農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 落ち穂
経済人&農協人

 去る3月、亡くなった作家の城山三郎さんは、経済小説のパイオニアで知られるが、氏の原点は「戦争で得たものは憲法だけだ」という言葉を残しているように、戦争体験だといわれる。もう一人、大戦が原点だという元経団連会長・平岩外四さんが先頃、亡くなった。何しろニューギニア戦線の部隊117人のうち生還した7人の中の1人だというから凄まじい体験。
 この平岩外四さんは、「経済人」といわれる。その見識は経済を超えていると評され、訃報と同時に新聞各紙のコラムに登場。読売では外四という名前は、中国の「書経」に由来し、「外に四目を明らかにし、四聴を達せしむ」、目を見開き、人の声に耳を傾ける意味とか。毎日では座右の銘をたずねられ「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きる資格がない」という、レイモンド・チャンドラーの小説の主人公の名セリフをあげたというから、にくい。この両人は、大戦を原点にして、一人は小説を舞台に、一人は実の経済界で「経済」を追求。評論家・佐高信に言わせれば、その基本姿勢は「人間を抜きにした経済などありえないし、あってはならない」であり、昨今の行過ぎた市場原理主義に異を唱える両人だけに、その死は惜しい。
 平岩外四さんが「経済人」なら、「農協人」と言っていい人がこの度亡くなった。元全農・全中常務の榊春夫氏。榊さんも先の両人と同じ愛知県の出身。この榊さん、本紙の梶井功東京農工大学名誉教授との対談によると、復員後、全国農業会に入会、その後、全販連(全農の前身)に転じ、以後ずっと農協組織を歩いてきた、正真正銘の「農協人」。梶井先生との対談で、「需要サイドと提携して系統販売事業の再建を」と語っているが、「需要・消費者サイドに踏み込まずに味方同士で産地間競争をやっているようでは、ダメ」だと、手厳しい。
 推し量るに、榊さんの信条は「系統共販なくして農協なし」、これを一貫して系統組織に問いかけてきたのだと思う。先日、第29回「農協人文化賞」の表彰式で、特別賞を受けた故人に代わって挨拶にたった榊夫人は「農協運動に一生をささげたわりには、病院に入って4日間で亡くなり、上手な死に方をしたと思います」と、死を悲しむのではなく、その生き方に賛辞を贈るかのような語り口が心を打った。どうか「千の風になって」系統組織をお守りください。(だだっ児)

(2007.6.11)

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