農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 昔々その 昔

ホタルこい 河童こい
挿絵: 種田英幸
文: 種田庸宥 日本福祉大学講師



ホーホーほうたろ来い

ホー ホー ほうたろ来い 山道こい
お尻のひかりで とんで来い
ホー ホー ほうたろ来い
あっちの水は にがいぞ
こっちの水は あまいぞ
ホー ホー ほうたろ来い
  (高知県香我美町)

ほうたる来い

ほうたる来い 山道来い
あっちの土手には 鬼がおる
こっちの土手には 人がおる
ホーッ ホーッ ほうたる来い
  (高知県南国市)

ほ ほ ホタルよ

ほ ほ ホタルよ
こい こい こい
おまえの夏の くいものは
山のおくの ドングリボウ
あまかわむいては がありがり
しぶかわむいては がありがり
  (滋賀県)

河童
古川柳十一首

かっぱおばいけどりさて餌にこまり
つまづいて力をこぼす川太郎
川太郎の角力うつむくと負に成り
水ぎれの河童は目高あごで
あたまへ月のやどるの河童也
河童の皿に豆蟹の居候
あたまへ目高買って来る川童の子
酔覚に河童は皿の水をのみ
これ河童引くな身どもはからっけつ
世の中の観ずればそれ河童の屁
聞いたことかいだ事なし河童の屁

河原の河童    野口雨情

夜更けに 子供が
歩いてる

頭に お皿が
載ってゐた

河原の 河童の
子供だよ

河原で 夜更けに
火が燃える

雨夜の晩だに
火が燃える

河原の 子供が
燃すんだよ

河童の小噺

河童の親子

林家彦六初演「あたま山」のマクラより(「林屋正蔵集」青蛙房)

 河童というものは、どなたもご覧になったかたはない。しかし、あるものだという観念は、われわれ子供のうちからございました。むやみに泳いだりなにかすると、『河童に尻子玉ァ(しりこだま)抜かれる』…尻子玉てえのがどこにあるんだか、こいつも知らないんですが、まァそういう伝説でございます。
 河童の親子…
 「おゥおゥ、おい、おめえも家(うち)ン中でばっかり遊んでねえで、たまには河通りへ出て、人間の子供が遊んでたら、尻子玉でも抜いてこいよ」
 「あァい、行ってくるよゥ」
 「(すっとんきょうな泣き声で)おとッつァん…」
 「泣いてやがら…どうした、どうした」
 「あたいが泳いでってね。えェいと浮かび上がったところに、人間の子供がおおぜい居やがってね、『あッ、河童だ、河童だ』ってんで、あたいをつかまえて、尻子玉ァ抜いちまったよゥ」
 「なにィ? 人間に尻子玉を抜かれた? 間抜けなやつだなァ。そっちを向いて、お尻を出して見せろ。もっとこう、持ちゃげて見せるんだ…うゥん素人にしちゃァよく抜いてある」

ホタル狩り

 初夏から盛夏への時期に合わせて、水辺の情景を取り上げました。ホタル狩りのわらべ唄と河童の古川柳、小噺です。
 夏の夕方、川べりや露のしとった草むらや、笹やぶのかげなどに、子どもたちの幾むれかが集まってきます。
 「ほう、ほう、ホタルこい」
 子どもたちは、笹や篠竹、ウチワをふりふりして、呼びかけました。
 「こっちの水は甘いぞ」
の呼びかけは、日本中どこでも同じですね。今回は、画家の種田英幸さんと私の故郷、土佐のわらべ唄を取り上げました。
 子どもたちは、うまいものをホタルに見せびらかしたり、おどかしたりして、自分の方に来させようとします。あっちの水はまずくて、こっちの水は甘いから、こっちへおいでと、呼びかけるのです。
 近江の、ちょっと違ったわらべ唄も入れておきましたが、いかがですか?
 日本中、どこでも見られたこんな情景が消えて久しくなります。取り戻す責任が私たちにはありますね。

河童と川太郎

 夏の水辺の生き物というと、河童を欠かせません。カッパとは「川のわらべ」の略した呼び方ですね。夏、川でおぼれたガキ大将だった自分の家の子どもへの思いが、川で生きる、エネルギーとユーモアあふれる妖怪を生み出したのではないでしょうか?
 頭上に水をたたえた皿をのせ、口はとがったくちばし、指には水かきと、水陸両棲の子どものような動物、河童について、作家・大野桂氏は「神にして妖怪、妖怪にして人間、三重人格の葛藤を内にかかえ込む。河童は痩せ我慢の美学に生きる伊達男である」と位置づけています。
 彼らの呼び方は河童、川太郎が一般的ですが、三百を越える呼び方があるそうです。私たちの土佐では、シバテン、エンコーと呼ばれています。
 芥川龍之介の「河童」は、彼の代表作の一つとされ、「三日月や二匹つれたる河太郎」の句も残しています。今回は、ちょっとおかしい、落語家・林家彦六の小噺と古川柳を紹介しました。 (2004.7.9)

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