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特集:2002年新生全農・事業刷新をめざして

地域特性活かした機能を目に見えるカタチに
統合の成果発揮に健闘する全農県本部
JA全農いばらき

 農家組合員が「最大限のメリットを享受できる事業運営とJAグループの事業競争力の発揮がはかられる効率的な体制」づくりをめざして、平成10年10月に宮城・鳥取・島根の3経済連とJA全農が統合したのを皮切りに、現在、33都府県経済連との統合が実現している。
 統合によって「何が変わり、何が変わらないのか」「変わるとすれば、どう変わるか」と、農家組合員や農業関係者はもちろんのこと消費者の間でも注目されている。各県本部は、全国本部と県のもっている機能を活かした効率的な組織づくりを行うと同時に、地域の特性を活かし「県でなければできない機能を発揮」するために奮闘している。その内容を、今年4月にJA全農と統合する以前から「目に見える県域機能」を発揮するために積極的に取り組んできているJA全農茨城県本部(JA全農いばらき)に取材した。

◆新生県本部が目ざす5つの基本事業

 JA全農いばらきは、今年4月にJA全農と統合して誕生するにあたって、「私たちJA全農いばらきは、組合員の営農と生活を守り豊かな未来を築くため、JAとともに次の5つを基本に事業を進めて」いくとその「目ざすもの」を
1、生産から流通・販売まで営農支援に努める
2、県産ブランドを核とした販売事業の展開
3、高品質・低コスト生産を目ざした生産資材事業の推進
4、組合員のニーズに沿った生活資材事業の推進
5、県域事業拠点を核としたスピードある事業運営の推進、
と組合員に表明した。
 しかし、統合前から生産から消費まで「物理的に目に見える県域の機能」をと、「園芸種苗増殖センター」「VFステーション」(VFはベジタブル・フルーツの略)「ポケットファームどきどき」などをつくりあげてきた。また購買事業でも、県域を対象とする「農機総合センター」や県内6ヶ所の拠点基地から肥料農薬を中心とした生産資材の戸別配送が稼動し、全国的にも注目されている。

◆販売事業に乗らなかった農産物を事業化

高齢な生産者にも好評なVFステ−ション
高齢な生産者にも好評なVFステ−ション

 園芸種苗増殖センターは、高収益性と生産技術力を要する花き(トルコギキョウ)・野菜園芸の優良な種苗を供給する施設で、イチゴ原種苗の増殖、ネギやホウレンソウ、白菜、人参、春大根の品種比較試験などにも取り組み、営農指導と連携した新品種の開発・普及・産地づくりのセンターだ。
 VFステーションは、生産者の高齢化に対応し、コンテナ出荷による省力化、規格の簡素化を進める一方、作業員を雇用している大規模農家の経営安定化の施策として、契約栽培契約販売を推進している。さらに、下位等級の付加価値パッケージや産地直送型パッケージの開発に取り組むなど、従来はJAの販売事業に乗ることのなかった農産物を発掘して商品化し販売する「市場外流通」のセンターだといえる。
 生産者は、コンテナに農産物を入れてここに持ってくれば、後はVFステーションが、生協や量販店など販売先のニーズに合わせて選別・加工し出荷する。人参などの洗い作業もここでするので、生産者は手間がかからず、高齢な生産者にも好評だ。
 13年度の販売高は60億円(系統市場販売は650億円)だが、3年後には倍増を目ざしている。いずれは、JAグループ茨城として、生協や量販店に周年供給できるようになればという夢を柴田誠企画物流開発部長はもっている。産地間競争もあるだろうが、県本部が協力して「産地リレー」が実現すれば、統合した「新生全農」らしい仕事だといえよう。

◆県農業のシンボル的存在となった「どきどき」

ポケットファームどきどき
大人から子供まで農業を知り体験できる
「ポケットファームどきどき」

 ポケットファームどきどきは、農産物直売所、ハム・ソーセージ工房、精肉・惣菜・軽食コーナー、パン工房、体験教室がある「ファーマーズポケット」。花・ハーブ・野菜苗などガーデニングの「フラワーポケット」。クヌギ林に囲まれた「森のレストラン」や「バーベキュー広場」。子どもたちが雨の日でも遊具で遊べる「キッズドーム」や駄菓子屋の「キッズマーケット」、水遊びもできる「じゃぶじゃぶ池」に小動物と触れ合える「小さな動物村」と「動物広場」など子どもも楽しめる施設。農業経験がなくても専門家が指導してくれる「体験農場」などで構成されている茨城県農業を知り体験できる販売・発信基地だ。
 JAグループはさまざまな事業を展開しているが、農業協同組合である以上、農産物の「販売の役割・機能を前面に出さなければ、組合員から評価されない」ことと、県民に茨城の農業を知り・考え・理解してもらい、さらに土にふれる喜びを体験してもらおうと、平成12年にオープンした。
 「どきどき」の名称は、一般公募の中から選ばれた「土喜瞬間」から命名したもの。「ポケット」は「どらえもん」のポケットのようにいろいろな楽しいものがあるということを表している。これからも、ポケットはどんどん増える可能性があるという。
 ここでは、花まつり・メロンまつり・盆まつり・大収穫祭など季節に合わせた毎月のイベントのほかに手作りウィンナー教室をはじめ多彩なイベントが年中催されている。こうしたイベントへの参加や特別割引などの特典がある「どきどきネイチャークラブ」(入会時1000円)の会員は3000名を超え、子ども会員も1500名を超えたという。
 「どきどき」は県本部に隣接しているが「全農いばらきといっても知らない人でも、”どきどき”の隣ですといえば、”ああ、あそこ”」と分かるくらいに、県内での認知度は高い。駐車場には平日でも車があふれ、クヌギ林のハンモックで、読書をしながら半日過ごす人もいるという憩いの場ともなっている。
 9月下旬には、県内JAの直売所が一堂に会するイベントが開かれるなど、いまや茨城県農業のシンボル的な存在となっている。

◆物流改革でJA事業を活性化

JAグループ茨城 県域個別配送イメージ図
JAグループ茨城 県域個別配送イメージ図

 茨城県でJAなどの配送センターを集約し、県内6ヶ所の拠点基地から肥料農薬を中心とする生産資材を農家へ戸配する物流改革がスタートしたのは、JA全農との統合より8年前の平成6年だった。
 これは、「JAグループ茨城物流対策事業基本戦略構想」にもとづいて進められてきた県域物流体制づくりの一環だが、その狙いは、JAの在庫を減らすなど物流コストの低減だけではなく、これによって生じたJAの余剰要員を「営農経済渉外担当者」とすることで経済事業活性化を図ること。従来、配送センター・倉庫として使ってきた施設を利用して、当用買いに対応する「グリーンショップ」を設置することにある。
 茨城県内のJA職員数は、ここ数年で3割近く減少している。一方では、信用・共済・経済事業が、各々収支を確立することが求められている。直接、農家へ戸配することで、肥料農薬の配送・在庫管理などに携わっていた要員をJAは減らすことができるので、その人員を経済事業活性化のために活用することができ、JA自体が持つ在庫を大幅に削減できる物流改革は、いま全国で検討されているが、茨城県では、いち早く全県を挙げて取り組まれてきたわけだ。
 この物流改革が成功した背景には、「県内全JAとつながっていた総合情報システムがあった」と企画物流開発部の長山雅嗣審査役。この情報システムは、JAコードや組合員コード、品名コードなど必要なコードが全県で統一されていたので、新たに開発された物流システムをつなげることが容易だったからだ。茨城のJAグループが早くからこうしたインフラ整備に先見性をもって取り組んでいたことが、このことからもよく分かる。
 戸配は基本的に予約対応なので、当用対応のために「グリーンショップ」を設置し、組合員の利便性を確保しているが、従来の施設に棚を設置する程度の改修でいいという。必要な品揃えをするだけで在庫はわずかしか持たず、必要になったら物流拠点基地に連絡すれば届けてもらえるので、JAの在庫は大幅に削減できている。

◆広域センター機能を持つ農機総合センター

大形農業機械整備センター
大形農業機械整備センター

 「農機総合センター」は、3万平方メートル弱の総敷地面積をもち、そこには2万アイテム以上の部品をコンピュータ管理する農業機械部品センター、大型農機整備センターと整備農機用倉庫、機械整備技術向上や新型農機の取り扱いを研修・実習する施設、無人ヘリ実習場などがあり、県域全体の農機センターとなっている。近隣の県が全農と統合されれば、県域を超えた広域農機センターとして活用できるだけの機能がそろっているといえる。

◆専門委員会など意思反映機関を設置

 販売・購買両事業にわたって、県本部として発揮できる機能を充実し、JAの事業をサポートしてJA全農いばらきだが、統合にあたってJA・組合員の意思がその運営にどれだけ反映できるのかということも、統合の課題の一つだったといえる。
 この課題に応えるために、JA全農いばらきでは、運営委員会が毎月1回は開かれており、経済連時代の理事会と変わらない頻度だ。さらに、県本部運営委員会の下に、「意思反映機関」として、県本部各部署に対応し、JA組合長クラスで構成される米穀、園芸、畜産、生産資材、生活資材、地域開発、企画総務の7つの専門委員会が設置されている。
 各専門委員会の下部組織として、JAの部課長クラスで構成されるいくつかの「推進対策研究会」があり、さまざまな課題について検討されるようになっている。こうした意思反映機関を設置している県本部は、全国でも稀ではないだろうか。
 さらに、個別JAとの「事業検討会」も統合前から毎年実施するなど、できうる限りJAとの意思疎通をスムースに行えるような運営を心がけていることも茨城県本部の大きな特徴だといえる。

◆豊かな未来を実現するために

茨城県は日本一の園芸県をめざす
茨城県は日本一の園芸県をめざす

 統合前から「県としてどう機能発揮し、それを目に見えるカタチにするか」とさまざまな取り組みをし、統合後もそれの充実に力を注いでいるJA全農いばらきだが、さらに茨城県農業の豊かな未来を目ざして「アグリルネッサンス構想」の策定に取り組んでいる。そこでは、経営農業、生きがい農業、ホビー農業など農業に携わる人たちの型に合わせた問題を提起するとともに、「安全は当たり前のこととした上で、生産・加工・販売を一貫したものとして、どこまでできるかを模索していきたい」と柴田誠企画物流開発部長は語った。
 「新生JA全農いばらき」はまだスタートしたばかりだ。しかし、全国本部のもつ機能と県本部がもつ機能を活かし「地域特性を活かしながら、県内JAと一体となった事業運営と事業補完体制の整備を行い、茨城県農業の活性化と生産から流通・販売までの責任ある機能強化に努め、農家組合員の期待に応える組織を目ざし」着々とその地歩を固めている。その成果が目に見えるカタチで表れてきたときに、この統合が本当によかったと組合員に評価されることになるし、その日は確実にやってくるだろう。


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