農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 今村奈良臣の「地域農業活性化塾」

全国の導きの星が輝く―その2
―二丈町水田農業推進協議会に学ぶ―

◆水田利用率200%を実現

 「この深江地区では21世紀型水田農業モデル圃場整備事業により水田1枚の広さが平均で3.4ha、最も大きいのは4.3haもあり、それまで零細かつ分散していた水田が集約され大型機械が自由に入れるようになるとともに、JA糸島が行う農地保有合理化事業で地区内農地154haについて利用権の一括設定を行っています。そしてこの農地の利用調整は営農組合へ全面白紙委任を行い、規模拡大をめざす農業経営者(認定農業者)等を中心に農地の集積をはかっています」。現地審査の折、深江地区で説明に当たった二丈町の重正善産業振興課長は大規模水田を前にこのように切り出した。
 現地審査で二丈町を訪ねたのは5月24日であったが、当日は晴天で二条大麦(ビール麦)の収穫でコンバインがあちこちの水田でうなりをあげ走り回り、カントリー・エレベーターには搬送トラックがひっきりなしに出入りしていた。このコンバインやトラックを駆使しているのは、認定農業者たちが組織した「農事組合法人夢未来ふかえ」のメンバーであったが、超繁忙の中で残念ながら彼ら経営者やオペレーターの声を聞くことができなかった。ついでながら、この「夢未来ふかえ」は実に延べ作業受託面積267haをこなしているとのことであった。
 さて、この深江地区の第2のすぐれた特徴は水田の利用率が200%近いということである。水稲の後作にブロッコリーおよび部分的だが青汁の素になるケールを作付けしている。ブロッコリーの作付面積は実に68haに達しており、作付面積、生産量ともに福岡県最大の産地を形成しているのである。この地区はもともと水不足地帯であったが、水稲、麦、大豆、ブロッコリーを主力に、それに部分的にケールなども加えて、適切なブロック・ローテーションを確立して200%近い土地利用率を実現するとともに、合理的水利用と水配分を実現し、高収益のブロッコリーにより高い所得水準を実現している。
 さらに深江地区には大きな第3の特徴があった。大規模圃場整備を実施するにあたり「土地利用型農業地区」と「施設園芸型農業地区」に分離することを実施したことである。だから土地利用型農業地区にはハウスなどの構築物が一切ない代わりに、施設園芸型農業地区には、ガラス温室やビニール・ハウスなどが整然と埋めつくされていた。そこでは礫耕(レッコウ)トマトやキュウリなどを中心に集約的産地が形成されていた。
 このように深江地区では、地域の将来を担う農業者の意向を踏まえつつ、圃場整備を契機に、土地利用型大規模農業と施設型集約農業の両者の発展とそのための土地利用調整を基本にすえた計画とその着実な実践の姿を見ることができた。
 この深江地区での典型的な活動は全町を通じて拡がっており、町内の全水田面積608haのうち実に66%にあたる401haで利用権の設定が行われており、担い手への農地集積と規模拡大、農地の有効利用の方向が着実に実現しているのである。

◆ピンピンコロリ路線実現の「福ふくの里」

 二丈町はさきに述べた玄界灘に面した深江地区に代表される平坦部に対して背振山系に連なる広大な中山間地域がある。現地審査では、その代表地域である福吉地区を訪ねた。
 まず強烈な印象を受けたのは福吉地区の中心にある直売所「福ふくの里」のにぎわいであった。地域でとれた特別栽培米をはじめ生鮮野菜、多彩な加工食品、果実などはもちろん、特産の和牛の牛肉、牛乳製品、さらに漁協と連携した多彩な水産物、海産物であふれていた。地元の消費者はもちろんだが、遠く福岡市など大都市から定着したファンが多数いるのであろう、大変なにぎわいを呈していた。出品者の多くは女性や高齢者で組織され、私がかねてより主張してきたピンピンコロリ路線が実践されていることを痛感した。特に安全、安心な農畜産物を、ということが合言葉になっているという。有機自然農法の理論的、実践的指導者として著名な宇根豊氏がこの地区の出身者であり、そのことを誇りにして宇根理論を実践していると現地の皆さんは口々に述べていた。
 この福吉地区でも地域の実態に即した圃場整備事業が実施され、かつての零細・分散した水田は大幅に改善され、それを背景に担い手への農地集積を特定農業団体である農事組合法人「福入の郷(ふくいりのさと)」への作業受託、農地委託など、実情に即した地域農業の構造改革は、中山間地域の実情を踏まえて着実に進められていた。私が特にこの地域で注目したのは、水田の多面的活用(米、麦、大豆、牧草のブロック・ローテーション)と水田農業の機械化の推進を背景に、収益性の高い多彩な野菜類への特化と畜産(和牛)の振興が、着実に進んでいることであった。圃場整備実施前には水田に多大な労力と過剰な機械投資を必然としてきたが、その重荷から解放されて、消費者の求める多彩な農畜産物への生産転換が可能になったことが大きいことを痛感した。

◆JAとの連携の重要性

 二丈町は先に述べたようにJA糸島管内にある。米や麦、野菜や果実などはJA糸島を通して基本的には販売されているが、そのすぐれた点については省略する。JA糸島のすぐれた今ひとつの活動は、早くから農地保有合理化事業に取り組み、担い手たる農業経営者に利用権設定等を通じてその育成につとめてきたところにあると思う。そういう意味で、二丈町水田農業ビジョン推進協議会が大賞を受賞した背景にはJA糸島のすぐれた着実な活動があったことを、最後に強調しておきたいと思う。

イラスト:種田英幸
イラスト:種田英幸
 
(2007.8.21)


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