農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 落ち穂

雪のない「雪国」

 「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」は、川端康成『雪国』の有名な書き出し。1月末、用事で新潟市に行ったが、今年は小説と違って越後湯沢を過ぎるともう雪がない。新潟市の1月積雪ゼロは104年ぶりとか、北海道では雪祭りが危ぶまれ、群馬の榛名湖が結氷しない、ワシントンでは桜が咲くなど、各地、いや世界中で異常気象が現れている。今、「人類は地球との共存の瀬戸際」といわれているが、こんな光景をみると、さながらに実感する。
 「暖冬であれば冷夏」が通り相場。今年はまともに米はできるのだろうかと心配になる。そんな中、松岡農相が中国に行き、米輸出再開の道をこじ開けたと報道されている。農相は「中国はコメ市場2億トンの有望市場。富裕層に高品質の日本米は受け入れられる」と、意気込む。明るい話題のない日本農業にとって愁眉を開いた感もするが、果たして万々歳なのだろうか。
 問題の一つは、世界におけるバイオエタノール生産拡大の動き。レスター・ブラウン氏の言う、食料と燃料の“穀物争奪戦”だ。ブッシュ大統領は先の一般教書演説でバイオ燃料の生産拡大を表明。世界の圧力で、やっと地球温暖化対策に一歩踏み出したが、日本は手放しで喜べない。なぜなら、トウモロコシなど飼料穀物の大半をアメリカに頼っているからだ。そのうち飼料穀物の輸入が止まり、消費者は牛肉や豚肉が食べられなくなるかもしれない…。しかしメディアは政治家や芸能人の舌禍事件やスキャンダルには大騒ぎするが、この迫りくる食料危機にはあまり関心を示さない。能天気な不思議な国。
 でも、世の中にはこんな人もいる。書評を読んだだけだが、82歳の碩学の農学者、渡部忠世氏が「百年の食」を著し、「わが国は、生き残りのための賢明な選択に向けて、舵を切りかえる決断をすべき最終段階に近づいている」、結論は「自給せよ、せめてコメ」と述べているそうだ。また、「世界でもっとも農業に適した気候に恵まれながら、日本は先進国中でも最低レベルの自給率。しかも、農業従事者の高齢化、後継者難…」とも。しかり御尤も。たしかに、このままだと「百年の食」どころか、「十年の食」も危ない。
 雪のない「雪国」をみると、今に日本人はコメすら食べられなくなるのではと真底思う。松岡農相、どうか日本農業の舵きりの方向を誤らないでください。私は渡部氏の「自給せよ、せめてコメ」が賢明な選択の方向だと考えます。(だだっ児)

(2007.2.14)

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