百年の農
もし、「座右の銘」ならず、「座右の書(物)」という言葉が許されるなら、渡部忠世さんの「百年の食」(小学館)を挙げたい。この本は、はしがきにもあるように80歳を超えた老農学者のいわば、遺言といってよく、農業を確固たる国の礎としない限り、農村だけでなく都市文明も工業文明もその基盤を喪失する、また、この国の稲作にかえて、一億人を養いうる作物は絶対に存在しない。それ故に、せめて米はどんなことがあっても自給せよ、と説く。
渡部さんは、稲の専門家としてインド・東南アジアの稲と稲作文化の長い実証研究を通じて、農耕文化(とくに稲作文化)の確固とした基盤として、農業を考えることの大切さを今日まで訴えてきた人物。その広い視野は、この国の未来の正しい方向づけを示唆するものと思う。また、農業の持つ本来的な意義を深く考えてきた人が日本にもいたのだと、深く敬服、いや、妙な安堵感すら覚える。
折から参議院選挙がはじまった。消えた年金、政治とカネ、大臣の失言、都市と地方の格差問題など、逆風が吹き、政権与党は旗色が悪い。こと農政では、政府与党の「担い手中心の経営安定対策」と、民主党の「全販売農家対象の戸別所得補償」が対立軸になっている。安倍首相は、中国に米が1俵10万円で売れるとか、「攻めの農政」とやらで、巻き返しに必死。
一方、民主党、最重点政策のなかに、「年金」「子育て」とともに「農業」を挙げ、その目玉として「戸別所得補償制度」の創設を提案。小沢代表はJA組合員とかで、農家心情の読みは安倍首相よりは一枚上かもしれない。ただ、如何せん、両党とも、目前の選挙目当ての政策を優先するあまり、その政策に50年、100年先を見据えた農や食のあり方や、この国の将来像がみえない。
先の渡部さんは、その書で、農学者の故・飯沼二郎氏が「日本は22世紀を迎えることができるだろうか」と、憂えていたことも紹介している。たしかに、今、農政の舵取りを誤ると、それが現実になるやもしれない。また、渡部さんは団塊の世代の余生を生きるヒントとして、農村に還り、農業に加わりなさい、この世はすべて次代送り、とも説いている。その団塊世代の代表、われらが同志、山田としおさんが今度の参院選挙に比例区で出馬。この緑豊かな自然、農業を後世に送るため、'百年の農'のため、是非当選してもらいたいものだ。奮起せよJA組織。(だだっ児)