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特集:2002年新生全農・事業刷新をめざして

「全農マーク」を揺るぎない信頼のマークへ
みんなに認められる「価値」をつくり組織を結集

岡阿彌靖正 JA全農代表理事専務に聞く

(聞き手)東京農業大学教授 白石正彦氏

 BSE問題や食品偽装問題によって国内農業への信頼が問われているが、一方では消費者の農産物に対する関心も高まってきている。そうしたなかで、7月25日に経営管理委員会制度を導入し、これからの食料と農業・農村に責任をもち、消費者と生産者に責任をもつ組織として新生全農がスタートした。そこで、これからのJA全農のめざす方向と事業刷新について、岡阿彌靖正専務に聞いた。聞き手は、白石正彦東京農大教授。

◆いい加減なことすると葬り去られる時代

岡阿彌靖正氏
おかあみ・やすまさ 昭和19年東京生まれ。横浜国立大学経済学部卒。平成6年本所組織整備対策室次長、10年本所合併対策室長、11年本所組織整備対策室長、同年参事、12年常務理事を経て14年専務理事。

 白石 執行体制が、経営管理委員会(経営役員会)と理事会という体制になり、代表理事専務になられたわけですが、いまのご心境はどうですか。

 岡阿彌 大変、重い仕事だなというのが率直な感想ですね。

 白石 「重い」ということをもう少し具体的にいいますと。

 岡阿彌 いま、農業も私たちJAの組織も苦しくなってきていますから、必死になってやらないといけません。国民の国内農業への信頼感は基本的にはあると思いますが、これを揺るぎのないものにしていくことが必要です。しかも、急いで構築していかないと、輸入農産物に隙を突かれることになりますので、スピードが要求されています。
 私たちの組織は、消費者に認められ、選択されるものを供給することで、農家の所得を確保することが目的です。所得が得られる農業が地域やムラ全体でできることが、地域の発展につながるという循環の一部を担っているわけです。消費者の関心は「安全・安心」にありますが、「低価格志向」も強くあります。「安全・安心」のためには、手間をかけますから経費がかかります。「低価格」のためには、コストを削減していかなければならない。つまり、「安全・安心」という手間のかかる面をいかに低コストで実現するかということを追求していかなければならないわけです。

 白石 「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあり」がモットーとお聞きしていますが・・・。

 岡阿彌 10年くらい前から、いい加減なことをすれば世の中から葬り去られる危険性があるので、必死になってやっていかなければいけない時代になっていると思い、それ以来そんな気持ちでずっとやってきています。いまは大きな企業が潰れ、パイが縮小してきていますから、買う側の選択眼が鋭く、厳しくなっています。そこで生き残っていくわけですから、相当な覚悟をもってのぞまなければいけないと思っています。

◆農協があるから結集するという時代は終わった

白石正彦氏
しらいし・まさひこ 九州大学大学院修了。農学博士。東京農業大学国際食糧情報学部教授。昭和53年〜54年英国オックスフォード大学農業経済研究所客員研究員、平成5〜7年ICA新協同組合原則検討委員会委員、平成10年ドイツ・マーブルク大学経済学部客員教授、日本協同組合学会前会長。

 白石 組織結集力が協同組合らしさだと思いますし、それを継続しながらしかも専門的に事業革新することが、今回の体制の狙いだと思います。組合員や農協にどのようなメリット還元をと考えておられますか。

 岡阿彌 昔は護送船団のようであったり、また制度のバックグラウンドもあって、その中で組織結集しやすい時代がありましたね。ところが、規制緩和がどんどん進みますと、それぞれの能力が問われ、格差がでますから、キチンと情報公開して、みんながよく知ったうえで一緒にというところまで深めないと、組織結集ができにくい時代になったと思います。
 全農は多種多様な仕事をし、地域性もありますから、いろいろな角度から情報を公開していくことが、いま何よりも大事です。そのことでいろいろと言われるかもしれませんが、キチンと説明しきって納得して結集してもらうことが重要です。そのためには、価値を、みんなに認められる仕事の中身をつくらないとダメですね。「全農はこれだけの機能をもっていて重要だな、みんなで集まることで強めようじゃないか」というものにしていかないと結集も損なわれる。そういう時代ではないでしょうか。みんなに認められた価値によって結集していけば、メリットはあると考えています。

 白石 農協があるから結集しなければいけないという時代は完全に終わった・・・。

 岡阿彌 そうですね。

◆役員と職員が火花を散らして信頼される商品をつくる

 白石 経営役員会と理事会との関係はどうお考えですか。

 岡阿彌 組織の意思は経営役員会で決定されます。理事会はそこで決められたことを執行し、執行した内容を経営役員会に報告して監督いただくことになります。理事会に期待されていることは、専門的な検討をキチンとやって方向をだすことと、スピードだと考えています。

 白石 理事の役割分担が従来よりも明確になりましたね。

 岡阿彌 一つは、33県本部がありますが、県本部担当常務を3人おきました。管理部門も一部もちますが…。県本部は農協との接点というきわめて重要な位置にありますから、そこでの成果や課題、問題点を理事会に反映させる体制をキチンとつくったということです。

 白石 県本部担当常務が管理部門も担当するのは・・・。

 岡阿彌 管理部門のスリム化も現在の課題です。県本部担当は、全国本部と県本部の両方を見るわけですから、サービスを低下せずにスリム化をどういう形で進行したらいいかを考えてもらうということです。
 それから、事業部門の担当が4人いますが、1人を除いて、いままでやってきた部門とは違う部門を担当してもらうことにしました。ずっと担当してきた部門はよく分かっていますが、別の切り口に立ち得ない面があります。別の部門を担当してきた人は、別の切り口をもっていますから、その切り口に立って、職員と火花を散らしてもいいから、もう一度評価し直すことを期待しているわけです。

 白石 職員のやる気といいますか、意識改革にはどう取り組まれていくのでしょうか。

 岡阿彌 日本の農業が国民に信頼されるその一端を全農も担っているわけですから、全農マークを信頼のマークとして世の中に定着をさせていくことは、生産者に対しても大事な使命だと思います。商品をつくるときにも、ISO9001を取得したところでつくるとか、原料のチェックとか、ニーズの掌握とそれに適合した商品開発とかを、一連の作業としてパッケージ化するような事業の仕組みをつくり、そのことで全農マークの信頼を勝ち得ることができれば、全農グループへの信頼が柱となり、国内農産物への信頼も高まると思います。そういう方向で職員の意識統一ができればいいと思いますね。

 白石 「役職員行動規範」を制定されましたね。

 岡阿彌 社会的な責任を自覚しながら、農家に貢献するという魂をもって、消費者に信頼される商品をつくっていくことに貫かれる行動規範です。

◆一人ひとりが強くなり、自己責任を果すこと

白石氏と岡阿彌氏

 白石 食品安全管理室を設置されましたが・・・。

 岡阿彌 これは現場密着型の仕事で、たくさんの製造現場がありますが、そこの製造工程、商品管理を、現場と目線を合わせてキチンとしていくという部署です。意識改革と安全・安心が確保できる仕事の流れという両輪をいまつくっているわけです。これを早く全体のものにしていきたと思いますね。

 白石 食料に対する消費者の関心は、非常に高まっていますから、それに応える緊張感、使命感をもって、社会的な責任を果たしていくことが大事ですね。これは組織の責任であると同時に、個々の職員の自己責任でもあるわけですね。

 岡阿彌 一人ひとりが強くないとダメですね。

 白石 全農チキンフーズ事件以降、体制を整え、再発防止策や子会社管理体制の改革、消費者に対する信頼回復のための措置を出されてきていますね。

 岡阿彌 再発防止は、意識改革と取引先との契約や作業マニュアルなど現場の見直しを両輪に進めていくのが基本です。
 かなりの商品は子会社で製造していますから、これの管理をどうしていくかがあります。子会社はみんな経営体ですから、経営が健全でなければ必要な設備投資も人材確保もできませんから、健全な経営をしていくために、再編・統合なり撤退を一方では検討しなければなりません。また、株主としてキチンと管理できる範囲がありますから、いまある会社を半数程度に再編したいと考えています。これもスピードが必要ですね。

◆仕入れ・物流の改革で生産資材コストを削減

岡阿彌氏

 白石 生産資材のコスト削減のこれからの取組みはいかがでしょうか。

 岡阿彌 仕入面でみると既存の商品は、一定の原料で一定の加工工程をもって製造されていますから、その仕入を大幅に下げるということはなかなか難しいことだと思いますね。いま私どもで進めていることのひとつは、海外における安い商品の開拓です。

 白石 ヨルダンにある会社のように・・・。

 岡阿彌 それ以外でも海外で安いものがあればそれを調達して、国内で低価格で供給することが基本になるかなと思っています。農薬では、特許期限切れ農薬を再登録して安くするというようなことは、今まで以上にやっていかなければいけないと考えています。
 アラジンは当初、国産の同成分の高度化成の2割安ということで出しましたが、他が追随してきたように、低価格なものを出せば周りの価格水準を引き下げる効果がありますから、それも重要な使命ではないかと思いますね。

 白石 物流の問題は・・・。

 岡阿彌 物流コストがかかり過ぎることが、農協の経済事業を赤字にしている原因の一つだと見ています。経済事業の収支改善のためにも、物流をなんとかしなければいけないと考えています。いま、県単位あるいはもう少し広域で合理的な物流ができないかということで、北九州でテストしています。これがうまくいけば、どんどん普及していきたいと思います。

 白石 仕入の工夫、物流改革でコストダウンをはかる・・・。

 岡阿彌 もう一つは、安い資材をどう組合わせて生産段階でのコストダウンをはかるかということです。いま、地域別営農類型ごとに、安い資材を活用すればどれくらいコストが下がるかをJAと相談しながらつくっていますが、先程の物流の合理化なども含めいろいろ組合わせれば15%とか20%下がることが分かりましたので、これを普及していきたいと考えています。

◆担い手の多様なニーズに応えることで事業を鍛える

岡阿彌氏

 白石 担い手農家や法人対策も非常に重要ですね。
 
 岡阿彌 担い手対策としては「ダッシュチーム」をつくって、200以上の法人を回ってご意見をお聞きしてきました。現在、県ごとに担い手対応の専任部署が窓口をつくろうと取組んでいまして、20県で設置が進み、層が厚くなってきています。金融面、技術、売り先などいろいろな悩みをもっていますから、そこにキチンと耳を傾けてニーズを把握して事業につなげていくことを続けていけば、信頼感も生まれ、結集が強まっていくと思いますね。JAグループも多様なニーズに応えていくことで事業として鍛えられますしね。

 白石 農家も多様化していますから、単なる生産資材コストだけではなく、経営の支援をしていくということですね。

 岡阿彌 大口農家向け価格条件を肥料農薬ではいろいろ出していますから、そういうものを利用していただければ、さらに生産コストのダウンはできるのではないかと思っています。

◆販売を重視したコメ生産体制の構築を

 白石 次に、この間まで担当されていたコメの問題ですが、生産調整研究会の「中間とりまとめ」が出ましたが・・・。

 岡阿彌 政府が食料政策への関与をどんどん後退させて、競争原理にどんどん委ねていくという手法には、危機感をもっています。ただ、当面する問題として需要が減ってきていますから、生産段階で調整していかないと、行き場のないコメが増えてしまうので、そのためのシステムはつくっていかなければいけないわけです。しかし、そこを競争原理に委ねるという色彩が強いわけですが、そうすると担い手を含めて大変な事態になるのではないかと思っています。
 仮に需給バランスがとれたとしても、安全・安心志向やおいしいものを安く食べたいという志向は、ずっと続いていくわけです。それから、需要が減っていくということは生産削減は後追いになりますから、少々だぶつき気味の需給構造になるわけです。したがって、要望されるコメをどうつくっていくかが問題になりますね。ニーズに合ったコメはキチンと売れていくことになると思いますから、販売を重視して生産を組みたてていく仕事の体制を早くつくらなければいけないと考えています。

◆いままでの風土を一新し、新たな挑戦の時代に

白石氏

 白石 農協や組合員を補完していく全農の総合的な企画機能の高度化については・・・。

 岡阿彌 経済は生きものですから、生産者も変化しますし、消費者の志向や需要も変化しますから、20年前といまでは補完の仕方が違います。かつては一律的な補完でしたが、いまはそういうことをやっていると価値の発揮ができない時代に入っていると思います。法人でも情報を提供するとか売り先の開拓とか融資だとかいろいろな意味でニーズが違ってきていますが、それに対して農協レベルで対応できるのか、連合会の支援が必要なのかも個別に違いますので、スリムでなおかつそういうものに応えられる形ができないものだろうかと思いますね。
 農協も信用・共済事業で経済部門をカバーできる時代ではなくなってきていますから、経済事業も収支をキチンととっていかなければいけないわけで、収支をキチンととるための分担もあるわけです。あるいは物流がネックならそれを補完するとか、いろんな形での補完のスタイルを現場に合わせて考えていかなければいけないと思います。
 来年からの中期3か年計画の策定にあたって、100くらいの農協に理事全員が手分けして訪問して、直面している問題や課題についてお話をうかがい、それを念頭において現場に活きる計画をつくろうと考えています。

 白石 お話をお伺いしていると、いろいろ課題はあるけれども、新たな挑戦の段階に入っているという感じがしますね。

 岡阿彌 何かに寄りかかっているようないままでの風土を一新しなければいけないんです。みんなが、使命感とか責任感とか倫理観とかをもてる仕事や職場・組織に変えていかないといけないと思います。

 白石 ぜひ頑張ってください。

 

インタビューを終えて

 岡阿彌代表理事専務に、全農の当面する基本問題にどのように着手し、新たな地平を切り開こうとされているかをインタビューした。この中で、組合員である農業者の所得向上という願いに単位農協と連携して応え、しかも消費者に認められるために、「安心・安全でより低価格の農産物を供給できる仕組みづくり」に全国本部、県本部、子会社の役職員が一体感と使命感をもって取り組み、協同組合らしい全農の「価値(機能)」を実現したいと語られた点が印象的である。さらに、食品危害を最も受けやすい高齢者と子供達にも安心・安全な農産品の供給体制づくりこそ生命産業の担い手の使命だと強調された点も評価したい。
 今後、全農が、(1)農業法人経営等の育成と共に多面的機能(外部経済効果)をもち小規模農業経営者を多数包含した水田農業における日本型集落農場プラス地産地消システムによる「環境保全型低コスト・高付加価値農業の創造」を支援する全国的な情報ネットワークづくり、(2)健康な土づくりを基本とした生産・加工・流通・再利用の循環型新技術開発と各産地の農産品履歴情報を全国的に連結して、農業者・食品加工メーカー・大手スーパー・生協・外食産業・消費者等の情報開示ニーズに応えつつ、「高付加価値志向の全農ブランドづくり」に本格的に挑戦することを期待したい。


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