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コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」 |
農業の六次産業化と農業の産業化
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「今村先生がかねてより説かれてきたという農業の六次産業化と、いま中国で推進されつつある農業の産業化とは、どこがどのように違うのでしょうか」
こういう鋭い質問が中国でのシンポジウムの席上で提起された。質問したのは大連市の唐農業局長である。 昨年10月15日、中国遼寧省政府主催の「東アジア農業の発展と創新」をテーマとした中国、日本、韓国の食料・農業・農村をめぐるシンポジウムの席上であった。日本を代表して私が基調報告を行ったが、それに対する質問である。 さて、質問の意図は極めて重要な内容を含むので若干の解説をしておきたい。私が10年ほど前から説いてきた農業の六次産業化(一次×二次×三次=六次産業)についてはご存じの方は多いと思うが、農畜産物を原料の姿のままで出荷するのではなく、さまざまなかたちの加工を行い、また農業生産者を多様なかたちで組織し、食品加工企業や農畜産物の流通・販売企業に対して多面的な販売力を強化して、あるいはまた消費者に直接販売するなどの手段を通して、農業生産者により多くの所得と農村に多様な就業機会をつくり出そうではないかという戦略である。 これに対して、いま中国で推進されている農業の産業化という路線は、龍頭企業と総称される食品加工企業や農畜産物流通・販売企業が、未組織状態にある農業生産者を上から組織して、原料となる農畜産物や消費者に届ける生鮮農畜産物を量・質両面から確保しようという路線である。端的に言えば、食品加工企業や農畜産物流通・販売企業による上から、あるいは外からの農業生産者の「垂直的統合」という路線である。中国の農村の現場を詳細に調査してみると、ごく一部の事例を除けば、全くと言ってよいほどに農業生産者の自発的組織化は進んでいない。つまり、農民の「水平的結合」は極めて未熟である。 こういう状況から推測しうることは、龍頭企業による農畜産物の買いたたきの可能性が常に存在するということである。こうした龍頭企業に対抗するためには、いかに農民の「水平的結合」つまり組織化を図り、その組織力のエネルギーと販売交渉力で対抗しつつ、農民の所得の向上と地域農業の活性化を図るかという課題が、これからの中国農業・農村問題改善の第一歩となるのではなかろうか。 大要、以上のような内容について、唐農業局長の質問に答えた。出席者の多くもうなずいていたので、納得してもらえたのではなかろうか。 さて、以上のような回答の背景には、私なりの中国農業についての実態調査とその分析の蓄積があったからである。私は昨年8月、中国で自らの著書を初めて公刊した。『中国県級市農村発展研究――河北省鹿泉市農村経済発展的戦略計画』で、大手の中国農業出版社から刊行された。私の弟子の小田切徳美東京大学大学院助教授と張安明農政調査委員会専門調査員との共著である。河北省の省都の石家荘市に隣接する鹿泉市で3年近くにわたる詳細な農村実態調査を踏まえ、その分析・考察の上にたって、鹿泉市の農業・農村発展計画を市当局に提案したものであるが、この報告書が中国のこれからの地域農業改革の基本戦略を示していると認識され公刊されることになった。もちろん、誤りなきを期すために、わが国でもその名を知られている陳錫文、劉志仁、劉志澄氏など中国中央の権威者に専門家委員になっていただき、いろいろとアドバイスやコメントをいただいた。 この一連の調査・研究は(社)農山漁村文化協会創立60周年記念事業の一環として行われたという事情もあって、同時出版のかたちで日本でも『中国近郊農村の発展戦略』(農文協)として公刊された。他山の石として読んでいただければ幸いである。 (2005.2.24)
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