農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

中国農政代表団の見た日本農業
―新農村建設の示唆に―

 「日本の農民の内発的発展力のすばらしさ、農協の指導者たちの企画力、情報力、組織力などの高さ、そして生態環境保全農業への推進力など、多くのことを学びました」。去る1月中旬に訪れた中国の農政代表団の皆さんは口々にこのような感想を述べられた。来日したのは、中国国務院参事の劉志仁、浙江省慈渓市農業局長の許文東、中国農業部農村経済研究中心国際合作処長の劉光明の3氏である。
 のちに述べるように日中農業共同研究を10年間にわたってすすめてきたのであるが、昨年度は中国浙江省の寧波市に隣接する慈渓市で日本側が調査したので、今年度は慈渓市と似た立地条件にある千葉県房総地域を調査対象に設定して案内したわけである。慈渓市は杭州湾の南岸に立地し沿海部は工業化が進み、その立地条件は、京葉工業地帯の後背地にある千葉県房総地域と多くの共通項をもっている。
 調査対象として設定したのは(1)館山道の道の駅に併設された直売所富楽里(ふらり)、(2)若林牧場、(3)鴨川市大山千枚田(4)JA富里市、(5)JA山武郡市、(6)ジャスコ津田沼店であった。
 富楽里は道の駅に併設された直売所であるが、富浦漁協、商工会、そして農民の組織化による農産物直場所が併存している。農・水・商の三者一体の直売所に驚きの目を向けるとともに、黒川正吾支配人による農産物生産者の組織化の苦労話に耳を傾けていた。かつてJAに勤めていた黒川氏の農民の組織化による出荷者の育成について多く学んだようである。
 若林牧場では順一・和夫両氏による乳牛の2本立給餌法に聞き入るとともに、その規模拡大過程、優良牛の飼養体系、廃棄物の処理と優良堆肥の製造、野菜作への全面活用などについて鋭い質問を投げかけていた。いま中国では酪農の振興が大きな政策課題でもあるからである。なお若林牧場は食農教育のモデル農場にもなっており子ども達が訪ねてくることに注目していた。ついでながら若林牧場は中国人口論の大家である若林敬子東京農工大学教授の実家でもある。
 大山千枚田では石田三示理事長、長村順子理事の説明を聞きながら折からの夕陽に光る冬水張り水田を見つめつつ眼を光らせていた。生態環境農業の拠点として、また新たな農村・都市交流の拠点として棚田保全の意義と役割について考えながら、中国の退耕還林政策のあり方に想いを馳せていたのではないだろうか。
 ついでJA富里市では仲野隆三常務の農産物販売戦略の改革過程について食い入るように聞いていた。従来の無条件委託販売路線を一新し、直売はもちろん、量販店・生協などへのインショップシステム、外食・中食・加工企業等との直接取引システム、さらには地域の消費者、学校、病院、養護施設等弱者への供給・販売システムに目を輝かせて聞き込んでいた(なお、本紙06年1月10日号「どっこい生きてるニッポンの農人(5)の記事を参照してほしい」)。
 ついでJA山武郡市では鈴木啓一販売開発部長を中心に話を伺うことができたが、JA富里市同様、近年販売戦略の改革の中で、卸売市場への出荷が低下し、直売、インショップ、契約販売などの比重が大きくなり、生産者手取り最大化の路線が定着しつつある。JA富里市も山武郡市も、JAとしてはわが国有数の多種にわたる生鮮野菜の主産地であるが、いずれも共通して販売戦略の改革に取り組んでおり、食と農の距離を縮めるための努力を行っているが、その販売戦略の改革に代表団は目を見張っていた。生産者農家も訪ねたが紙数の制約で残念ながら割愛せざるをえない。
 日中農業共同研究は農水省の支援のもと(財)農村開発企画委員会を中心にこれまで10年間進められてきた。そしてここでは紹介するいとまはないが大きな成果をあげてきた。中国では三農問題が大きな政策課題となり、ここ3年間続けて中国中央の年初に出す1号文件は食糧、農業、農村、農民問題に焦点が当てられている。今年の1号文件は「社会主義新農村建設」が中心テーマとされているが、今回の千葉県下における調査が貴重な示唆を与えることになると考えている。

 
(2006.2.17)


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