(財)報農会の第21回シンポ『植物ハイビジョン2006−農産物における農薬残留問題−』において、(財)雑賀技術研究所の佐藤元昭技術顧問が『中国における農薬の使用実態と食品の安全性』で講演、改めて中国における農業・農薬事情が明らかになった。講演要旨をまとめた。 |
◆人民公社体制を改める
中国では、文革(1966〜1969年)が終焉したのちの1978年から、集団栽培・政府買上・収益分配をベースとした生産性の良くない「人民公社体制」を改め、「請負制度」により義務供出を超えた収穫物は農民の自由裁量(政府買上)方式に改めた。
農民の生産意欲が向上し増産を果たしたが、政府買上農産物が急増し財政危機を招いた。これを回避すべく1985年に契約栽培に切り替えたところ、農村に余剰労働力が溢れてしまい、これを吸収すべく労働集約型高品質作物への転換となり、高品質農産物の増産を達成した。
これにより日本への輸出量が急激に増加し、日本の農産物市場が混乱、政府によるセーフガードの発動に至る。結果として、中国は2001年12月にWTOへの加盟を果たすが、農産物の評価基準や取引ルールを欧米や日本と同等なものに改めなければならなくなった。
◆地域と内陸部に所得格差が
開放政策の進展で工業化が進み、都市部や沿海部が急速に近代化されるのにともない、これらの地域と内陸部の所得格差が広がった。農民の都市部への移住を抑制したこともあり、所得格差は10倍以上に達するともいわれている。
日中農業規模比較は(表)の通りだが、農家1戸当たりの耕地面積は日本の3分の1強しかなく、しかもその農家の80%以上が0.6ha以下の専業農家であることから、都市近郊や沿海部を除く中国の平均的農家の貧困さが推測できる。
政府もこれを問題視し、農業・失業・格差・環境・党腐敗を「5大障害」と位置づけ、重要課題として3農問題(農業・農民・農村)を掲げた。農耕不適地域は「退耕環林」、「退耕環草」政策を実施している。農業税の撤廃や各種保険・補助制度も定められている。
中国の農産物輸出額は、1949年に5億ドルだったが2004年には231億ドルに達し、日本への輸出が33%と飛びぬけて多い。
◆国内に約2000社の農薬メーカー
中国で常用されている農薬は約270種類で、そのうち約150種類が『無公害』品として推奨されている。さらに、そのうち116種類の農薬が日本の暫定基準値設定農薬と一致しているという。
農薬生産量は、1995年に28.3万tだったが、2003年には86.3万t(約4500億円)に達した。殺虫剤45%、除草剤20%、殺菌剤6%、その他29%のウエイト。東南アジアへの輸出が増えている。国内に約2000社の農薬メーカーがあり、約180種類の農薬と400種類の製品を生産している。
中国でも、都市部の消費者を中心に毒性や環境問題に目が向けられ、メタミドホス、モノクロトホス、パラチオンなど毒性値の高い農薬が減少し、アセフェート、アバメクチンなど低毒性で効果の高い農薬が伸長している(参考:グラフ1、2)。
中国政府の食品の安全に対する考え方は、公衆の健康水準の向上、就業チャンスの促進と農民収入のアップおよび食品産業における国際競争力の強化に集約される。安全性を付加価値として国際競争力を高め、輸入を抑制し輸出を拡大することであり、国力の強化とも見られる。
◆質検総局に強大な権限
食品産業に関わる部局は『国家食品薬品監督管理局』、『国家質量監督検験検疫総局』、『衛生部』、『農業部』、『商務部』などで、『国家質量監督検験検疫総局』のみ中国全土に直接的な管理指導を行う強大な権限をもっており、通称「質検総局」と呼ばれている。
中国は、日本のポジティブリスト制度に強い関心をもっている。一律基準値0.01ppmなどに『緑色関税障壁』と反発しながらも、その対応に真剣に取組んでいる。その姿勢は、日本やEUの食品関連の新しい法規への積極的な対応や企業の自社検査管理体制の強化として現れている。
◆中国との友好関係の確立が
以上要約したような中国情勢を話したあと佐藤技術顧問は次のように講演をまとめた。
歴史も習慣も政治体系も異なる中国と日本だが、相互理解と相互協力を重ねて双方の利益に繋がるよう努力していくことが大切。
WTOへの加入を果たした中国。これまで、国内で処理してきた多くの問題が国際問題として表面化し、国際的なルールに合わせざるを得なくなった。
一方で、中国はいつまでも食料輸出国の立場ではいられないだろう。工業化の進展、農業人口の都市部への流入、食事内容の欧米化などにより食料輸入国の仲間入りをするのはそう遠くないと思われる。
日本の食料自給率を考えると、食料の安定輸入先の確保の観点からも、中国との友好関係の確立が重要。
|