農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 昔々その 昔

江戸小ばなし
挿絵: 種田英幸
文: 種田庸宥 日本福祉大学客員教授



二人女房

 「お前さんの御亭主は、堅くて結構だねえ」
 「堅いばかりで、面白くもおかしくもない人でね、そこへゆくとお前さんの御亭主は」
 「そうなんだよ。浮気者でねえ。あとからあとから女をこさえて、わたしを騙してるんだから。だから、わたしの子供だって、あの人の子だかどうだか、わかったもンじゃァありゃァしないよ」
 「?……」

医者の落胆

 「先生、今日は大分浮かない顔をしていらっしゃるが、どうしました?」
 「どうも病人を三人なくしてしまったのでねぇ」
 「え、三人とも死んじまいましたか?」
 「いや、なおってしまった」

いびき

 「お前さんはひどいいびきだ」
 「冗談いうな。あんまり他人が、おれのいびきがひどいというから、こないだ一晩まんじりともしないで聞いていたが、ちっともいびきはかかなかった」

雷の子

 大雨の降るとき、ある人、そとから帰りがけに、道で小手マリほどの玉子を1つ拾った。家へもってかえって、2、3日あたためてみると、玉子は割れて、中から小さい雷の子が出た。背中にしおらしい太鼓を背負っている。
 鳥かごへ入れておいて、4、5日してから、茶せんに水をそそいで、ぱっぱっとかけてやると、鳥かごの中を、ごろごろと廻る。
 近所中の評判になって、われもわれもと見物にくる。隣町の者までもおしかけてくる。
 あるとき、いきな内儀が、かごのそばへ寄って、しゃがんで眺めながら、たばこのけむりを雷の子へふっとふきかけると、ふいと、そのけむりにのって、かごからぬけて天井へあがり、行方知れずになってしまった。

久しぶりの小ばなし

 久しぶりの江戸小ばなし。浮気な亭主の悪口のはずの「二人女房」は「自分の産んだ子は誰の子か」と笑わせます。
 先日、読書会で読んだ、ゴミ捨て場の掘立小屋での生活を描いた山本周五郎の「季節のない街」には、こんな話があちこちに出てきます。
 黒澤明監督が「どですかでん」という題名で映画化していますから、ぜひ、ビデオを借りて観て下さい。
 病人がなおったら困る医者の話など、最近の新聞をにぎわしていますね。
 本紙編集部を、画家・種田英幸氏と訪問、同宿したとき、私も自分のいびきが大変気になりました。
 小ばなしといえない「雷の子」も楽しいからいれておきましたが、いかがですか。

(2006.7.21)

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