農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム

おカネで買えないものもある

 「棚田も池のコイもだめになり、お金で買えないものを失った」は、新潟県中越地震の被災者のことば。「食べものと農業はおカネだけでは測れない」は、中島紀一氏の著書名。「世の中にカネで買えないものなどあるわけない」は、プロ野球参入を狙ったライブドア・堀江社長の哲学(?)。プロ野球・パリーグにはライブドアではなく、同じITベンチャーの楽天が加わった。これで球界再編劇は一件落着と思いきや、ダイエーがソフトバンクへ売却、パリーグの覇者西武も親会社が有価証券の虚偽報告で揺らぐなど混乱は依然つづく。選手が頑張って、優勝争いをしたのに球団が消えては、選手も途方にくれる。そういえば、西武の松坂投手が日米野球で快投を演じたのも、こんな日本のプロ野球に愛想つかし大リーグ入りへのPRかも。
 一方、サッカーは今や、野球をしのぎ、国内最大の競技人口を誇る。Jリーグのステージ初優勝を決めた浦和レッズは、西武と同じ埼玉に本拠地を置き、しかも親会社は、大不祥事を起こした三菱自動車。だが、クラブ経営はビクともしていない。レッズもチーム発足から5年間は、毎年10億円の赤字を出し、全額親会社に負担してもらっていたが、今はクラブ側の努力で、数千万円の赤字で済んでいるという。親会社におんぶに抱っこのプロ野球とは大違い。
 Jリーグの特徴は「地域密着」の運営。はじめは、チーム名から企業名を外すことにスポンサーの大企業から猛反発され、苦難のスタートを切ったが、「地域密着」の基本理念を頑固に守ったからこそ、今日の隆盛を迎えたといえよう。その陰には、先日、NHK“プロジェクトX ”で放映された「わが友へ 病床からのキックオフ」の主人公、木之本興三氏がいたればこそ。会社をリストラされ、腎臓摘出で週3回の人工透析をつづけながらJリーグ誕生に奔走した氏の命がけの戦いには身震いを覚えた。
 話は一転。われわれが毎日食べるコメは、とうに主食ではなく、単なる食品の一つといわれる。そしてコメに頼った日本農業は衰退の一途。それは親会社中心主義から脱却できず、凋落の一途を辿る日本プロ野球の姿とダブる。日本農業再生のキーは、Jリーグ方式の地域密着型、「地産地消」。なぜなら、消費者が農業に身近に触れあえる環境づくりがあってこそ、「食と農はお金だけでは買えない、測れない」という意識が醸成されると思うから。 (だだっ児)

(2004.12.8)

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