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コラム ―― 農民は考える
「押しつけられた」生産調整(減反)について

 政府は研究会をつくり、減反制度を根本的に再検討することにした、とのこと。そこで研究会の委員の方々には、ひとつかふたつの事例でよいから、市町村で、生産調整と称してなにが行なわれているか、その実態をつかんでから、議論をしてもらいたいと思う。
 市町村の担当部課長の説明を聞くだけでは、その実態はつかめない。減反がらみの〇〇とも補償とか、〇〇拠出金などの一覧表を入手し、そのひとつ、ひとつについて、説明を受けてみて下さい。誰に聞くかと言えば、農家で答えられる人はまずいないので、役場の職員と農協の職員に聞いてみて下さい。
 役場の職員は農政担当以外の兼業職員に、農協は信用とか共済担当の兼業職員に聞いてみて下さい。減反がらみの全項目について説明できる職員はひとりもいないでしょう。
 あるJAの場合、「米穀の売渡しと、米の生産調整に係わる集落事務」という文書を全戸に配布した。この文書に出てくる「漢字」をならべてみると、次のようになる。
 「全国とも補償」「地域とも補償」「地域転作互助制度」「地域加工用米とも補償」「特別とも補償」「米需給調整・需要拡大基金特別事業」「JA農政総合対策」「水田農業経営確立対策」「地域水田農業再編緊急対策」「需給調整水田」「特別調整水田」「緊急拡大加算金」「緊急需給調整対策」等々。
 私がなんとか理解できるのは、全国とも補償だけである。減反をやるのに、なぜ、4つも5つも「とも補償」が必要なのか。なぜ、4つも5つもの「〇〇対策」が必要なのか。私には全く理解できない。
 たとえば、「加工用米とも補償」であるが、加工用米として出荷した分を減反したこととみなす。加工用米は主食用ではないので、減反(転作物)したことになるという理屈のようです。
 私の知る限りでは、主食用に出荷する米も、加工用として出荷する米も名前が違うだけで同じ米である。主食用の米約1万5000円、加工用米8000円の1物2価である。この価格差があるから、「加工用とも補償」を考え出したのかナと思っていたが、JAは、「下位等級米を加工用にあてて、農家所得を確保しようとするためのとも補償である」と説明する。この説明は、全く理解できない。
 私に分かることは、1物2価は不正の温床だということ。見てもその違いが分からない、食べてもその違いが分からない、つまり「1物」なのに国産と輸入品との間に大きな価格差(2価)があるから、トリ肉やシジミのニセ表示をする人が出てくる。また、「農業者別生産調整目標地域内調整」というのがあり、「地区としての目標達成を図ることにより、計画参加者全員が目標達成となるように生産調整目標面積を再調整配分の申請手続きです」とJAは説明する。これも私には理解できない。
 個人に割り当てた生産調整目標面積を役場に申請すれば変更できる、と読んだ。減反割当面積がそういう性格のものとは知らなかった。
 地域として減反を達成していれば、その中に未達の人が何人いようと補助金をもらう妨げにならないと思っていた。なぜ、再配分してまで、全員を達成者にしなければならないのか。公務員や、JA職員で未達の人を「助ける」ためなのであろうか。
 私は理解できないものに「ハンコ」を押さない。だが、多くの農家はよく分からないのに、4つも5つもの「〇〇とも補償」や、「〇〇対策拠出金」に「ハンコ」を押している。ほとんどの農家が理解できないのにハンコを押す理由は次のとおりだと思う。
1、減反そのものに関心がない。役場やJAや、集落の役員が「うるさい」ので、しぶしぶ付き合っているだけである。
2、JAは、米の売渡し契約とセットで減反がらみの拠出金の押印をとる。田植えの真っ最中に、しかも、90%以上がサラリーマン百姓なのに、平日の日中に押印をとる。だから、印を押す人のほとんどは高齢者である。
3、減反をして補助金をもらうか、減反を拒否するかのいずれかである。補助金をもらう方が得だと判断する人達が印を押す。
 要するに、農家がその仕組みを理解し、農家の過半数の合意を得て、減反をやっているのではない。(岩手県東和町在住 渡辺 矩夫)


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