「千の風になって」
某日、とある人から、人は50歳から60歳までに半分、60歳から70歳までに、またその半分、70歳から80歳までに残りの半分が亡くなる、との話を聞いた。日本の平均寿命からいうと、10歳ぐらいずれている気もするが、最近、同年代(60歳代)の知人の訃報を次々に聞くと、案外当っているのかもしれないと思ったりするこの頃。
そんな折、先日、立ち寄った本屋の隣にあるレコード店から、昨年のNHK「紅白」で評判だったという、テノール歌手・秋川雅史さんが歌う「千の風になって」が流れていた。この歌は作家の新井満氏が作者不詳の詩を訳詩・作曲したと聞いていたが、秋川さんの全身を使った歌声は、心に強く響く。早速本屋で新井氏のCDブックなるものを買い求めた。このCD、同世代の新井さんが伸びやかに、優しげに歌い、秋川さんとはまた違う味わいがある。
この本(?)を開くと、英語原詩や写真詩などのあと、「あとがき」に代える十の断章、があり、そこにこの歌の誕生のきっかけや日本語詩に訳した苦心が述べられている。新井さんは、英語原詩の作者は「いのちは、永遠に不滅」で、「死と再生の詩」を書こうとしたのだと、その真意を慮る。要は人間の命なんていうものは、この地球上にある無数の命の”大きな循環”の中にくみこまれるのだ、と。さすが芥川賞作家、とらえかたが大きく、深い。
こうして、この日本語詩と名曲が生まれた。「私のお墓の前で 泣かないでください。そこには私はいません 眠ってなんかいません 千の風に 千の風になって あの大きな空を 吹きわたっています」。とくに2番は「秋には光になって 畑にふりそそぐ 冬はダイヤのように きらめく雪になる 朝は鳥になって あなたを目覚めさせる 夜は星になって あなたを見守る」とつづき、情景が目に浮かび、実に感動的な詩だ。
新井さんは自分の葬式の時、このCDを流してくれと、奥さんに頼んだそうだ。奥さんから「ところで、あなたは死んだあとは、何に生まれ変わるつもり?」と問われ、答えに窮していると、「ナマコ(奥さんの大の苦手)だけはやめてください」といわれたとも書かれていて、ほほ笑ましい。さて、私は何に生まれ変わろう…?ともあれ、新井さんいい歌ありがとう。子供たちよ、いじめなんかで死ぬなよ。(だだっ児)