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この人と語る 21世紀のアグリビジネス

商品開発で「日本型食生活」に挑戦

高い技術力を発揮して
全国農協食品株式会社
代表取締役社長 石田善吾氏

 
(いしだ ぜんご) 昭和15年11月岡山県生まれ。36年鯉渕学園農協科卒。平成元年JA全農・農産部次長、4年農産部部長、8年3月全国農協食品且Q与、6月代表取締役社長。
インタビュアー:坂田正通(農政ジャーナリストの会会員)
石田善吾氏

 わかりやすく、ずばり問題点をつく語り口で、日本型食生活や米の消費拡大といった課題への現実的対応を説く。食品加工メーカーの立場から、消費者が現実に食べてくれる商品開発でチャレンジしたいと意欲的だ。そこには同社の高い技術力に対する自負があった。今年度からの中期3ヵ年計画では平成11年度決算対比で売上高を3割近く伸ばす計画だ。経常利益は2倍以上を見込む。また計画の期間中に今春、稼働したばかりの関東工場(栃木)の黒字化に取り組む。高い技術力を踏まえての方針だ。営業力の強化については、その成果を指摘しながらも、やはり、それは永遠の課題だと石田社長は語った。

通販事業が経営の支えに

 ■好決算で、元気のいい会社だという評判ですが、以前は赤字続きだったそうですね。

 石田 「全農のご支援で平成2年度から業績を好転させました。特に通信販売事業が大きく育って、経営の支えになっています」

 ゆうパック(郵便小包)の通販商品を供給していることは余り知られていませんね。

 石田 「ええ、バックヤードの役割を担う仕事ですから。カタログには全農マークがついていますが、わが社の顔を余り表に出さない方式でやっています。しかし全国11の郵政局すべてと提携しているのは、わが社だけです。郵政でのシェアは一番です。
 全農の通販 『旬鮮クラブ』 もバックヤードはうちでやらせてもらっています。JCBなどカード会社扱いは社名を出しています」

 バックヤードの仕事にはどんなものがあるのですか。

 石田 「通販商品の企画提案から開発、加工、荷ぞろえ、発送などです。最近は蓄積を重ねた我が社の提案力が他社との比較で高く評価されています。
 通販で人気のある果物はサクランボですが、うちは1シーズンに約150トンを供給し、通販業界のトップです。モモやイチゴも人気がありますが、他社は余りやりたがらない」。

生ものを安全に届けるノウハウが

石田善吾氏 腐りやすいからですか。

 石田 「そこですよ。うちには安全に届けるノウハウがあります。クレームが非常に少ない。
 また、いったん提案すれば必ず実行します。通販、特に頒布会事業では1年前に値段を決めてカタログを作るというリスクがあります。契約後に台風がきて例えばリンゴが落果すれば履行できない。しかし、うちは産地を振り替えたりして届けます。契約実行力に対する評価も非常に高い」

 それはJAとの結びつきが強いからですか。

 石田 「ええ。しかし市場も含めて調達先の多様化が必要ですね。
 米の扱いも大きく、通販だけで年間約6000トンです。これは米卸1社の取扱量に匹敵します。うちの特徴は産地精米です。産地以外の所で精米した米は扱いません。つまり、正真正銘の産直米です」

 留守のため配達できないで寝かせていた商品が傷んだ場合など、どうするんですか。

 石田 「新しい物と差し替えて再送します。例えばサクランボの場合、カビが生えているとクレームがつけば、それが一パックの中の一粒でも再送しなければなりません」

高齢者用の食事開発を

 通販は、買い物にいくのが困難な高齢者向けの有望なビジネスでもありますね。

 石田 「今後の事業展開の中で、高齢社会への対応を一つねらっています。うちは冷凍米飯などの食品加工メーカーとして、また学校給食もやっており、メニューづくりの力を持っていますから、高齢者用の食事を開発の優先課題としています。
 もう一つは単身赴任者などが家庭料理なみの食事を簡単にとれる商品を開発します」

 高齢者向けの食事は、宅配事業としてやるんですか。

 石田 「JAの組織力を活用するとか、郵便局、または提携先の宅急便のヤマトと組むか考えます。郵便配達と宅急便のセールスドライバーの人達は過疎地の高齢者の動静を一番把握していますからね。彼らの営業機能は大したものですよ」

『全社営業』 の方針つらぬく

関東工場 栃木県真岡市の関東工場のことをお聞かせ下さい。

 石田 「34億円をかけて建設した新鋭工場で、4月に稼働、9月からフル操業で、冷凍米飯を生産しています。味付けや具などによってアイテムは多彩です」

 主な販路はどこですか

 石田 「ファミリーレストラン、居酒屋、ホテルなどの業務用と、JAや生協、それと量販店で販売する市販品です。今までは業務用が中心でしたから、各取引先から出る厳しい注文に応えてきました。だから、うちにはかなり高い技術力があるんですよ。
 私が5年前に入社した時、ピラフを試食して”こんなにうまいものが、なぜ売れないのか”営業が問題だと考えて、その後、営業力強化に努めました」

 強化されましたか。

 石田 「それはもう。男子社員は昼間は営業に出払っていてほとんどオフィスにいません。行動力抜群です。IT革命だ、ネット取引だといっても、やはり顔と顔を合わせての情の通う商売が大切ですよ。また総務でも工場でも『全社営業』の方針です。とはいっても営業力強化は永遠の課題ともいえますからね」

 開発の進め方は?

 石田 「例えば大手外食産業が企画した秋のメニューを共同開発する方式もあります。今、和食系統のメニューが注目されていますが、うちは和食系が得意です」

 冷凍米飯は現在、味付け製品だけですが、今後は白飯も出回るようになりますか。

 石田 「そういう時代がくると思います。試作品の味比べでは、炊き立てと区別がつかなかったほどです。急速冷凍技術が非常に高くなっていますからね。一方、電子レンジのほうも、むらなく解凍できるようになりました」 

基本方針は 楽な商売をするな

石田善吾氏 社員教育はどうですか。

 石田 「中期3ヵ年計画を全社員に渡して私が説明するなど会社の方針徹底をはかっています。特に創立26年になる今年からを第2創業期と位置づけています」

 中3計画の要点をお聞かせ下さい。

 石田 「基本方向では第一に『楽な商売をするな』と提起しました(笑い)。これは問屋や商社に頼ることなく、消費現場の近くで営業しろという意味です。系統全体が川下志向ですが、第2には全農が持てない加工食品メーカーとしての機能をフルに発揮することを強調しました。
 次に、朝ご飯を食べましょうというお題目だけでなく、実際に食べてくれるような魅力ある加工品を消費者の目の前に、いっぱい、ぶら下げようというわけで商品開発に挑戦します。麺(めん)やパンに比べて米はその面で立ち遅れています。
 さらに日本型食生活といっても親が料理が作れないんだから、学校給食の場で子どもにお米を食べてもらう次代の『食の教育』に力を注ぎます。うちは学校給食センターを三つ持っていますから」

親方はいない、赤字は絶対出すな

石田善吾氏 将来を考える学校給食のことをもっと説明して下さい。

 石田 「学校給食センターを運営している埼玉県の久喜事業所では地域の伝統食をメニューに取り入れるとか、食材の由来や栄養分の特徴などを学校放送で流すテキストを毎日、栄養士が作って各学校に届けています。これは他のセンターではマネのできない地域への貢献です」

 今一番競争の激しいところで会社経営をなさっていますが、財務はどうですか。

 石田 「赤字は絶対に出すな、面倒をみてくれる親方はいない、配当はちゃんとする、といった方針で、要するに一人立ちしろということですよ。それから多額の投資をした新しい関東工場の早期黒字化に取り組みます」

 通販のリスク対策はどうされていますか。

 石田 「昨年度に設けた価格変動対策積立金を増強していきます。通販といえば花の取り扱いを始めました。第2創業期としての事業展開の一つです」

 では、どうも貴重なお話をありがとうございました。


インタビューを終えて
 石田社長は、はっきり物事をいい、かつ堅実である。会社経営も手堅い。石田社長曰く、「現在は会社の第二創業期である。」と。米消費拡大と、全購連、全販連合併の産物として全国農協食品株式会社が設立されたのは25年前。レトルト食品「農協ご飯」がヒットした。しかし、その後は事業を起こしては中止、閉鎖の繰り返しの歴史が会社沿革に記されている。

 10年前外食産業への農畜産物の販売と通信販売を新規事業に据えて推進、そのため、札幌、名古屋、戸田、福岡に営業所をあらたに開設し拠点としている。今年3月稼動したばかりの栃木県真岡工場はフル操業に近い。これらが現在、事業の柱に育っている。競争の激しい食品業界で黒字をだすのは容易ではないはず。社員教育は「全員が営業マンであれ、全農を頼り過ぎるな」。石田社長自らが出向いて、膝づめで基本方向を社員に説明する。また、取引の相手先にはプロの仕事を通じて地道に「信用」を積み上げる佐藤金兵衛前社長路線を石田社長がうまく継承して成功している。

 石田さんの趣味はどちらかと言えばアウトドア―派。山登り、ゴルフのほか3300cc大型車をドライブして川釣りで時を過ごすという。(坂田)



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