農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
 

「農役の義務」を

 先日、朝日の天声人語に「草刈十字軍」のことが載っていた。毎夏、富山県の山に、全国から若者を中心に各世代の人々が集まって、植林地の下草刈りや間伐を行う活動で今年で30年になるそうだ。67歳のとき初めて参加したという、埼玉県の村上利三郎さんが、「これは軍と称しても、特に規則はない。しかし、完全な自治の下、一糸乱れぬ生活と作業ぶりに感嘆」、そして、これからの日本人に必要なのは「兵役ではなく、農役」というのが持論とか。
 ところが、今の世の中、村上さんの意見とは、逆な方向に動いている。有事法制関連3法があっさり成立。自衛隊が戦場に派遣され、将来、若者たちや、子供たちが、兵役に課せられる道が敷かれたのではと、心配になる。おまけに、憲法9条の改正論議もあり、日本は「平和の国」から「戦争をする国」に、じわじわ向かっている。
 もう1つ心配なのは、今、国会で議論されている食糧法の改正問題。憲法が国の組織・機構や国民の基本的権利の保障を定めた基礎法であるなら、食糧法は、日本人の主食であるコメの生産・流通のあり方を規定する、いわば、食糧に関する憲法。ところが、今回の一部改正では、その意味合いが大きく後退している。
 その1つは、今回の改正で、自主流通法人の名が消えたこと。現行の自主流通法人は、全農と全集連、すなわち、コメの全国集荷団体で農水大臣の指定を受けた大卸、コメ流通の“要”。自ら集荷したコメの売り手であり、卸にコメを売る権利が法的に認められていた。改正食糧法では、この名が消え、全農の唯一の権利が法律からはずされる、いや、剥奪されたというのが正解か。
 現に、このことから、コメが売れるまでの間、農家に先渡ししていた仮渡金は、従来、農林中金から、全農が借りて融資していたが、今年から各県の自賄になったとも聞く。自主流通米価格形成センターの設置(平成2年)で、全農から、自主流通米の価格交渉権を奪い、今度は、売り手としての地位まで、剥奪しようとしている。
 どうやら、この行き着く先は、コメの先物取引きの復活のようだ。それが、証拠に今度の法改正で、その先物取引市場の開設が可能らしい。いよいよ、コメも投機の対象になる道が開かれる。こんな法律が果たして、“食糧の憲法”なのだろうか。
 こうした考え方の根っこは、政治家も、官僚も、そして国民も農業を知らない、コメづくりを知らないことから出てくると思う。草刈十字軍の村上さんではないが、日本人全員に「農役の義務」を課そう。(だだっ児) (2003.6.20)

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