春一番が通り過ぎた当地方では、一面真新しいビニールハウスの銀色が、目映いばかりに連なって、いよいよ小玉スイカや春白菜、レタスなどの本格的な季節を迎える。年々、小玉スイカの農家では暮れも正月もない(!)ほどに作付け時期が早まっており、2重3重に張り巡らされたハウスの中ではすでに出荷の時期を迎えるものもある。
先日、アイアグリ株式会社(農家の店しんしん)が主催する講習会に、仲間と参加した。題して『農業が変わる! 農業変革セミナー』である。日頃耳慣れない、難しそうなテーマにもかかわらず、県内外から約400名のたくましく日焼けした農民が集まった。開会冒頭、「日本農業を取り巻く環境の激動と、その変化の鼓動を、自らの目で、耳で確かめていただきたい…私たちと一緒に歩む端緒になれば幸いです」と淡々と呼びかけられた社長の姿勢が印象的だった。以下、一緒に参加した仲間の声を紹介しよう。
結城市で小松菜を大規模に栽培する若き実業家・北島君(44歳)は、「農産物の新しい流れ」というテーマで話されたM先生の講演を聞いて「マーケティングのお話には奥深い共鳴と感動をうけた。この分業化社会の中で、それぞれの立場で価値ある仕事(いい仕事)をやり遂げるためのヒントをたくさん学んだ。もう1つの印象に残った言葉は「消費の飽和化」。さあ飽食ニッポンをどうする?って所にヒントがあるのだと再認識した。また、いつか先生と膝を交えてお話ができる機会があれば嬉しいなぁ〜!」と彼女を絶賛。
一方、小山市で日夜熱心に農業に取り組む、川面君(47歳)は「いろんなテーマの講義を受け、すごく勉強になった。でも現実とのギャップがあり、理想であって今の自分の経営からは夢みたいな話…何で農家がこんな不景気な世の中になってしまったのか…農家の景気が良くならなければ世の中は良くならない!」とこれも本音。そして70歳を過ぎた農家のおじさん達が、帰宅後の飲み会で「やっぱりこれからは農業の時代だ!孫にも後を継がせっぺ…」と一杯きげんで語った一言に、“農業への誇りや愛着”を感じて嬉しくなった。
時を同じくして、おもしろい調査結果が新聞紙上で報じられた。共同通信社がインターネットで実施したアンケートによると、生産者の高齢化、担い手不足が進んでいる農業が、新たな雇用の受け入れ先となると考えている人が約70%に達していることが分かったというのだ。また別の民間団体の調査によれば、定年後に農業・園芸関係事業に就くことについて聞いたところ、6割が関心を示し、自給自足出来る程度の家庭農園をしてゆっくりと自然の中で暮らしたいとの意見が大半を占めたという。
暮れから正月にかけて『親鸞』吉川英治・著(全3巻)を読んだ。現在の茨城県笠間市西念寺において親鸞が布教活動をしていた頃の逸話に、村人と田植えをしながら、「一つまみの苗の根を田に下ろすごとに、有り難や、この苗のためにわしらは日々幸せにいきている。もっと大きくいえばこの日本の国民(くにたみ)をこの汗とこの苗の功徳をもって養うている。日の本の国民の糧安らかにあるように、伸びて賜れ、実って賜れ…と心に念じて一つ植える」とあった。今から800年も前のことである。(茨城県大和村在住 農業)(野沢博) (2004.3.4)