「待ったなし」
9・11総選挙は自民党の圧勝で終わった。選挙前、ある識者が小泉首相を江戸幕府「最後の将軍」徳川慶喜にたとえ自民党政権の奉還もあると語っていたが、如何せん民主党は薩長連合のような力がなかったようだ。
作家の塩野七生さんが今度の小泉首相の勝利は「問題の単純化という才能」に優れていた点だという。人間は重要極まりない問題も賛成反対の議論をしていくうちに本題から離れ、賛成派も反対派も問題の本質を忘れてしまうのだという。この点、小泉首相は野党、与党の反対勢力やマスコミの百家争鳴をご破算にして、「郵政民営化に賛成か反対か」と問題を単純化して問うたところに勝利の鍵があったという(文藝春秋10月号)。
ただ、凡人はこうはいかない。郵政民営化がどれほど重要な問題かしらないが、それよりも780兆円もの借金を抱えるこの国の将来はどうなる。少子高齢化がすすむなかで年金はどうなる。自給率40%のこの国の食はどうなる。それこそ身近な生活に関わる問題が目白押し。思うに、今度の結果は閉塞感みつる国民が「改革」を唱える首相の呪文に惑わされてしまったのでは。
選挙戦の最中、近所の田んぼはあらかた稲刈りが終わった。畦道で顔見知りの50歳代の農家のAさんと立ち話。「先祖代々、生まれたときから農家」「農業には未来がない。俺の代で終わり」「ほかで稼いで、農機具代を払うんじゃ何のために農家をやっているかわからない」とこぼす。
ともあれ小泉政権の続投で農政改革は「待ったなし」。品目横断的な経営安定対策という日本型農家直接支払いが導入される。これは簡単にいえば日本の農業を大規模経営、担い手だけでやっていこう方式。これでいくと先のAさんの場合は本人の意志にかかわらず、早晩撤退する憂き目に合いそうだ。
塩野流に考えてみれば、農業問題の本質とは何だろう。それは、1に食糧自給率の向上。そのためにこの国の財産である水田農業をどう活用するかにつきよう。過日、日本農業新聞の「わたしと食」で元NEC会長の関本忠弘さんが、減反政策ではなく米を精一杯作り続けていれば、必要な施策が早く見えたはず。問題をマクロ(巨視的)にとらえ、長期的視点で事を運ぶことが必要と述べていたが、まさにそのとおり。次の選挙は「この国の農業をどうするか」を争点にしては。もう手遅れか……。
(だだっ児)