鬼婿入り
田に水がのうてね、ほんでんうんと困ったやと。ほしたところが、毎年毎年水がないんやてね。不作なんやて。ほしたところが、鬼が出てきてな、
「おまえ、なんで困っとるか」
いうのやと。ほしたところが、お父さんがね、
「わしゃ水がのうて困っとろんや」。
ほしたら鬼がな、
「わしのいうことを聞いてくれたらな、おまえに田に水を出してやる」
いうやてね。
「なんでも、おまえのいうことは聞いてやるからな、水を出してくれ」
いうて、ほて鬼がね、
「お福さんを嫁さんにくれたら、水出したる」
いうんやと。ほやけど、水がないもんやけにな、
「福を嫁さんにやるから、水を出してくれ」
ていうのやと。ほしたら、鬼がな、鉄の棒持っとるやろ、あれで、コンコンコンコンたたいたら、どんどんどんどん出だしたんやて。ほしたところが、
「水を出してやったけに、娘をくれ」
ていうのやて。こりゃ、えらいことをしたと思うたけんど、しょうがないだろ。家へ帰って娘にいうたら、
「それやったら(それだったら)、しゃないけに(しょうがないから)、行く」
てな、
「ほのかわり、わたしがいつ帰ってくるやわからんけに、いつでも豆をいって出いて待っといてくれ。」
いうて行くねやて。ほして鬼のはた(そば)へ行て、今日(きょう)、おい出たろ、今日おい出たろ、思うても出る間がないのやと、鬼がきっちり監視して。ほしたところが、鬼が寝ていたから、この間にと思うて、
「うちへ帰ろ」
思うて走って出ると、後ろ見たら鬼が追いまわして来るんやと。ほして、お福さんが走ってな、ほいでうちへかけこんだやと。ほで、かけこんだら、
「早うお父さん、豆まいてくれ」
いうたんやと。ほしたところがお父さんは、そら来たというので、
「鬼は外、福は内」
いうて豆まいたところが、鬼はよう入らんで帰ってしもうた。そいでお正月の豆まきには、
「鬼は外、福は内」
て、いうのやと。
(採話 徳島 田中時子)
節分はお正月、豆は?
鬼ごっこと節分の、わらべうたと昔話です。「鬼さこっち」は目かくし鬼遊び歌、「鬼のこんまに(来ない間に)」はつかまえ鬼の鬼をはやさからかい歌、「かごめ」は人当て鬼遊び歌、「いついつ出やる」が、土佐では「寝やる」に変わっています。
「福は内、鬼は外」、とげとげした柊の葉で目を刺せばつぶれ、鰯の臭いは吐き気がするので、鬼は嫌いです。それで、どこの家でも、節分には、戸口に、柊の葉と鰯の頭で、悪霊を払うのです。
昔話「鬼婿入り」の豆まきは、現在は2月3日の行事ですが、旧暦では大晦日から元日にかけての話でした。
なぜ、鬼に豆なのか。大豆は女の尻から生まれ、芽も股芽(まめ)ともいいました。女性を象徴する言葉で、ここから、豆には弱い鬼(男?)の話が生まれたのです。
ついこの間まで、節分はお正月のことだったことを思い出しましょう。
農協協会新春の集いに出席してくれた、画家種田英幸さんは、飲食もせず、参加者の似顔絵を描いてくれました。唯一残った、編集部Nさんの顔を紹介します。
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