織結集力が協同組合らしさだと思いますし、それを継続しながらしかも専門的に事業革新することが、今回の体制の狙いだと思います。組合員や農協にどのようなメリット還元をと考えておられますか。 岡阿彌 昔は護送船団のようであったり、また制度のバックグラウンドもあって、その中で組織結集しやすい時代がありましたね。ところが、規制緩和がどんどん進みますと、それぞれの能力が問われ、格差がでますから、キチンと情報公開して、みんながよく知ったうえで一緒にというところまで深めないと、組織結集ができにくい時代になったと思います。 白石 農協があるから結集しなければいけないという時代は完全に終わった・・・。 岡阿彌 そうですね。 ◆役員と職員が火花を散らして信頼される商品をつくる 白石 経営役員会と理事会との関係はどうお考えですか。 岡阿彌 組織の意思は経営役員会で決定されます。理事会はそこで決められたことを執行し、執行した内容を経営役員会に報告して監督いただくことになります。理事会に期待されていることは、専門的な検討をキチンとやって方向をだすことと、スピードだと考えています。 白石 理事の役割分担が従来よりも明確になりましたね。 岡阿彌 一つは、33県本部がありますが、県本部担当常務を3人おきました。管理部門も一部もちますが…。県本部は農協との接点というきわめて重要な位置にありますから、そこでの成果や課題、問題点を理事会に反映させる体制をキチンとつくったということです。 白石 県本部担当常務が管理部門も担当するのは・・・。 岡阿彌 管理部門のスリム化も現在の課題です。県本部担当は、全国本部と県本部の両方を見るわけですから、サービスを低下せずにスリム化をどういう形で進行したらいいかを考えてもらうということです。 白石 職員のやる気といいますか、意識改革にはどう取り組まれていくのでしょうか。 岡阿彌 日本の農業が国民に信頼されるその一端を全農も担っているわけですから、全農マークを信頼のマークとして世の中に定着をさせていくことは、生産者に対しても大事な使命だと思います。商品をつくるときにも、ISO9001を取得したところでつくるとか、原料のチェックとか、ニーズの掌握とそれに適合した商品開発とかを、一連の作業としてパッケージ化するような事業の仕組みをつくり、そのことで全農マークの信頼を勝ち得ることができれば、全農グループへの信頼が柱となり、国内農産物への信頼も高まると思います。そういう方向で職員の意識統一ができればいいと思いますね。 白石 「役職員行動規範」を制定されましたね。 岡阿彌 社会的な責任を自覚しながら、農家に貢献するという魂をもって、消費者に信頼される商品をつくっていくことに貫かれる行動規範です。 ◆一人ひとりが強くなり、自己責任を果すこと 白石 食品安全管理室を設置されましたが・・・。 岡阿彌 これは現場密着型の仕事で、たくさんの製造現場がありますが、そこの製造工程、商品管理を、現場と目線を合わせてキチンとしていくという部署です。意識改革と安全・安心が確保できる仕事の流れという両輪をいまつくっているわけです。これを早く全体のものにしていきたと思いますね。 白石 食料に対する消費者の関心は、非常に高まっていますから、それに応える緊張感、使命感をもって、社会的な責任を果たしていくことが大事ですね。これは組織の責任であると同時に、個々の職員の自己責任でもあるわけですね。 岡阿彌 一人ひとりが強くないとダメですね。 白石 全農チキンフーズ事件以降、体制を整え、再発防止策や子会社管理体制の改革、消費者に対する信頼回復のための措置を出されてきていますね。 岡阿彌 再発防止は、意識改革と取引先との契約や作業マニュアルなど現場の見直しを両輪に進めていくのが基本です。 ◆仕入れ・物流の改革で生産資材コストを削減 白石 生産資材のコスト削減のこれからの取組みはいかがでしょうか。 岡阿彌 仕入面でみると既存の商品は、一定の原料で一定の加工工程をもって製造されていますから、その仕入を大幅に下げるということはなかなか難しいことだと思いますね。いま私どもで進めていることのひとつは、海外における安い商品の開拓です。 白石 ヨルダンにある会社のように・・・。 岡阿彌 それ以外でも海外で安いものがあればそれを調達して、国内で低価格で供給することが基本になるかなと思っています。農薬では、特許期限切れ農薬を再登録して安くするというようなことは、今まで以上にやっていかなければいけないと考えています。 白石 物流の問題は・・・。 岡阿彌 物流コストがかかり過ぎることが、農協の経済事業を赤字にしている原因の一つだと見ています。経済事業の収支改善のためにも、物流をなんとかしなければいけないと考えています。いま、県単位あるいはもう少し広域で合理的な物流ができないかということで、北九州でテストしています。これがうまくいけば、どんどん普及していきたいと思います。 白石 仕入の工夫、物流改革でコストダウンをはかる・・・。 岡阿彌 もう一つは、安い資材をどう組合わせて生産段階でのコストダウンをはかるかということです。いま、地域別営農類型ごとに、安い資材を活用すればどれくらいコストが下がるかをJAと相談しながらつくっていますが、先程の物流の合理化なども含めいろいろ組合わせれば15%とか20%下がることが分かりましたので、これを普及していきたいと考えています。 ◆担い手の多様なニーズに応えることで事業を鍛える 白石 担い手農家や法人対策も非常に重要ですね。 白石 農家も多様化していますから、単なる生産資材コストだけではなく、経営の支援をしていくということですね。 岡阿彌 大口農家向け価格条件を肥料農薬ではいろいろ出していますから、そういうものを利用していただければ、さらに生産コストのダウンはできるのではないかと思っています。 ◆販売を重視したコメ生産体制の構築を 白石 次に、この間まで担当されていたコメの問題ですが、生産調整研究会の「中間とりまとめ」が出ましたが・・・。 岡阿彌 政府が食料政策への関与をどんどん後退させて、競争原理にどんどん委ねていくという手法には、危機感をもっています。ただ、当面する問題として需要が減ってきていますから、生産段階で調整していかないと、行き場のないコメが増えてしまうので、そのためのシステムはつくっていかなければいけないわけです。しかし、そこを競争原理に委ねるという色彩が強いわけですが、そうすると担い手を含めて大変な事態になるのではないかと思っています。 ◆いままでの風土を一新し、新たな挑戦の時代に 白石 農協や組合員を補完していく全農の総合的な企画機能の高度化については・・・。 岡阿彌 経済は生きものですから、生産者も変化しますし、消費者の志向や需要も変化しますから、20年前といまでは補完の仕方が違います。かつては一律的な補完でしたが、いまはそういうことをやっていると価値の発揮ができない時代に入っていると思います。法人でも情報を提供するとか売り先の開拓とか融資だとかいろいろな意味でニーズが違ってきていますが、それに対して農協レベルで対応できるのか、連合会の支援が必要なのかも個別に違いますので、スリムでなおかつそういうものに応えられる形ができないものだろうかと思いますね。 白石 お話をお伺いしていると、いろいろ課題はあるけれども、新たな挑戦の段階に入っているという感じがしますね。 岡阿彌 何かに寄りかかっているようないままでの風土を一新しなければいけないんです。みんなが、使命感とか責任感とか倫理観とかをもてる仕事や職場・組織に変えていかないといけないと思います。 白石 ぜひ頑張ってください。
|