農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム

ライブドアショック

 1月下旬、冬の北海道を渡ったが、日本海側の各地と同様ここの雪も凄い。札幌市内も道路脇のあちこちに雪が積まれ、雪の屏風の中を人や車が通る感じ。
 日本列島が大雪と寒さで凍えている中、ライブドアの堀江社長(当時)ら4人が証券取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。さすがのホリエモンも今度ばかりは“想定外”?靖国問題は「心の問題」とうそぶくのは、小泉首相だが、この人は「人の心もお金で買える」と言った御仁。そして、小泉首相の「構造改革路線」「市場経済主義」の優等生、この国の「理想的な青年像」とマスコミにもてはやされた「時代の寵児」だった。
 一方で、世の中にはこんな人もいる。この厳寒で野菜の出荷が少なく値段が高騰したが、野菜を作っている高齢の農家の人いわく「寒さで野菜の育ちが悪くて、消費者に迷惑をかける」と、自分のことよりも他者を思いやる。おまけに、末端価格が上がっても、なぜか生産農家の手取りは幾らも上がらないという。そんな中で、どうしてこんな健気な声を吐けるのだろう。
 今、日本の社会は、「格差社会」が進んでいるというが、どうも「日本人の心」までも格差というか、温度差が広がっているような気がする。ホリエモンにしても、家族に言わせると、あれだけ持ち上げておきながら、手のひらを返すような仕打ちは、可哀相だという。「カネがすべて」の輩は日本人の風上にもおけない(カネがない者の僻み?)の言は、今や古い日本人らしい。
 ところで、先の農家の人とホリエモン(小泉首相も同類?)の心根の違い、温度差はどこからくるのだろう。東京都の石原慎太郎知事がライブドアショックを、「人間が時代を超えて継承すべき価値の軸がずれている現れ」と発言していたが、さすが文学者、見る目が凡人とちがう。今、軽佻浮薄の世の中の裏返しか、新渡戸稲造の『武士道』がちょっとしたブームだそうだが、この武士道精神の中軸が「惻隠の情」、即ち「いつでも失わぬ他者への哀れみの心」という。
 石原都知事の言う「継承すべき価値の軸」は何かわからないが、少なくとも、この「弱者・敗者・虐げられた者への思いやり」、いわゆる「武士のナサケ」が日本人の価値の中軸だったといって言い過ぎではあるまい。残念ながら、この日本人の継承すべき尊い価値観は今や、年輩の農家の人に垣間見るだけで、ほとんどの日本人は忘れてしまっている。ライブドアショックは、このことを教えてくれた事件では…。(だだっ児)

(2006.2.9)

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