農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
つくば山麓 野良だより

主人の足跡が最高の肥やし

 午前4時、『トッキョキョカキョク?』とホトトギスが啼くころ、いつものように田んぼや畑を見て歩く。“野良回り”は農家にとって何よりの生き甲斐であり、趣味の世界でもある。先日の共同草刈り作業で、すっかりきれいになった農道をのんびり軽トラを走らせながら、水の具合や稲・野菜の生育を観察する。連休に植え付けられた稲は分けつを繰り返し、間もなく幼穂形成期を迎えようとしている。いよいよ稲にとって、大切な子育ての時期が始まる。生育期の中でもっともたくましさを感じる季節だ。野良回りは先輩達から教わりながら、もう 30年あまりも続けてきた日課である。我が家ではこの時期、ナスやピーマン、ジャガイモ、豆類などの管理や出荷作業に追い立てられる毎日だ。それでも『梅雨のしっとりした季節には紫陽花がよく似合う !』と思えるような、心の余裕だけは持ち続けたいと思っている。
 一方、“麦秋“ を迎えたこの時期は、生産農家にとって毎年梅雨のわずかな中休みをかいくぐっての忙しい収穫作業が待ち受けている。あちこちの転作田を数十ヘクタールも借り受け、麦、大豆、そば等を作付けし、かつて天皇杯を獲得したこともある我が仲間のN氏も連日大忙しの日々。しかし収穫の喜びとは裏腹に、今年は辛い毎日が続いている。
 農水省が今年、麦や大豆等の転作田に支払う助成金は2割以上も減。しかも品質基準が厳しくなったことと合わせて価格の低下も加わり、半分以上が規格外になっていると嘆く。昨年より300万〜400万円も減収見込みという。彼は今、生き残りをかけて様々な野菜作りにも挑戦している。国の「おだて」に乗せられて、多額の補助金を利用して同様に始まったいくつかの転作グループも、今や深刻な事態に陥っている。今農水省が進めている「基本計画」の見直しで、真っ先につぶされるのはこういった農家だと思う…。

◆地域を知り尽くした人が農業を活性化できる

 今、小さな大和村で新規農業者が増えている。後継者・中核農家で組織する「グリーンサミットやまと」も毎年新たな会員を迎えており、会員26名。頼もしい限りである。平成16年度、村では「大和村元気アッププラン」の中で、認定農業者、農業法人、多様な担い手、女性農業者の育成、新規農業者の確保など、農業振興策を目標に掲げ、また地域農業の振興に資するということで、「大和村経営生産対策推進会議幹事会」を発足させるという。私はさっそく、「今こそ、真剣に農業に取り組む仲間との懇談や具体的な村の農業振興・後継者対策が求められている。」と村長に申し入れ、懇談会の日程や「推進会議」にも実際農業を担っているメンバーが参加出きるという方向付けがなされた。国が進めている机上の「基本計画」は、それぞれの自治体が、独白に具体化し、地域にあった農業振興策を進めていくしかない。
 前述のN氏は言う。「知らない土地を借り受けても、その土地の癖を知るまでに何年もかかって地代なんか払ってたらまったくの赤字」。毎朝毎日、足を運んでも気に入った作物がなかなかできない農業。しかも年に1度しか挑戦する機会が与えられないのが農業である。土壌条件や環境をまったく無視した新規参入の農業生産法人や株式会社などに、日本の食糧生産を任せるわけにはいかないと私は思う。(茨城県大和村在住 農業) (野沢)

(2004.7.5)


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