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シリーズ 消費最前線『全農マークを信頼のマークへ』
「共創」で魅力・価値ある商品づくり

――国産の価値を認める人と共に創ることで


尾ア 毅 全農ミート(株)代表取締役社長

 全農畜産販売事業展開の一環として昭和59年に創立された全農ミート(株)は、系統出荷の安全で特徴ある食肉を提案型営業で販売するとともに、ハム・ソーセージ製造販売、惣菜・冷凍食品の開発・製造・販売会社として独自の地位を確立してきた。最近は、消費者の簡便・利便ニーズに応えるために、大阪・摂津、福岡、佐賀・鳥栖で食肉包装事業分野に進出。さらに食品工場向けに環境にやさしい洗浄剤「GUL-K-10」の販売を手がけるなど事業の多角化も積極的に進めてきている。そこで、尾ア毅社長に、現在のマーケットの状況、商品開発のコンセプト、そして今後の経営戦略について聞いた。

◆「一人内二極化」――多様化する消費者ニーズ

 ――最近のマーケットの状況をどうみていますか。

尾ア 毅社長
(おざき・たけし) 昭和15年12月生まれ。新潟大学農学部卒業。平成2年中央畜産センター場長、4年本所畜産販売部次長、7年全農ミート(株)常務取締役、12年同代表取締役社長

 尾ア 最近の消費者ニーズで象徴的なことは、経済が低迷していることもあって「倹約型」になっていることです。そして少子化や女性の社会進出などから、外食・中食・調理食品など「簡便食品」の伸張が著しいこと。さらに、独身者が増えたことや高齢化、生活習慣病人口の増加などによる「個食」ということを無視できない展開になっているなかで、安心・安全を求めるニーズや環境への配慮という要求も強まってきています。
 一言でいえば、モノが豊富で飽和状況にあり、商品が円熟化し、消費者はそのなかから選り取りみどりで買える「買い手市場」になり、供給側の競争が激しくなっているといえますね。

 ――倹約型つまり低価格志向が強いわけですね。

 尾ア 日常生活では倹約型で安いものを買いますが、欲しいモノには思い切ってお金をかけるという「一人内二極化」が浸透してきていると思います。

 ――「グルメ」とか「飽食」といわれた時代とは、ニーズが様変わりした・・・。

 尾ア グルメブームとか飽食の時代といわれた高度経済成長期は、「大量生産・大量消費」ですが、いまは、安心・安全、美味、そして簡単・便利、あるいは個食というように、ニーズが多様化していますから、「多品種」で「軽量化」され、低価格志向が強いというのが、マーケットの特徴といえます。肉でいえば素材の売上げは下がり、惣菜や加工品が伸びています。

◆「信頼できるのは全農グループ」と中堅食品スーパーからエール

 ――安心・安全ニーズは最近とくに高まっていますね。

 尾ア この1年くらいの間に、O-157問題、そして食品業界に衝撃的なショックを与えたBSEの発生、マーケットに不信感をもたらした偽装問題がありました。これがおさまってきたかなと思ったら無登録農薬問題が出てきました。こうしたなかで消費サイドが「安心・安全をどこに求めたらいいのか」と考えたとき、「生産者団体の全農がちゃんとしてくれなければ、安心できないのではないか」ということになってきています。
 それは「全農安心システム」に代表されるように、生産者団体がトレーサビリティなどをキチンとやっているということが、少しづつ分かってきたからだと思いますね。私どもの取引先は中堅の食品スーパーが多いのですが、そこのトップからも「全農がシッカリしてもらわないと困るよ。信頼できるのは全農だけだ」といわれます。
 この混迷の時代に「総合的に信頼できるのは全農」といわれるわけですから、これはフォローの風になる可能性がかなりあるのではないかと思いますね。そのためには、消費者ニーズを心して鋭敏に感じ取って商品開発していかなければいけないと考えています。

◆ニーズとは「お客さんが困っていること」

 ――そのニーズはどのようにつかむのですか。そして、商品開発の基本的なコンセプトはなんですか。

尾ア 毅社長

 尾ア マーケティングの基本に戻って、競争で顧客を奪うのではなく、顧客の潜在的欲求の創造によって、新しい需要分野の開拓に挑戦していくことです。つまり、消費者が何に不便を感じ困っているのかを常につかみ、それを解消できるような商品開発をしていくことです。そして、開発された商品の衛生管理がキチンとできて安全で、製造工程のトレースがキチンとできることを柱に、マーケットニーズに切り込んでいくしかないと思います。

 ――品質管理については、以前から積極的に取り組まれてきていますね。

 尾ア 平成12年6月にHACCP工場の認証を取得しています。そして各工場や本社の品質管理室を、14年5月から社長直轄にしました。併せてコンプライアンス委員会を設置し、委員長に社長がなることにしました。トップが、常に、直接的に認識し、行動するということです。

 ――それが信頼につながっていくわけですね。

 尾ア 銘柄牛や豚がたくさんありますが、お客さんがお店を信頼していると、あまり銘柄にはこだわらずにお店が推薦した肉を買う人が多くなってきています。「安全の保証」は、消費者がその店を信頼することで、お店はどこから買えば信頼できるかと考える。そうすると、全農グループに期待したいという声が着実に高まっています。

◆確実に消費者に理解してもらえる会社に

 ――そして、国産畜産物が見直されていますね。

尾ア 毅社長

 尾ア 国産の豚肉や鶏肉が見直され品薄になって価格が上がりました。生産者にとっては喜ばしいことですが、国産原料を使っているハムソーセージなどにとっては原料が上がるということになります。販売価格を上げることは難しいことです。ですから、国産原料の価値を認めてくれる人と組まないと成り立ちません。最近は、生協を中心に国産の価値を認めてもらえるところも増えています。安心・美味・正直・新鮮に自信をもって取り組むことで、確実に消費者に理解してもらえる会社になっていくと確信をしています。

 ――安全・安心といわれますが、おいしさも大事ですね。

 尾ア いくら安心・安全でも食べて「うまい」といわれなければ、お客さんから相手にされませんよ。そのために、料理研究家の村上祥子先生や専門家の指導を受け、安心・安全な原料を使って、ホテルやレストランの味を追求しています。すでに、餃子、水餃子を4年ほど前から出しているように、惣菜的な分野の開発を進めています。そしていま全農チキンフーズと提携して進めているのが「チキンハンバーグ」です。
 これは独自商品の開発もありますが、生協さんに、生協用の鶏肉を使って一緒に開発しませんか、という提案も進めています。これを「共に創る」ということから「共創」とわが社では呼んでいます。

◆「食と農」の文化創造で、お客と喜びを共有できるよう

 ――「共創」というのは、いい言葉ですね。

尾ア 毅社長

 尾ア 「山椒は小粒でもピリリと辛い」といいますが、食品会社としては小さな会社ですが、単に価格ではなく、使う人にとって感動と満足のいくような、これだけはどこにも負けないという魅力・価値ある商品を開発し、生協など考え方が一致する人たちと共に創っていく「共創路線」が、今後のわが社の経営戦略だと考えています。
 農業の価値を、ただ単に食料供給や単価だけで勝負すれば、国産は価格面で輸入物との市場価値では勝負にならないから、輸入物とは比較できない価値を創る必要があると思います。それは「『食と農』の文化の創造」だと思います。わが社は生産者団体の食品メーカーですから、そのことを明確にするために「食文化と経営5原則」として「地球環境にやさしい、農業経営に立脚した食文化を形成する」「食文化の向上に貢献し得る事業経営を目指す」「生命維持を基本とした、健康を守る食文化の普及に努める」「家庭料理と共有し得る安全・美味な食文化を創造する」「世界の料理に挑戦し、世界の食文化の紹介に貢献する」を掲げています。

 ――最後に、今後の抱負をお聞かせください。

 尾ア 平成16年に創立20周年を迎えますが、それまでにいま申し上げたことを柱にして、日ごろの努力を積み上げて、全農グループの食品加工メーカーとしての経営基盤をシッカリ築き、お客さんと喜びを共有できる会社にしたいと思いますね。




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