農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

この町に子どもは残るか?
―子どもがやりたくなる農業を―

 「この町に子どもは残るか」。この根源的な問い掛けを、私は、各地の農民塾生や講演の折などに問い続けている。先日も、酒田スーパー農業経営塾の公開講座(旧八幡町日向地区、現山形県酒田市)で問い掛けた。予想に違わず、意見百出。「いまのままでは残らない」、「いや、農業の現状を改革すれば残る」、「親が指導すれば何とかなる」、「いや、親の姿を見ていれば出ていくだろう」、「ともかく、子どもがやりたくなるような農業の姿を作っていかないとだめだ」。ざっとこういう具合で議論はとめどもなく続いた。
 こういう問い掛けと合わせて、私は機会を見つけては、農村地域にある中学校の先生、とりわけ進路指導に当たっている先生方にお会いして、最近の生徒の希望、そして相談にやってくる生徒の親(圧倒的に母親が多いという)の意向はどうかと聞いて回っている。もちろん、統計をとれる程のデータはないが、私がこれまで聞いた限りでは基本的特徴は次のように整理できる。
 母親の意向、それに子どもの希望を重ねて一言で表現すると、「士」のつく職業を望んでいるのが圧倒的に多いことが判った。男女でもちろん違いはあるが、例えば、建築士、測量士、社会福祉士、電気工事士、管理栄養士、保育士などである。いずれも国家試験などがあり、一定の資格のもとに、相対的に安定した、要するに食いはぐれのない職業と考えられているものである。こうしたそれぞれの「士」になることを目指して高校、大学などへの進路指導をしているようであるが、読者の皆さんの地域の中学校ではどのようになっているのだろうか。是非、一度、自ら足を運んで調べてもらいたい。

◆魅力ある農業の創出を

 それはともかく、昭和45年(1970年)には、全国の新規学卒就農者、つまり学卒の農業の跡つぎは中学卒1万200人、高校卒2万9400人、計約4万人いたのが、平成17年(2005年)には僅かに高校卒1700人、大学卒800人、計2500人へと35年間で目をおおうように激減しているのである。農村でも少子化時代の現実の中で、この傾向はさらに今後も進み、農業への新規学卒参入者は激減していくのではなかろうか。
 たしかに近年、他の職業に就いていて農業へ帰農するいわゆる離職就農者、あるいは団塊の世代で定年帰農者は増えてきている。しかし、5年先、10年先の地域農業が活力を持つためには、新規学卒のぴちぴちした意欲あふれる若者がいなければならない。そのためには、それぞれの地域、それぞれの町や村ごとに、いまの小学生、中学生にとって魅力ある農業の姿を創り出すことが親世代の責務ではなかろうか。

◆長男集団のしがらみ

 ところで、かねてより私は、日本の農村は長男社会、長男集団であり、それと対照的に都市や企業は農村から排出された農家の次三男社会、次三男集団であると考えてきた。もちろん、現在では、都市や企業では世代の再生産が行われ変わってきているが、かつての高度経済成長時代には、都市や企業は農村出身の次三男でその増加人口は埋めつくされていたと言ってよかった。
 農村では、長男が家督、そして田畑山林家屋敷という家産、さらに農業という家業の3つを継承するものとされてきた。明治民法ではその規定が厳しく定められていたが、戦後の新民法になっても、その慣習は続けられてきた。その結果として農村は長男社会、長男集団という特徴を現代でも色濃く持っている。

◆出すぎた釘は打たれない!?

 長男は義務感、正義感に充ちあふれ、秩序を重んじ、責任感が強い。しかし、次三男などと違って長男は残念ながら思い切った改革への道をなかなか一歩踏み出そうとしない。守るには強いが攻めるには弱いところが共通してあるように思われる。何か斬新な農業、農村の改革路線を打ち出し実践しようとすれば、「出る釘は打たれる」、「後ろから鉄砲を撃たれるのではないか」という心配を、長男はいつもしているように、私から見れば思われてならない。要するに守旧派、保守派が圧倒的に多いということではなかろうか。
 しかし、いまや21世紀にふさわしい、次代を背負う子どもたちが喜んで引き継いでくれるような、地域農業の新しい姿、展望ある新しい農業経営の姿、そして地域の司令塔の役割をもつすぐれたJAの姿を創り出さなくてはならないのではないだろうか。それは、これまでの農業を支えてきた親世代自らが、長男集団というしがらみを乗り越えて、地域の英知を結集しつつ提示し、創り出していかなければならない。先日お会いした一村一農場を推進し実践しているあるリーダーの方は、もちろん長男であるが、「出すぎた釘は打たれない」と大笑しつつ、私に将来展望を語ってくれた。この地区の小・中学生はこの農場を熱い眼差しで見つめていることだろう。

挿絵: 種田英幸
 
(2006.9.28)


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