第1回地域水田農業ビジョン大賞が決定し、去る7月19日にその表彰式が盛大に行われるとともに、あわせて受賞代表者を中心に有意義なパネルディスカッションが開催された。私が審査委員長を務めたことでもあり、その審査を通して考えたこと、痛感したことを述べてみたい。
周知のように、地域水田農業ビジョンの策定と実践は、水田地域の農業構造改革を進め、売れる米、麦、大豆づくりをはじめ安全安心な多様な農業生産、そして集落レベルからの担い手づくりを通した農業、農村の活性化を進める政策として、くまなく全国にわたり推進されている。
第1回ということもあり、18道県から18の水田農業推進協議会が推薦されてきた。その中から、大賞として花巻地方水田農業推進協議会(農林水産大臣賞)と鶴岡市水田農業推進協議会(全国農業協同組合中央会会長賞)の2協議会が受賞した。優秀賞には阿武地域(山口)、菰野町(三重)、五個荘(滋賀)、阿仁部(秋田)、留萌市(北海道)、筑穂町(福岡)、関川村(新潟)、玖珠九重(大分)、奨励賞には砺波市(富山)、岩美町(鳥取)、相知町(佐賀)などの水田農業推進協議会が表彰された。
大賞を受賞した花巻は集落レベルから徹底した討議と実践、売れる米づくりはもちろん、ヒエ、アワなど雑穀の生産と販売戦略がすぐれていた。また鶴岡市はすでに平成12年から集落からの話し合いの推進方策を進めており、売れる米づくりはもちろん特産のだだちゃ豆(枝豆)をはじめ園芸団地づくりなどが高く評価された。
さて、今回はじめて実施された地域水田農業ビジョン大賞の審査を通してみて実感したことは何か。私がかねてより信条としてきたことであるが、「多様性の中にこそ真に強靱な活力が育まれる。画一化の中からは弱体性しか生まれてこない」ということであった。
ビジョン大賞を受賞した2つの協議会、そして優秀賞、奨励賞を受賞した11の協議会について紹介する余裕がないのが残念であるが、これら13の協議会は、それぞれ個性に充ちた水田農業改革についての基本戦略とその実践の道筋を示してくれている。自らの足元を見つめ、かつ全国の動向を見渡し、消費者、国民の求めているものは何かを探りつつ、ビジョンの策定と実践に取り組んでいる姿を見て取ることができると思う。
かつての全国一律減反方式、つまり言葉を換えて言えば、トップダウン方式(中央集権的画一型農政と言ってもよい)から脱却して、ボトムアップ方式、つまり地域提案型創造的農政とでも言うべき姿勢へと大きく転換してきていることを、膨大な申請書類を審査委員長として読みこなす中から痛感したのである。
このことと併せていま一つ痛感したことがある。今から2年半前、水田農業ビジョンの策定と実践が農政の最重要課題として提起されたときに、私はビジョン策定にあたり、次の10項目についての真剣な討議とその具体化について、全国の農村に呼びかけた。
(1)誰が、(2)誰の(またはどの)土地で、(3)何を、(4)どれだけ、(5)どういう品質のものを、(6)どういう技術体系で、(7)いかに資源や環境を保全しつつ、(8)いつ作り、いかに加工してどのような方法でいかに売るか、(9)以上を推進するために産地づくり交付金をいかに活かすか、(10)そのための推進体制を集落レベルからいかに作るか、とりわけJA改革をいかに進めるか。
今回の表彰事業の審査を通して、受賞協議会のいずれもが共通してこの10項目について、とりわけはじめの3項目について真剣な討議を集落レベルから積み上げ実践している姿に感銘をおぼえた。この受賞集団に学び全国津々浦々で全力をあげて取り組んでもらいたい。
(2005.8.16)