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コリンズ担当社長 |
本紙既報の通り米国デュポン社のジェームス C.コリンズJr.農業用製品事業担当社長は、『第11回IUPAC農薬化学国際会議』(神戸開催)で基調講演を行い(8月6日)、さらに翌7日には東京で『デュポンの世界における事業路線および日本での展開』を披露した。
同氏は、世界の農薬情勢を「市場は減少傾向にあるものの、環境との調和や食に対する安心などの必要性がいっそう高まっており、このことが新製品開発への期待にさらに拍車をかけている」と前向きに分析。
世界の農業(環境)は、人口増加や経済力の高まりによる食生活の向上、および代替燃料需要(エタノールなど)など農業食料の重要性は飛躍的に加速し、生産性と集約性向上のためのイノベーション(技術革新)がいっそう重要となっているとしている。
また、同氏は「遺伝子組換え技術はより複雑となり、複数遺伝子形質は2018年にも実用化される。中国やインドではバイオテクノロジーの導入が進むだろう。一方、農薬開発は現在、おおよそ11年の歳月と2億ドル(二百数十億円)を要し、開発期間が長ければ資本投下は見合わない。しかし、ナノテクノロジーを含めイノベーションと新規化合物の製品開発は続く」と積極的に見ている。
さらに、同氏は「農薬偽造・類似品問題が深刻だ。有効成分は同じでも相当量の不純物が混入している事例が見られ、薬害や安全性・リスク評価がない場合の問題が憂慮される。関連して、ジェネリック(特許切れ)農薬が増加し取扱い企業も増えているが、近年の傾向としては特許品が増加している」と、現状認識を新たにした。
イノベーションを強調するデュポン社。当面、農薬関連では新規殺虫剤の「リナキシピル」と「オプティマムGAT」が注目されている。前者はIUPACで、その全貌が明らかにされた。
「リナキシピル」は広範囲な鱗翅目害虫を中心に多くの害虫に卓越した効果を示し、浸透移行性と残効性にすぐれておりIPM(総合的病害虫・雑草管理)にも組合わせが可能だ。また、「オプティマムGAT」は、グリフォセート耐性とALS(アセト乳酸合成酵素)阻害剤耐性を具備した大豆でデュポン植物防疫事業とパイオニア(注)双方に貢献するものと期待されている。
このような背景のもと、同氏は日本市場を「成熟市場となっており大きな規模拡大は望めないと思われるが、その規模・価値は依然として重要であり、新規製品の需要は高く当社にとってもっとも重要な市場の一つと位置づけている。新規製品・技術を投入し日本農業に貢献したい」と、胸の内を強調した。
【解説】日本におけるデュポン社は、他の外資系メーカーが直販体制を固めるなか「石の上にも3年」を固持していたが、2004年10月に丸和バイオケミカル(株)の農業部門を取込み直販会社「デュポン
ファーム ソリューション(株)」を立ち上げた。
この周辺で業界は、「眠れる獅子が起きたのは遅かったのではないか」、「アクティブ(積極的)は高く評価できるが、張り子の虎ではないのか」など、やや冷ややかに一部では見ている。DPX−84(ベンスルフロンメチル)温存のなかで、これらを払拭するには一にも二にも人づくりと確たる組織の構築ではないか。
なお、「リナキシピル」の市場投入は2010年を予定している。この分野の市場を塗り替えることになるのは必至。
(注)パイオニア社は、作物保護事業とともにデュポン社の5つの成長基盤(プラットホームと呼ばれている)の1つの農業食品事業を構成している。
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会見では、技術革新の重要性が強調された |
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