農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム

木を見て森を見ず…

 「郵政民営化とは何なのか?」私には今もって分からないと、直腸ガンから復帰したジャーナリスト・鳥越俊太郎氏のテレビでの発言。ほんとうに国民のための民営化なのか、近く来日するブッシュ大統領へのお土産なのか…著名なジャーナリストが首をかしげる位だから、一般国民に分かるわけがない。
 そして、今度は「農政改革」。戦後の農地改革以来の大改革だが、「郵政民営化」と同じように、誰のための改革なのか疑問がつきまとう。品目横断的な経営安定対策、これには必ず、日本型直接支払い、と括弧つきで書かれている。欧州(EU)型とどう違うのか、勉強不足で申し訳ないが、少なくとも日本のように“担い手”を絞り込んで直接支払いの対象とするのではないのだろう。今度の対策は、都府県農家は4ha(北海道は10ha)、集落営農で20haと、条件不利地に知事の特認制度があるとはいえ、ハードルの高さが目につく。
 とりわけ、これまで日本農業を支えてきた集落営農組織のほとんどは、この「担い手育成バス」に乗ろうにも乗れない実態のようだ。過日、日本農業新聞で石川県立大学の辻井教授が紹介していた集落はわずか7戸。それでも、地産地消や食育活動などに活き活きと取り組んでいるという。現存の集落は経営や効率的な農業ではなく、生活の論理で成り立っているので、こうした集落も存続できるような政策の修正が必要と訴えている。
 何しろ、山里は、今、猪・猿・鹿・熊の宝庫とか。石川・金沢で拾ったタクシー運転手の話では、山は紅葉の時期でもないのに赤い(?)。これはクヌギ、ミズナラ、ブナが害虫で枯れてしまい、熊はそれらの実(脂肪がたっぷり)がないため、冬眠ができず人里までノコノコでてくるのだという。また、猪は積雪が深いと、山を越えることはないが、温暖化で雪がないため北限といわれた福井からも山を越えて出没するという。猿でいえば、知人の漁港にある実家で、お袋さんが洗濯物を干しにベランダに出ると、猿がいつも来ていて、友達になってしまった、という笑い話まである。
 人も、猿までも山里から都会にでてくるようでは、日本の国土は崩壊する。野生動物は山に返す、もちろん森も整備する。中山間地域農業も大切にする。要は、農業を単なる経済や産業の一つととらえ、効率至上主義に陥ると、環境破壊がすすみ農業どころでなくなる。「木を見て森を見ず」にならないように…。(だだっ児)

(2005.11.16)

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