農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 昔々その 昔

菜の花・れんげ・桜
挿絵: 種田英幸
文: 種田庸宥 日本福祉大学客員教授



春の名句

菜の花や月は東に日は西に
与謝蕪村


わらべ唄


れんげ摘も

れんげ摘もか 花摘もか
お耳に回して スッポンポン
もひとつ回して スッポンポン
(大阪)

蝶々     野村秋足

ちょうちょう ちょうちょう
菜の葉にとまれ
菜の葉にあいたら 桜にとまれ
桜の花の さかゆる御代に
とまれよ あそべ あそべよ とまれ
(小学唱歌集・明14年)


おぼろ月夜   高野辰之 詞

菜の花畠に 入日うすれ
見渡す山の端 かすみ深し
春風そよ吹く 空をみれば
夕月かかりて 匂い淡し
(小学唱歌・大正3年)

 


百田(ひゃくでん)話

 種作とっさまの自慢の種は、
「おらちの田んぼは百あるんだぞい」
ということだった。山の上から下まで、段々のように、丸いのやら、四角いのやら、三角やら、大きいのに小さいのが、みんな合わせて百あったと。
 その田んぼに苗が植えられ、秋の取り入れになった。そこで、種作とっさまと息子と嫁は、麦飯の入った飯びつさげて、稲刈りに出かけた。
 稲刈りのあと、段々田んぼのてっぺんに腰をかけ、飯を食っているうちに、種作とっさまはうれしくなってきた。
「数えてみんか、おらの田んぼは、ちょっきり百あるぞい」
 そこで息子と嫁も、箸を持つ手を伸ばし、ふもとのほうから、ひい、ふう、みいと数えた。九十九しかない。
「おとう、百にゃ1つ足らん」
 種作とっさまは
「ばかこくな。おら、むかしから何べん数えてみたかしんねえ。よく数えてみい」
 息子と嫁は、また、ひい、ふう、みいとやってみたが、やっぱり九十九だ。種作とっさまはやっきになって、
「えい、今どきの若いもんは、百の勘定もできん」
と、念入りに数えてみたが、何としたことだ。九十九しかない。
 しばらく考えていた種作とっさまはひざをたたいた。
「そうだ。みんなけつ上げろや。この辺に一枚あるべ」
と、息子や嫁を立たせ、ついでのことに飯びつを持ち上げてみた。そうしたらどうだ。飯びつの下に、田んぼが一枚、隠れておったそうな。種作とっさまは大いばり、
「どうだ。これでちょっきり百だぞい」
(中部地方採話・松谷みよ子)


棚田のれんげ

 菜の花が咲き、ひときわ明るい、大阪の田園風景の中で、蕪村の名句は詠まれました。「れんげ摘も」は、れんげ草が咲き乱れる田んぼを歩き回りながら口ずさむ、女の子のわらべ歌です。
 「蝶々」は、スペイン民謡に、愛知師範の教員、野村秋足が詞をつけたのですが、大阪河内長野には、まったく日本的なメロディーの「蝶々、蝶々、菜の花たかれ」というわらべ唄が残されています。
 「おぼろ月夜」は、皆さんも唄われた、小学6年生の唱歌です。
 「百田話」は、皆さんが毎日見ておられる(最近、少しずつ少なくなってきて残念ですが)棚田の話です。楽しい、面白い話とばかりはいっておられませんね。大変忙しい時期、がんばってください。

(2005.5.9)

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