「ゆうきの里」宣言
春がきたが、沈黙の春だった。いつもだったら、コマドリ、ツグミ、カケス…の鳴き声で春の夜は明ける。だが、いまはもの音一つしない。野原、森、沼地―みな黙りこくっている。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』の一節。環境汚染と破壊がもたらす化学公害の恐ろしさを40年以上も前に告発した本である。一連のBSEや鳥インフルエンザ騒動などをみていると、『沈黙の春』が目の前にやってきているような不気味さを覚える。
4月半ば、新潟県北蒲原郡の「JAささかみ」を訪れる機会があった。この4月から、白鳥の餌付けに成功し、有名な「瓢湖」のある水原町など、近隣4町村が合併し、「阿賀野市」になったが、「JAささかみ」はそのままとのこと。平成2年、旧笹神村は「ゆうきの里ささかみ」の宣言を行っている。安全で美味しい農産物は「健康な土壌」から、「土づくりは、村づくり」を合い言葉に、「ゆうきの里」の核となる堆肥センターを国や県の補助金を受けて建設。
案内の営農課長の話によると、ここでできた堆肥の散布量は、全稲作面積の約5割に及ぶという。堆肥の原材料は、籾殻と米糠、大豆加工施設(豆腐製造)からでるオカラ、それに畜産農家から排出される家畜の糞尿。要するに、この有機肥料の堆肥づくりに資源の無駄が一切なく、しかも、牛の尿に自然の洗浄力をもつ生物活性水を加えるため、営農課長がドラム缶に入った牛の尿を口にするほど、極めて清潔(?)な堆肥。
夕食は、組合長を交えて、ペンション「ぽっぽ五頭」でとる。なんでも、このペンションは、JAささかみと20数年も付き合いのある、首都圏コープ事業連合の持ち物(?)とか。有機米「五百万石」でできた純米酒、地元の山の幸に加え、帆立、えび、鮭の刺身や帆立貝の焼き物など、海の幸もでる(?)と思いきや、北海道の野付漁協と友好協同組合協定を結び、物々交換や人的交流活動が盛んに行われているのだという。
途中、白鳥の湖「瓢湖」の話になったが、組合長曰く「あそこの白鳥は、落ち穂や小動物を食べに、この村の田んぼに来る。有機の田んぼになったことを白鳥が教えてくれる」と。また、以前、化学肥料全盛の頃は、田んぼには生き物がいなかったが、今はうじゃうじゃいる。また、夏には蛍が舞い、トンボが飛ぶようになったと、芯から嬉しそうに話す。
たしかに、この「ゆうきの里」は、『沈黙の春』とは無縁のようだ。(だだっ児)