"不思議な国"
今夏、熊谷で40.9℃を記録するなど、異常な暑さが続いたが、さすがに10月に入り、ようやく涼しくなった。近所の田んぼの稲はきれいに無くなり、ひこばえが青々と生え、白鷺が一羽、二羽と立っている。1カ月以上、この欄をさぼっている間に、安倍前首相が突然辞任し、親子2代の宰相・福田政権になった。この間、3週間近くも政治空白がつづいたが、臨時首相も置かず、どこかの国の大統領選のような総裁選をやるのだから、何とも可笑しな国だ。
この危機意識のない、呑気な日本人の気質について、「トヨタ生産方式」で有名な大野耐一氏は、「農耕文化」と「狩猟文化」の違いをあげる。日本人は農耕民族である。畑を耕し、種を蒔いて水をやり、日光を当てていれば植物は育つ。この農耕民族の「感覚」が、日本人、とくに子供の躾にまで影響している。ところが、狩猟民族の欧米人は、狩をしないと餌にありつけない。生きていけないので、子供に狩の仕方を徹底して教えるそうだ。つまりは、躾の違いが大人になってからもろに出るそうだ(田中正和編書「トヨタ流」現場の人づくり)。
思えば、先の参議院選挙は、私なりに解釈すれば、安倍前首相は大きくは、この国の命運を左右しかねない憲法改正と農業改革を掲げたが、それに国民や農家がノーを突きつけたのではないかと思う。言ってみれば、狩猟民族的な政策、即ち、憲法を改正して堂々と戦力を保持し国を守る。農業も、日本の高い生産技術を駆使してできた農産物を中国等の一握りの富裕層を対象に売りつけ、それでもって日本農業を守るという、農耕民族には違和感を覚える政策だったように思う。
農業政策に限れば、民主党の「戸別所得補償制度」は、農耕民族、いや、農家心理を巧みについた政策かと思うが、ただ、毎年、1兆円ものの負担を、国民や消費者が納得するだろうか、いや、国防予算が4兆8千億円というから、これくらいお安い御用か。それはそれとして、石油価格の高騰、食糧自給率の40%割れ、飼料価格の高騰、低米価と、日本は有史以来の農業危機、いや食料危機に直面しているのではないだろうか。
これはすべて、政治家のみならず、国民挙って、何ら危機意識を持たない農耕民族の気質の故かもしれない。不思議な国だ。(駄々っ子)