◆いいと思うことは、まず実践する
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かわもと・けいすけ 昭和23年生まれ。福岡大学法学部法律学科卒。46年入会。平成6年大阪支所米穀部長、8年本所米穀販売部出対課長、10年本所米穀販売部次長、13年本所米穀総合対策部長、15年全農パールライス西日本(株)社長就任。 |
――社長の胸にも壁にも「元気な笑顔で 即、実践!」とありますが、これは2月に社長就任されたときに考えられたスローガンですか。
河本 このスローガンは全社員から募集し、若い社員による委員会で決定したものです。何を誰が、いつまでにといったことがなかれば、即・実践はできません。合併してまだ3年ですから、社員の意識を変え統一する意味からも、いいと思うことは何でもまずやっていこうと考えはじめました。社長になってまずはじめに、すべての若手社員と話をして意見を聞き、できることは実践しましたし、できないことはなぜできないかを整理して、全社員宛にメールで説明をしました。
◆消費量の減少、消費形態の変化にどう対応するか
――現在の米卸の課題はなんでしょうか。
河本 少子高齢化が進み、人口もこれからは減りますから、お米の消費はさらに減少し、取扱数量・金額ともに縮小していくと思います。そして消費購買形態も変わってきています。例えば、インターネットによる売買とか、女性の社会進出などから外で食べる割合は多くなります。12年で、米の外食需要が236万トンありますから、いまはさらに増えてると思います。また、冷凍米飯も美味しくなりましたね。今後消費が落ち、消費形態が変わっていくなかでいかに生き残りの競争に勝ち残っていくかが課題ですね。
――卸の経営はいま以上に厳しくなっていく…。
河本 量が減り、制度で守られることもなくなり、さらに産地も苦しいですから販売対策のルートも厳しくなるでしょう。そしてJAS法を遵守するため、いままで以上にコンタミ防止や品質管理を徹底する必要があり、そのためのコストがかかりますから、米卸の経営はさらに厳しくなりますね。
――アイテム数が多いと、工場の効率面でも大変だと思いますが、いまアイテムは何点くらいあるのですか。
河本 3工場で800点ほどあります。それぞれの発注数量が日によって変わり、効率が悪くコストが高くなりますから、工場間で調整するとともに、取引先のご理解も得てアイテムを減らさせていただきたいと思っています。そしていま、小ロット対応の精米機を早急に導入すべく検討しています。
◆農家のつくった米をそのままの姿で消費者へ
――これからの米卸業界はどうなると思いますか。
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河本 いま400弱の米卸会社がありますが、みんなが残っていけるとは思いません。そのなかで、いかに生き残るかが課題ですね。
――生き残るために何をしますか。
河本 基本を大事にする以外にないですね。私たちの仕事は、玄米を仕入れて精米して売っているわけですから、農家が作られた米をできるだけそのままの姿で消費者にお届けしたいということです。その結果、消費者からのうまい米・まずい米という評価を産地にお伝えして、美味しい米づくりに努力していただき、それをまた扱わしていただくのが基本です。消費地の評価を産地にお伝えするときに、どうすれば正統な評価だと思っていただけるかですね。
――当然ですが、産地は自分たちの米が一番だと思っていますからね…
河本 そのことは間違っていないと思います。私は愛媛出身ですが、子どもの頃、収穫時期に脱穀した田んぼで稲藁に座ってたくあんで食べたお握り(古米)が美味しかったという記憶があります。穫れた土地でそこの水でそこのお母ちゃんが炊いたご飯が一番美味しいと思いますね。しかし、それはそこに住んでいる方の評価ですので広域的な評価も必要ですね。広域の場合には、私共が均一・均質な商品をつくり、適正な表示をして提供することで正統な評価が得られると思います。そうした評価でなければ産地からは信頼されないと思っています。
――消費者も多様ですね。
河本 価格にこだわる人もいますし、多少高くても美味しい米を欲しいという人もいて多様になっていますね。だからアイテム数がどんどん増えるわけですよ。ですからお取引先様には様々なご要望をいっていただき、私共からは実態を正直にお伝えして、理解をしていただくという、成熟した関係にしていきたいと考えています。
――いまは、表示も含めて安全・安心が一番という時代ですが、どのような取り組みをされていますか。
河本 いままでは製造・営業の中に「品質管理室」がありましたが、責任を明確にする意味からも、社長直轄の「商品管理室」にして製造・営業と分離し、問題を未然に防げるようチェック体制を強化しました。
その上で(1)計画的な仕入れ(2)とう精技術の向上(3)アイテムの削減(4)適正表示の徹底など、やるべきことにきちんと取り組み、ISOも取得したいと考えております。
また、全農安心システム米も、さらに取り扱いを拡大したい思っています。
ただ安心・安全を確保するためには、全社員の意識改革が必要です。それがないと、実現できませんし、実現できても長続きがしません。
◆需要のある米づくりを
――産地に望むこと
――生産者にも消費者にも情報を開示し、安心・安全ニーズに応えた商品づくりをしていかないと生き残れないわけですね。
河本 生き残るためには、仕入れコスト、製造コストも落としていかなければいけません。そのためには、一部の産地にとっては厳しい話になると思いますが、需要のある米を仕入れることが基本になります。競争に負けると、JAグループで集めた米を引き受ける能力が低下するわけですから、そのことを産地にもご理解をいただき、少し辛抱もしていただきたいと思いますね。
――需要のあるものを、というのは産地にとってはキツイ話ですね。
河本 そうだと思いますが、それはあたりまのことでもあります。卸会社もいまは経営が非常に厳しいですから「必要なものを、必要なときに、買える価格で」をしばらくは続けざるをえないと思います。私共はこれからもJAグループとして自ら売っていく役割を果たしていきたいと考えておりますが、できないことについては産地にもご理解いただきたいと思っています。
このためJAグループとしては、いままでのようにリスクを全部背負うというわけにはいかないでしょうから。集荷の条件もかなり変えていかなければいけないでしょうね。
――卸会社が集荷に手を出してくることはありますか。
河本 少なくとも大手の卸は集荷に手を出したいと考えていないと思います。できることなら少なくとJAグループが必死になって集めたものを扱いたいと考えています。集荷が大変だということは、多くの卸会社が分かっていますよ。人もコストもかかりますからね。そこを分からない人には手を出して欲しくありませんね。混乱するだけですから。
◆合併は産地ともに、生きていくためのスタート
――競争が厳しいなかでの生き残りですから、大変ですね。
河本 私共には全農という信用ある看板があります。米だけではなく他の多くの品目もあり、広域対応できるという総合力があります。これは他の卸にない大きな力だと思います。大変というより、厳しくなればなるほど私共は相対的に優位に立てると思っております。
――4月に長崎と合併しましたが、まだ、数多くの系統卸があります。今後、系統卸はどうなっていくと思いますか。
河本 系統卸も将来を考えれば、次第に苦しくなり、個々には生きていくことが難しくなると思いますね。そうなると皆で協力し合ってとなってくるんじゃないでしょうか。そうなれば経営の合理化、工場の集約・調整、仕入れコストや製造・配送コストの削減などが可能になります。ただ、合併はゴールではなく、生きていくためのスタートです。スリムになることが生き残ることであり、それによって産地とも引き続いてお付き合いできる道だと思いますね。
そういう意味でも、長崎との合併を成功させ、やるべきことをやり、頼りがいのある会社にしなければいけないと考えています。頼りがいのない会社では誰も来てくれませんからね。
――ところで、「阪神タイガース必勝祈願米」が今年は売れているのではないですか。
河本 米は「ほしのゆめ」(星野の夢)で、今年は昨年の倍は売れていますね。大阪も景気は低迷していますが、阪神の活躍で盛り上がっていますよ。この勢いに乗って、わが社も頑張っていきたいですね。
――ありがとうございました。 (2003.6.23)