農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

水田農業改革のトップランナー(その3)
―当麻町水田農業推進協議会―
ワンフロアー化でビジョンの徹底推進

 当麻町では農協会館の2階に、JA担当者はもちろん、町農林課、農業委員会、土地改良区など町内農業関係機関のすべてを結集、農業合同事務所を設置し、27名のスタッフにより、ビジョンの策定から実践にいたるすべての事業を一体的に推進している全国でも前例の少ない革新的農政が実現している町である。
 当麻町は惜しくも大賞を逃し優秀賞(農林水産省生産局長賞)であったが、その活動の内容は大賞にふさわしいものであったと考えている。
 当麻町は北海道のほぼ中央、旭川市の北東に位置し、農家数700戸、水田約3600ha。大陸性気候を生かし、稲作を主体とし、施設野菜、花きを中心に複合経営を導入、北海道米ガイドラインランキングでは総合評価で7年連続トップの良質米を生産し、カントリーエレベーターを利用したJA独自の白米販売(ホクレン経由)を実施している。
 さて、当麻町の第1の特徴は、はじめに述べたように農業合同事務所の設置による「ワンフロアー化」が実現し、生産者、組合員の要望に対しスピード感をもって対応できる体制ができていることである。JA当麻町の冨田一義組合長の提案によるワンフロアー構想であったが、町長、町議会あるいはJA内部からの反対は当然強かった。しかしそれらを説得し、実現したことが、当麻町農業の改革と発展に寄与していることは、今では明らかになっている。

◆高度複合産地化を進める

 まず取り組んだことはゾーニングの導入をめざし転作定着推進事業を実施したことである。平野部と中山間地帯を区分し、中山間地帯での施設野菜や花きの定着と安定化をはかり成功を収めている。また、農地の貸借による規模拡大の進展とともに、農地の分散の激化と通作距離の拡大という好ましくない事態がみられていたが、農地の交換等により農地の合理的集積がはかられている。農業委員会を取り込んだワンフロアー化の成果が目に見えるかたちで実現しているのである。
 第2の特徴は担い手の育成にあたり合同事務所を中心に積極的に進められていることである。認定農業者は平成16年度には前年度の80人から140人へと大幅に増加し、また認定農業者への農地集積率も61.3%へと大幅に増加してきており、現在、この方向はさらに確実に拡大中である。
 第3の特徴は米を中心に野菜、花き等の複合産地化を進めていることである。米については、さらなる良質米産地の確立へ向けて、合同事務所策定の数量ランキング配分を導入し、ランキング上位者には上乗せ配分により意欲向上を促している。また、野菜や花きについては苗の供給施設、共選施設を設置し、さらにヘルパー利用組合を設立し、作業の効率化や合理的労働力配分と十分な休養がとれるなどハード、ソフト両面での産地育成につとめているなど目を見張るものがある。とりわけ特産のデンスケスイカは全国的に高い評価を受け、また日本農業賞受賞の栄誉にも輝いている。このように、かつての米単作地帯から大きく脱却をめざし、キュウリ、デンスケスイカ、トマト、ミニトマト、菊、カーネーション、バラなどの栽培面積は大幅に伸び、大規模複合経営の定着と総合産地化への道を、水田農業ビジョンの策定と実践を契機に、またワンフロアー化による農業合同事務所の設置による農政の総合化、体系化の実施の中で、大輪の花を咲かせつつあるのである。

◆地域から多彩なビジョンを

 さて、この欄でこれまで3事例しかとりあげることができなかったが、受賞したそのほかの協議会もすばらしい活動を行っていた。
 優秀賞(食糧局長賞)を受賞した岩手の矢巾町水田農業推進協議会(以下地名のみを示す)は、小麦ともち米の団地化を徹底推進しており、同じく優秀賞(食糧局長賞)の宮崎の都城・北諸県地域は、中山間地帯で農地集積と効率利用を図り、優秀賞(生産局長賞)の福井の名田庄村は一村一農場構想の実現へ向けた注目すべき活動をしており、優秀賞(経営局長賞)の新潟の頸城地区は大豆、大麦の大規模機械化体系による農地流動化と効率生産を実現しており、同じく優秀賞(経営局長賞)の滋賀の日野町では飼料稲の作付拡大と組織化、法人化に取り組み、優秀賞(全中水田農業本部委員長賞)の十和田市地域は地域独自の営農組合の設立を通じ総合産地化をめざし、奨励賞の山形の白鷹町は公社による農地集積をてこに地域農業改革に取り組み、同じく奨励賞の鳥取の大山町中山地域では郷土料理向けの米と多彩な野菜産地化を推進している。
 このように、第2回地域水田農業ビジョン大賞の審査を通じて見て、いずれの地域でもそのすぐれた活動が見られ、惜しくも大賞を逃したところも大賞と決して遜色がないと評価ができる。このようにいずれの協議会も明日の水田農業のあるべき姿を指し示していることを審査を通して痛感した。これら先進事例に是非学んで欲しい。

挿絵: 種田英幸
 
(2006.9.12)


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