土俵の鬼と狼
「あれこそ鬼の顔だ」と元祖土俵の鬼の初代若乃花が仰天したとか。大方の予想を覆して、横綱貴乃花が大相撲夏場所を制した。渾身の力を振り絞った姿は見るものを感動させる。総理大臣杯授与で土俵に上がった小泉首相までも「痛みに耐えてよく頑張った。感動した」と異例の賛辞をおくる。勝負が決まった瞬間の貴乃花の顔。まさに鬼の形相。魂のこもったいい顔だ。
右ひざの負傷を押して出場した貴乃花に対し、「不惜身命」の精神を賞賛する声と無謀との賛否両論が渦巻いている。横綱がケガを押して出場し、もし力士生命を断たれたら、多数の角界関係者とその家族の生活をも脅かす。何より相撲協会の損失ははかりしれない。したがって、今までは、ケガをした横綱は休場するのが常識。その常識を破って出場し、優勝した貴乃花は「人気低迷の大相撲」をとりあえず救った。
もう一人、明日の大相撲を背負うと予想させる力士がいる。モンゴル出身の朝青龍。夏場所初日、力技で横綱武蔵丸を横転させるなど1横綱4大関を破る大殊勲。青いまわし、さっそうとした姿は、大相撲界の「蒼き狼」。その顔も「日本人の顔」で違和感なし。
朝青龍は17歳のときにスカウトされて、高知県の明徳義塾高校に相撲留学。入門して14場所で三役入りというスピード出世の20歳。そのハングリー精神は並でないという。めざすはウルフといわれた千代の富士(現九重親方)、というから泣かせる。
その千代の富士は北海道出身。かつての相撲王国も、今は幕内力士はゼロ。それに対して、祖国では大統領なみの知名度という旭鷲山をはじめ、モンゴル出身力士は26人もいるという。そのちがいはハングリー精神の差?。いや、彼らはチンギスハンの末裔、海外遠征に慣れているせいだろう。
モンゴルは、この冬の猛烈な寒波で羊やヤギが何百万頭と死に国民は困窮を極めているそうだ。来場所は朝青龍に優勝してもらいた、全農賞の米1年分とか、“米100俵”とかいわず、100万トンでも200万トンでもプレゼントしたらどうだろう。
(だだっ児)