現代版参勤交代のすすめ
あの養老孟司さんの「いちばん大事なこと」(集英社新書)という本を読んでいると、最後の章に、「現代の日本人は、すべからく参勤交代をすればよい」という件がでてくる。副題に「養老教授の環境論」とあるように、養老流の「環境問題」を説いた本である。さて「環境問題」と「参勤交代」がどういう関係があるのだろう?
本業は虫取りといって憚らないこの学者の云わんとするところは、禅問答のようで難しい。推し量ると、人間を「都市」という頭と「田舎」という身体にたとえ、都市ばかりで生活していると、頭を支える身体がダメになる。だから、1年のうち、3カ月は田舎で暮らし、そのあと都会に戻って会社勤めを再開し、残り9カ月を過ごすという現代版参勤交代のすすめのようである。
江戸時代の参勤交代は、大名に莫大な費用を使わせて、その力を弱めることが目的だったと言われているが、一方で、街道などの道路網の整備や中央文化の地方への伝播など、社会経済的効果は大きかったといわれている。養老さんはこれを逆手にとり、頭でっかちで、不健康な都市生活者は、実際に田舎に行って農作業や自然にふれることが唯一環境問題の解決方法といい、それには強制的、義務としての休暇、すなわち「参勤交代」しかないという論法だ。
もう一つ、これも現代版参勤交代といえようか、都市と地方の「人口移動」、それが社会のダイナミズムを呼ぶと、先般本紙にも登場した寺島実郎氏が唱える。都市に住みながら地方にもう一つの生活拠点をもつ「二地域居住」だ。これからの社会は都市と農村、農業と工業の区分や垣根を越えた「人口移動」がキーワード。しかし、退職サラリーマンに定年帰農だ、地方回帰だといっても、いきなり素人が農業に参入できるほど甘くはないが、農業生産法人が受け皿になれば、経理や広報、マーケティングなどの経験が生きる、というわけだ。
いずれにしても、両氏のいう環境問題も農業の活性化も、いよいよ職場を離れる団塊世代の動向がキーになろう。ここは一つ、養老先生のいうように、長年の不節制でメタボリック症候群とやらの身体の再生のためにも、また、寺島氏のいう、せっかく苦労して蓄積したサラリーマン経験を活かすためにも、ここはお国にために、「参勤交代」とはいわぬが、せめて「二地域居住」はどうだろう。ところで、そう言うお前はどうなんだ?ム、ム、ム…。(だだっ児)