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シリーズ 消費最前線『全農マークを信頼のマークへ』
「自然はおいしい」を掲げて30年
――市乳統合会社で競争力をあらたにアップ

小原 実 全国農協直販(株)社長

 常に消費者ニーズの変化を感じ取り商品開発を行い、市場で戦いながらマーケットを開拓し、全農直販グループを牽引してきた全農直販(株)は、今年で創立30年となる。そして、15年1月1日に、市乳会社統合によって日本ミルクコミュニティ(株)に移行する。同社最後の社長となった小原実社長は、就任1年目の13年度は、品質事故などがあり「大変な目に」あったが、商品開発のコンセプトを「単純明快」にしたこと、全社をあげての収支改善努力などによって、14年度は創業以来の好決算ができるという。そして、市乳会社統合は、国際化のなかで、日本の酪農・乳業が勝ち残るためには「この道より、行く道なし」と確信しているという。

◆創業以来の好決算が実現できる見通し

 ――今年、創立30周年を迎えられましたが、この間、全農直販グループの先頭に立ってこられました。そして、来年1月1日には市乳統合会社・日本ミルクコミュニティ(株)に移行されるわけですが、最近の御社の状況はどうですか。

小原 実 社長
小原 実 社長

 小原 私が社長の内示を受けてからちょうど2年になります。私が就任後、それまでは富里の基幹工場1工場だったのが神奈川県経済連の神奈川中酪工場、埼玉農協乳業、そして超近代的な関西工場を新設し一挙に4工場体制になりました。しかし、神奈川中酪工場が品質事故を起し、取引先や全農関係者、社員に大きな不安と心配をかけました。その後、関西工場がスタートしましたが、初期稼動によるトラブルが起き、経営収支が悪化しました。
 そこで、急遽、適材適所の人事異動・新採用をはじめ、収支改善対策をつくり、13年10月から14年3月まで全社をあげて取組みました。その結果、7億円の圧縮改善をすることができました。13年度は、退職給付引当金の過去の積立不足解消などを計上したために損失決算となりましたが、14年度は商品開発の成功や4工場の効率的な稼動、引続いて進められた全社的なコスト削減などの努力が実って、4月から9月まで創業以来の黒字が続き、9月末時点で昨年度の赤字を払拭でき、好決算が実現ができると考えています。

◆「健康」を基本に、商品開発のコンセプトを「単純明快」に

 ――商品開発について具体的にお話いただけますか。

小原 実 社長

 小原 いままでは、商品が多岐にわたり、アイテム数が多すぎました。そして商品のサイクルが短いので、作っては止めのくり返しで、工場が非効率的でした。そこで私は「単純明快」にすることを提案しました。
 一つは、これだけ医学と医薬品が進んでも、50年前よりもいまの方が病気が多く、国民は健康に不安感をもっています。とくに「食」に対する不安感をもっていますから、「健康食品」としてのデザートをつくるということです。
 もう一つは、デフレの中で、小さなお子さんをもつお母さんが、子どもには栄養があるものを食べさせたいが収入が減ってきているのでお金はかけられない。そこで、安価な3連パックヨーグルトを開発しました。これが、爆発的に売れました。そのことで、社員の目は輝き、工場は活気づきました。
 3つ目に、そうはいっても、お年寄でお金がある人もいるわけです。この人たちは、多少高くてもおいしいものを求めていますから、この人たちをターゲットにした商品の開発です。
 この3つの商品群があればいいということです。

 ――ビフィズス菌をカプセルに入れた商品もありますね。

 小原 普通は胃酸で溶けるビフィズス菌を大腸までストレートに届くようにするために、カプセルに入れて胃酸に溶けないように保護したヨーグルト商品の「ビフィーナ」や、ビタミンの風味をカプセル化することによって、ビタミンの安定性を増した「ビターナ」ですね。森下仁丹(株)と提携して開発しましたが、これも爆発的な売行きを示しました。
 さらに、テレビで「花粉症にヨーグルトがいい」と放映されたこともあって、ヨーグルトの需要が底上げされたこともプラスに働いています。
 果汁についても、ターゲットをキチンと絞り込んで開発し、効果がでていますし、「農協牛乳」は固い人気があり、前年以上に伸びています。

◆ニーズに応えた商品開発武器に市場で戦ってきた

 ――1年目はご苦労があったけれど、2年目は順調に推移しているわけですね。

小原 実 社長

 小原 13年度は事故もあり赤字になりましたが、事故は一過性のもので、時間をかけ、役職員が全力で努力をすれば解決できる問題だと私は考え、いまお話したようなことに取組み、成果をあげてきています。
 もう一つは、一挙に4工場体制になりましたが、工場長クラスの人間が育っていませんでした。そこで、他社から年配で優秀な技術者を採用しました。大相撲の世界では「他の部屋に出稽古しないと本当の力はつかない」といわれています。

 ――つまり、富里基幹工場1工場だけでの純粋培養ではなかなか人は育たないということですね。なぜ「年配者」ですか。

 小原 若い人を天下り的に採用すると、社内の若い人の出世の道を閉ざすことになるからです。年配で優秀な技術レベルをもっている人ですから、切磋琢磨してその技術を吸収しなさいということですよ。当初は反発もあるかなと懸念しましたが、「あの人の技術は大変に優れたものだ」と尊敬の目で見られ、みんなついていっています。

 ――この30年間、量販店を始めとするマーケットを開拓し、全農直販グループの伸展に大きく貢献されてきましたね。

 小原 原料はすべて系統から仕入れていますが、販売は市場で他社と戦って売ってきています。とくにデザート商品は商品サイクルが短いですから、消費者ニーズを考え、開発していかなければいけません。私どもは、象牙の塔に閉じこもった「基礎のための研究」といった開発はしていません。すべて、営業企画と一体となり、市場でどういうものが求められているかを考え、それに敏感に反応した商品の応用開発をしています。

◆日本の酪農・乳業が勝ち残るには「この道より、行く道なし」
  ――市乳統合会社

 ――そうした会社が、発展的ではありますが、統合でなくなるのは寂しい気もしますね。

小原 実 社長

 小原 全農直販(株)30年の歴史は財産ですが、これが長期繁栄が保障できるのかといえば、私は大きな危機感をもっています。そして、雪印乳業(株)の市乳本部とジャパンミルクネット(株)、そして全農直販(株)の3社が分割合併しないと、国際化時代に対応できないと思います。「国際化」とは、国際的な価格に見合うようコストを下げさせられるということです。しかし、小さな企業では、これ以上コストを縮めることは不可能に近いことです。コストを縮められなければその会社は倒れます。
 先行き不透明なWTO時代に、乳業企業として打って出るには、コストが削減できる大きな規模が必要です。3社が一緒になることで、経理・総務など管理部門や物流など合理化できる部門がたくさんあります。一緒になることで、さらなる合理的で効率的な会社をめざしていかないと、社員は路頭に迷うことになってしまうと思います。

 ――経過はいろいろありますが、積極的にとらえて進んでいくということですね。

小原 実 社長

 小原 統合によって子会社3工場も含めて18工場という大きな組織になります。そして物流拠点は3社で64ヶ所あったものが31ヶ所になり、営業拠点も57ヶ所から25ヵ所に集約できます。あわせて開発体制も効率化ができますから、競争力が強化できます。雪印を含めて農系の企業であり「大地に根ざす」とか「自然に」という共通項をもっていますから一体化ができると思います。いままでは、乳業と酪農は車の両輪だと観念論的にはいわれてきましたが、それを実際に現実のものとしたのは、初めてのことです。
 そして私どもは、生産者の負託に応えていかなければならないことがありますし、同時に生産者、株主、社員の皆様に少しでも多くの満足感をあたえる企業体にしていかなければならないと考えています。この事業統合によって、国際化の時代のなかで勝ち残れる事業体を構築していくことが使命だと考えています。それは、単なる利益追求の会社ではなく、日本の酪農・乳業をどうするのか、生産物の需給調整をどうしていくのかということを考えなければいけませんし、当然、求められると思います。そう考えると、厳しい選択ではありますが、いまここで飛躍することが必要であり、「この道より、行く道はなし」と私は判断します。

◆道は一つ「前を向いて走れ」

 ――動揺はありませんか。

 小原 社内には「前を向いて走れ」といっています。後を振りかえれば3つの会社がありますが、前は日本ミルクコミュニティ(株)という一本道しかありません。後を振りかえり、「昔はよかったな」といってみても何の意味もありませんからね。社内に動揺がまったくなかったといったら嘘になるでしょうが、いまは、みんな燃えていますよ。




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