この人と語る 21世紀のアグリビジネス 日本農業とともに歩む 研究開発型企業をめざす 日本農薬株式会社 代表取締役社長 大内脩吉氏
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農薬はいうまでもなく農作業の省力化に役だってきた。しかし、業界の現状は外資メーカーの直販化など厳しい環境にさらされている。そのなかで日本農薬は業界に先駆けて、研究開発型企業へと大きく舵を切り、国産農薬原体開発に力を入れている。「これからは自己責任の時代」と大内脩吉社長(59歳)。農の自立のためには農協にも自己責任が求められると強調する−−。 メイド・イン・ジャパンの農薬をつくる ■50代の社長誕生。農薬業界も世代交代が進んでいるようですね。ただ、業界としてはかつてとくらべて元気がない状況での舵取りになりますね。 大内 ピークで4000億円ほどあった農薬需要がこの5年間で450億円ぐらい減少してきました。その要因には、農地の減少、減農薬栽培での使用量の減少、さらには価格低下という3つの要因があると思います。 ■外資直販の影響についてどうお考えですか。 大内 系統全体の役割としては、国際競争力のある外資メーカーの農薬を直接仕入れれば値段を下げさせることができるという面があるわけですね。農家に安い資材を提供するという大義名分があるわけですから。 そういう面では、当社では「フジワン」の開発以来、原体から製剤まで一貫して販売するメーカーになろうという意思決定をしまして、自社の原体開発をすすめる研究開発型企業をめざしてきました。 ■日本農業とともに歩むメーカーというのはすばらしいお考えだと思います。 大内 先日、富山県に行ってきたのですが、カメムシが大発生して現場は非常に困り、安い農薬がほしいということになったと聞きました。しかし、今ごろ何千箱もの農薬はもうないんですね。こういうときに国内の農薬メーカーが、分かりました、と言って徹夜で生産してでも供給して責任を果たしていくこと。このような面も日本の農薬メーカーの役割でもあると思います。こういうことをJAグループや生産者にも認識していただきたいと思っているんです。 IPM構想−新時代の流れも視野に ■農薬は農家の労働をずいぶん軽減したと思います。安全性だけでなく、その点ももっと一般にもPRすることも大切だと思いますが。 大内 農薬の役割としては生産性の向上や省力化ですから、新製品を生み出すほか、散布量を10アールあたり3kgではなく1kgでも効果が出るよう改良したり、畦から投げ込めばいいジャンボ剤など、農家が使いやすくて省力化につながる技術はきちっとやっています。ただ、たしかにそれを世間一般に幅広く知らせていくということはまだ十分ではないでしょうね。 ところが、当社が自社開発した「アプロード」では、ウンカに対する防除回数がそれまで5、6回だったのが、1回、2回で済むようになりました。ですから、農薬の新しい技術開発が農薬の使用回数を少なくすることにもなったわけです。現在、育苗箱処理薬剤がかなり伸びているのもやはり散布回数が少なくて済むということがあるからです。これは省力化への貢献でもあり、低コスト化にもつながっていると思います。 日本の農家のための農薬 ■新規剤の開発の現状と今後の展望は? 大内 大阪の河内長野市に総合研究所が1996年に完成しました。そのために100億円投資して。私たちの会社の規模でこれだけの投資は非常に厳しかったんですが、ここへきてやっと新しい剤も出てきました。私たちはこの総合研究所を開発型企業としての一番の拠点と位置づけています。今のところは、これからの5年間でほぼ毎年1剤づつ新しい剤を出していける見込みです。 海外のメーカーは合併を進めており、日本の農薬産業も世界の動きに巻き込まれるかもしれません。しかし、私たちとしては、世界を相手にするんじゃなくて日本の農家のための農薬が基盤ですから、それをきちっと打ち立てる。そのうえで世界のマーケットに出せるものがあれば輸出していこうということです。現在は、輸出比率が13%ぐらいですが、できるだけ早く20%以上にもっていけるようにしたいと考えています。 自己責任で農の自立を ■これからの農業と農協について考えておられることを聞かせてください。 大内 経済連や農協の方から意見を求められることがあります。そんなときには少し辛口の意見ですが、農家の目線で事業のあり方を考えることが必要ではないかとお話しています。 農協の合併も、規模が大きくなることはいいのかもしれませんが、農家に対するサービス低下につながるのではないかと心配している人もいます。一方、農家自身もこれから自分で作ったものは自分で売っていかないといけないという状況もあります。ですから、われわれ企業も農家もJAグループも自己責任が求められる時代になったんじゃないかと考えています。 ■入社されたきっかけは? 大内 大学は千葉大学の園芸学部なんですが、農業というよりも昆虫が専門だったんです。卒論も柑橘に対する農薬薬害の考察でした。それで日本農薬はどうかということになったんです。生まれは東京・日暮里ですが、子どものころから谷中や上野の森で蝶を追いかけていたんですね。ですから、昆虫少年がこうなったということでしょうか(笑)。 ■最近では家庭菜園も熱心にされているとか。 大内 千葉に別荘を持ったんですが、それも何とか野菜作りをやりたいと思ったからで、家のほかに60坪ほど畑があるんです。結構、大変ですね。人間は待ってくれますが、植物は待ってくれませんから雑草が増えますし、今の時期は収穫もありますから1週間に1度必ず行きます。ただ、植物は愛情をかければかけるほどそれだけのものになりますが、人間は思うようにはなりませんから(笑)、植物は正直だなと思っています。 ■無農薬で栽培してるんですか。 大内 いやいや、農薬をしっかり使っています。周りの農家からは大したものだとほめられている。さすが農薬会社の人だと(笑)。 ■どうもありがとうございました。 インタビューを終えて 大内さんの趣味は、家庭園芸で、千葉県に100坪の畑を買い、都心の自宅から週末通勤で耕す、ナス、トマト、カボチャ、モロヘイヤなど周りの畑のものより生育も品質も良いとの評判。適期適量の農薬で、雑草や病害虫から野菜を守る栽培技術を実践しているからでしょう。(坂田) |