豆狸(まめだ)
雨の しょぼしょぼ 降る晩に
豆狸が 徳利持って 酒買いに
「今晩は!」
壊(つ)えた お城の 蓮池で
貂(てん)が化かすき 気をつけよ
「風が出たかよ!」
(土佐のわらべうた)
(注)壊(つ)えた=くずれた
化かすき=化かすから
へんろ坂の豆狸(まめだ)
むかしむかしのお話です。四国八十八カ所、仏生山法然寺の南に、へんろ坂というところがありました。
ある日の夕方、魚屋のおっさんが、商いの帰りに、へんろ坂の中ほどを歩いていると、大きな松の根もとで、豆狸(まめだ)が何かしております。おっさんがそーっと見ていると、しきりにモバ(水草)を頭にかぶっておりました。
「おーっ、やりよるわい」
おっさんは、狸がモバをかぶるのは、何かに化けるときだということを思い出しました。豆狸は、やがて、かわいい娘さんに化けてしまいました。それを見たおっさんは、いたずら心をだし、
「いっちょ、からかってやれ」
と、豆狸が化けた娘さんに近づいていきました。
「娘さん、娘さん、そんなところで、なにしよる」
「あら、魚屋のおっさんか。ちょっと町へいこうと思うたんやけど、足をくじいてしもうて」
「かわいそうに。どれ、わしがおぶってやろう」
と、おっさんは何くわぬ顔で、娘さんを背負ってやりました。でも、心の中では「町にいったら、この豆狸、売りとばしてやろう」
と、考えていたのです。
おっさんが、急ぎ足で町に向かっていますと、急にあたりがまっ暗になってきました。
「へんだぞ、夜になるには、まだ早いんじゃが…」
と、ちょっとふしぎな気がしましたが、しっかりと背中の狸をおさえつけ、
「おいきてくれ、狸をつかまえたぞ。はよう、なわでしばってくれ!」
と、道行く人にさけびました。
すると、そのときです。うしろから、トントンと背中をたたかれ、おっさんはハッとわれにかえりました。
なんと、おっさんは、石灯ろうの火を灯すところに頭をつっこんで、わめいていたのです。
狸をからかったつもりのおっさんは、まんまと狸に化かされていたんだとさ。
だましたつもりが
だましたつもりがだまされる。狸と人間の化かしあいを探して、讃岐の昔ばなしと土佐のわらべうたを選びました。
「豆狸」は40年前の岩波文庫から探したのですが、夏休み、高知の図書館で「土佐のわらべうた」を読むと、こんな短い歌に、2つも聞き取り間違いがありました。方言は難しいですね。なお、現在の岩波文庫は訂正してある由。私も直しておきました。
選挙も狸がいっぱいでしたね。選挙前の新聞には、「構造改革、次のターゲットは農協」と大きく出ていました。化かされないよう気をひきしめましょう。