まほろばの里
「置たまは 国のまほろば 菜種咲き 若葉しげりて 雪山もみゆ」。過日、JA山形おきたまを訪れる機会があった。最寄のJR高畠駅を降りると温泉のある駅とあって、駅舎にそれこそ温泉施設がある。約束の時間に間があったので、温泉につかり休憩室に入ると、冒頭の句の掛け軸が眼についた。
「まほろばの里」、どこか桃源郷を思わす言葉だが、「周囲を山々で囲まれた実り豊かな土地で、美しく住みよいところ」の意とか。たしかに、ここは周囲を2000メートルを超える蔵王・吾妻・朝日・飯豊連峰で囲まれ、山からの清流が山形の母なる川「最上川」の基点となり、おきたま盆地を潤す別天地。
この「山形おきたま米」は、集荷数量が100万俵(6万トン)。主力品種は「はえぬき」(全体の65%)。穀検の「食味ランキング」で、最高評価の特Aを10年連続して獲得している。それもそのはず、米づくりに最適な環境に加え、堆肥を利用した土づくりをはじめ、いつ、誰が、どのように栽培したかを明らかにする栽培履歴の記帳、そして残留農薬の検査など、消費者に「美味しい米」を届けようという姿勢がひしひしと伝わってくる。
でも、こんな産地の懸命な努力も一向に報われない。もうこの時期から「青田買い」(?)東京の某米卸の対応を終えて、汗を拭き拭きやってきたJAの米販売課長。開口一番、「農家には特別栽培米(減農薬米)など、安全な米づくりを指導しているが、今や当たり前の話。付加価値を求めるのは容易でない」。JAが生産者と実需者の板ばさみで苦悩している様子がありあり。
産地が食うや、食わずなら米の買い手、卸も大変。何しろ、古米の在庫損が膨大。1俵(60kg)6〜7000円、1トンで10万円、1万トンの在庫なら10億円の損失。おまけに、安全に何の問題もないコンタミ(異品種混入)防止とやらで、莫大な設備投資を強いられる。量販店は量販店で、ただ安く、良い商品をと迫る。一人能天気(失礼)は消費者?何しろ、消費量1人60キロ。2万円にしたところで、米代はたったの1日60円ですぞ!
秋田の米不正取引も、もとをただせばこうした米の流通制度・価格の乱れが原因。国は自分の責任を棚にあげ、米入札取引ルールの見直しでことを済まそうとする。こんな近視眼では、今に米づくり農家はいなくなり、米卸も潰れ、量販店は外国に米を作らせるやもしれない…。(だだっ児)