農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 昔々その 昔

姑と嫁は
文: 種田庸宥 日本福祉大学客員教授
挿絵: 種田英幸



四季の月

一、さきにおう、やまのさくらの、
  花のうえに、霞みていでし、
  春の夜の月。

二、雨すぎし、庭の草葉の、
  つゆのうえに、しばしはやどる
  夏の夜の月。

三、みるひとの、こころごころに、
  まかせおきて、高嶺にすめる、
  秋の夜の月。

四、水鳥の、声も身にしむ、
  いけの面に、さながらこおる、
  冬の夜の月。

(小学唱歌集 明17)

ぼたもち蛙

 むかし、とても仲の悪い、ばあさまと嫁が、いっしょに住んでいました。
 ばあさまは、よそから何かもらっても、嫁にはだまって、自分だけ食べていました。
 ある日、ばあさまが留守居をしていたら、よその家の人が、ぼた餅を持ってきてくれました。
 ばあさまは腹いっぱいに食べたが、五つばかり残ってしまいました。これもやはりひとりで食べようと思って、鉢にいれてふたをして戸棚の中にしまいました。
 そして、ぼた餅に、
「嫁が見たら蛙になれ、おれが見たら、ぼたになれ」
 と、何度も言いきかせました。そして、ばあさまは、急ぎの用で出かけました。
 ところが嫁は山仕事から帰って来て、戸口のところで見ていたので、ばあさまのしたこと、言ったことを、すっかり知っていたのです。
 ばあさまが出て行くと、嫁はぼた餅をみんな食べて、代わりに蛙をたくさん入れておいて、知らん顔をして、また仕事に出かけました。
 そして、ばあさまは、あのぼた餅を食べたいと、楽しんで帰ってきました。
 鉢を出してふたをとったら、ぼた餅はみんな蛙になってしまって、ぴょんぴょんと跳び出したから、ばあさまは気をもんで、
「こら、ぼた、おれだ、おれだ。そんなに跳ぶと、あずきが落ちるが」
 と言って、あわてて追いかけて行ったけど、蛙はみんな外の池へとびこんでしまって、もうどうしようもなかったと。
  いちがさけた。柳にとんぼがとまった。
(新潟県のばあさま)

いちがさけた?

 こういう嫁と姑の話はどこにでもありますね。江戸時代初期の「醒睡笑(せいすいしょう)」にも出ています。
 これを話してくれたのは、もう姑になったばあさまですが、自分が嫁にきたころの話を、クツクツ笑いながら話してくれました。
 結びの句「いちがさけた」は「一期(いちご)栄えた」→「市が栄えた」→「いちがさけた」と転じた言葉で、「めでたし、めでたし」の意味があります。

(2006.6.7)

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