私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のように、
地面(じべた)を速くは走れない
私がからだをゆすっても
きれいな音は出ないけど
あの鳴る鈴は私のように
たくさんな唄は知らないよ
鈴と、小鳥と、それから私
みんながちがって、みんないい
初夢は話さない
土佐湾の真ん中、仁淀川河口の若者宿で、お正月の三日、村の若者たちが、二日の夜に見た初夢の自慢をしていました。
だけど、弥吉だけは
「とても良い夢を見たけど、話さん」
というので、みんな怒って、弥吉を小さな舟に乗せて、海に流しました。舟は流れて流れて、正月の一六日に、岩ばかりの島に流れつきました。鬼が島でした。
「うまそうな人間の子じゃ。早く食おう」
と鬼たちが騒いでいると、一匹の鬼が、
「待て、待て」と走ってきました。
「大王様が、そいつを細かく切って、鍋汁にして、皆で食うから、つれて来い」
と、弥吉は岩屋につれていかれました。
大王が弥吉に、
「言い残すことはないか」
というので、弥吉はふるえながら、
「鬼の大王様が、代々持っている宝物を、あの世への土産に見せて下さい」
というと、大王は奥から、三本の木の棒を持ってこさせて、
「この棒は『千里、千里、早くとべ』というと、すぐ千里とぶ。この棒は耳にあてると、鳥のことばが分かる。そして、この棒で、死んだものの顔をなでると、たちまち生き返る。これが宝物よ」
と自慢しました。
「へえ、これが大王の宝物ですか」
と、三本の棒を手にとった弥吉は、
「千里、千里、早くとべ」
と、大王の呪文をとなえました。すると、たちまち、からだが浮き上がりました。
「しまった。そいつをつかまえろ」
と、大王が叫んだときには、もう弥吉は空高く飛んでいました。
海を越え、山のふもとの寺の前におりると、カラスたちが鳴いていました。きき耳棒を耳にあてると、川向こうの長者の娘が、病気で死んだと話しています。
弥吉はすぐ、長者の家の行くと、
「私が娘さんを生き返らせます」
と、部屋で一人にしてもらって、三本目の棒で、娘のほほをなでると、娘の顔が輝いて、目をぱっちりと開きました。
大喜びの長者は、縁起の良い弥吉をムコにしました。これは、弥吉が初夢で見た通りでした。初夢は誰にも話さないでいると、夢がかなうというお話です。
みんなちがってみんないい
正月二日の夜に見る夢が初夢です。あなたはどんな夢をごらんになりましたか。
初夢には、その年の運や願いごと、将来までを占う力があるといわれています。そして、よい夢を他人に話すと、幸せは相手に持っていかれるそうです。
金子みすずは、「みんなちがってみんないい」とうたってくれていますが、あなたの今年の初夢は、どんなだったでしょうか。