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コラム
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反射鏡
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奢りから自給力に応じた食生活へ
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海外旅行で常に感ずることであるが、諸外国に比べ、日本の食生活は豊富そのものである。いや贅沢といったほうが実態に近いかもしれない。周囲を海に囲まれ、北緯46度から24度におよび、幅広い気候帯に縦長に連なる日本列島である。そのうえ雨の潤いにも恵まれている。食材の豊富さにおいては、他にひけをとらぬ条件をそろえている。地域特産の食材を縦横に生かし、長い歴史に育まれた多彩・多様な日本食1つとってみても、世界に冠たるものであろう。加えて貪欲ともいえる勢いで、取り入れられた世界各国の料理。軒を並べる中国・韓国・フランス・イタリア・米国・東南アジアなどなどのレストラン。さらに米国系のファーストフードチェーン。
家庭の食卓もこの流れをそのままに、豊かにして多彩な彩りを競っている。食を工夫し楽しむことはいいことである。そのこと自体をとやかく言うつもりは毛頭もない。ただバランスも考えねばなるまい。今春、農・漁業国ニュージーランドに滞在して、日本の食生活への疑問はさらに強まり、あらためて周知のデータを眺め、今更ながら食生活と日本農業のあり方を考えさせられた次第である。 豊かな食生活とウラハラに、日本の穀物自給率25%(2000年)はモロッコ(24%)、サウジアラビア(22%)と大差ない。先進国といわれ、我が国と経済競争関係にある諸国の穀物自給率を見ると、フランス(191%)、米国(133%)、ドイツ(126%)、英国(112%)であり、何れも自給率100%を越えているのである。(国別比較の容易なFAOの穀物自給率を用いた。農水省統計と数値が若干異なる) また、具体的に商品別の輸入情況を眺めてみよう。肉類、魚類、トウモロコシ、甲殻類・軟体動物、小麦、採油用種子は輸入量で世界のトップを占めている。なかでも、肉類などの前3者は、第2位の倍以上をも輸入しており、コメ以外の主要食糧ではダントツの世界一の輸入大国を誇っているのである。 かように膨れあがった食料が、かりに贅沢であっても無駄なく消化されているならまだ救いがあると言える。数値的把握がどこまで正確かは定かではないが、試みられている調査(12年度食品ロス統計調査)によると家庭での“食べ残しおよび廃棄”率は7.7%に達するという。外食産業は5.1%、旅館等は7.2%、宴会や結婚披露宴がそれぞれ15.7%、23.9%となっている。驚くべき食資源の浪費である。 工夫を凝らし、豊かな食生活を楽しむことは大いに結構である。先人の大きな遺産でもあり、国の文化水準を示すものでもあろう。望むらくはその食材の基本は、自国で産したものであって欲しい。ところが、日本の現状は先ほど見たとおり、あまりにもいびつである。平成12年3月閣議決定の「食料・農業・農村基本計画」をみても手ぬるく、2010年の穀物自給率目標を30%(1997年の自給率は28%)としている。これでは自給率アップは百年河清であろう。 時あたかも食の安全問題が叫ばれている。安全も含め、自給率の大幅アップを軸とした食生活のあり方=食糧生産の再構築こそ、最優先すべき緊急の構造改革課題ではなかろうか。この場合、旧来の農業者のみが日本農業を担うとの狭視的発想からの脱皮も、不可欠となろう。 (藤塚捨雄) (2003.9.1) |
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