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この人と語る 21世紀のアグリビジネス
安全な新技術を提供し食料増産へ貢献が使命
もっと農家に対するサービスを
水稲を戦略的な作物だと位置づけています

 
ダウ・ケミカル日本
株式会社
ダウ・アグロサイエンス事業部門管掌
代表取締役副社長スティーブン・タトル


 
1959年7月生まれ。1982年米国オハイオ州立アグリカルチュラル・エンジニアリング学部を卒業後、ダウ・アグロサイエンス(本社:米国インディアナ州)の前身であるダウ・ケミカルの農薬部門に入社。1996年に来日し、ビジネス・ディベロップメント部部長に就任、1998年グローバル・バイオテクノロジー事業部門が米国本社組織として設置されたことに伴い、同事業のアジア・太平洋地域企画担当部長を兼任、本年7月より現職に専任。
インタビュアー:坂田正通(農政ジャーナリストの会会員)
スティーブン・タトル氏

 米国ミシガン州に本社を置くダウ・ケミカル社は、革新的な化学品、農業製品の開発・生産・販売を世界162カ国に広がる顧客へ提供している。1998年からは農薬部門もダウの100%関連会社となり、名称もダウ・アグロサイエンスと変更された。日本ではダウ・ケミカル日本の事業部門として農薬事業を行っている。今回は、昨年11月に同社の副社長に就任したスティーブン・タトル氏に21世紀の事業展望を聞いた。

スティーブン・タトル氏−−オハイオ州立大学農学部のご出身ですね。米国では農学部の人気が高いとか。

 「農学は非常に人気のある学科です。これまでは農業といえば、トウモロコシ、大豆、アルファルファといった作物生産のことだけを考えていましたが、最近ではたとえばゴルフ場の芝、家庭用の芝や花木、花壇苗の栽培など、単に食料を生産するだけではなく農業関連分野が大変広がってきました。ですから、農学部を卒業してもいろいろな選択肢があるわけです。
 米国でも農業従事者は非常に少ないため農学は魅力がないんじゃないかとよく誤解する人もいますが、そうではなく農業に関連した産業の裾野が非常に広がっていて、それらに従事している人を合わせると農業に従事している人の何倍もの人間が農業関連の分野で働いていることになります」

−−地球上では今でも飢餓や栄養不足に苦しむ人も多いですし、農産物の3分の1は病害虫や雑草によって失われていると言われています。農業の大切さについてはどうお考えですか。

 「私たちは、ダウを問題解決のための技術的手段を提供する企業、と定義しています。  農業の歴史を見れば、常に農産物の収量を上げるということにつきていると思います。その過程のなかで、常に新しい技術が用いられ農産物の増収を図ってきたわけですが、新しいテクノロジーはこれからもずっと必要になっていくと思いますね。

 さまざまな書物でも指摘されていることですが、適切な新しい技術を利用しないかぎり増大する世界人口を養うことはできません。その新しい技術とは農薬だけではなくバイオテクノロジーも含みますが、これはこれまで使われてきた農薬や肥料を置きかえるものではありません。こういう技術を利用しない限り、限られた農地で必要な食料は生産できないと思います」

◆世界25地域の中で日本はトップ5のひとつ

スティーブン・タトル氏−−ダウの世界戦略からすると日本はどう位置づけられているのでしょうか。

 「ダウは、世界を25の地域に分けて仕事をしていますが、そのなかのトップ5に日本・韓国地域が入っています。それは単にマーケットが大きいというだけではなくて、たとえば新しい植物防疫の技術が開発された場合、それを受け入れる力量のある国だということです。
 もう一つは、新技術を直接アジア諸国に持ち込んでも、まだその国のレベルに合わずなかなか定着しないことが考えられますね。そこで、まず日本に導入して咀嚼してから、アジア諸国に普及させることも考えているわけですが、その点でも日本は重要です。

 また、地域別ではなく、製品ごとにマーケットを細分化した戦略も立てるわけですが、その観点でいえば水稲を戦略的な作物と私たちは位置づけていますから、日本と韓国は大変重要になるわけです。
 また、緑化の分野でも、ゴルフ場の芝、鉄道や高速道路の矩なども当社の重要な市場で、この分野の成長も期待しています。
 さらにシロアリ防除剤の分野もあります。私たちは、北米でここ10年ほどこの分野でナンバーワン企業となっていますが、日本も木造建築が多い国ですからね。
 私たちの開発した防除システムは、セントリコン・システムと名付けた商品ですが、これは床下にシロアリ駆除剤を散布するのではなく、シロアリの仲間を餌に誘導する習性を利用したシステムで、家屋の周辺にシロアリ検知のためのステーション(人工餌場)を設置します。シロアリが検知されると微量の薬剤を含んだベイトを食べさせることによって、最終的には地中の巣全体を崩壊させるというものです」

◆日本の農薬市場の成長が止まってしまったこと

スティーブン・タトル氏−−日本の農薬業界では、外資系の大メーカーが直接販売を始めて、とくにフォーミュレータの経営が良くないといわれています。その点についてはいかがお考えですか。

 「欧米の大メーカーの直接販売だけが業界不振の原因ではないでしょう。それも一部あると思いますが大事なのは日本の農薬市場の成長が止まってしまった、あるいは減反や農耕地の減少という問題から縮小していることが第一の原因ではないでしょうか。
 それから、農家に対する新製品の提供などのサービスがだんだん少なくなってきていることもあると思います。それに対して欧米の大メーカーは新製品を次々に開発してユーザーに届けることができています。そこが差になっているのではないでしょうか。

 一方、農薬の流通を見ると、これまでのようにメーカーからフォーミュレーター・代理店を通じて段階的に農家まで販売されていくという形態以外に、Eコマースという形態での販売も出てくるでしょうし、米国ではカタログ販売での農薬取引も行われています。このように流通が多様化してきているわけですから、私たちも一部の製品については代理店から農家に直接販売するという取り組みも始めているわけです」

−−日本では農薬に対してあまりいいイメージを持っていない人が多いのですが、米国ではいかがでしょうか。

 「データを示して実証できるわけではありませんが、日本よりは受け入れられているでしょう。ただ完璧に農薬が受け入れられているということではありません。ですから、私たち農薬会社としては、今ある手段に安住するのではなく、要求される条件をはるかに満たすような新しいテクノロジーを開発していかなくてはならないと思います。その例が先ほどお話しましたセントリコン・システムですし、ほかにも日本ではスピノエースという名前で上市した野菜用殺虫剤があります。これは、天然物由来の物質を使用したもので米国では大統領からグリーン・ケミストリー特別表彰を受けた環境保全型農業に合致すると考えている薬剤です。

 このように私たちの業界は、現在売れているからいいと考えるのではなく、消費者は農薬にいいイメージを持ってはいませんから、常により安全なより環境に優しい製品をつくっていくことが大事ではないでしょうか」

◆資本参加は流通ルートを求めていたから

スティーブン・タトル氏−−このほど菱商農材(株)に資本参加されましたがその理由と、今後の既存フォミュレータとの関係についてお聞かせください。

 「その理由は、菱商農材(株)も日本市場のなかで新製品を求めていましたし、私たちは製品を末端に届けるための流通ルートを求めていたからです。お互いの考え方が一致したわけですね。
 ただ、ほかのさまざまな既存のフォミュレーターなどとの関係については、これは一方的なものではなくて相互関係であると考えています。この相互関係は、ビジネスと人との信頼関係を基本にしてこれまでに築いてきたものです。ですから、今回の菱商農材への資本参加に関しては、私たちは、これから何を起こそうとしているのかについて説明して、ご理解をいただいております」

−−ご家族も日本で暮らしているのですか。

 「はい。家族も日本での生活を楽しんでいます。日本の田舎にも出かけていますが、自分たちの知らなかったことを発見できることがみんなの喜びになっていますね。また、異なる文化の国に住むと自分の国のこともよく見えてきます。ですから、こういう経験は計り知れない価値があると思っていますし、自分や家族の人生にとってもかけがえのないことだと思っています」

−−どうもありがとうございました。


インタビューを終えて

 スティーブン・タトルさんの母方はコットン農家だったし、父方は鉱業エンジニアだった。オハイオ州立大学では農学部で農業エンジニアを専攻した。農業の歴史は増大する世界人口を養うために十分な生産量を得ることでした。このため新しい技術が次々に生まれて来たし、将来も環境対応の新しい技術は必要としていますという。日本の稲作、特殊野菜の高度な栽培技術は少なくとも10−15年は世界の農業発展には欠かせない情報があると説く。農業への熱い思いを聞いていると感動的である。通訳の芝原さんもはじめてこのような話を聞きますと感心している。家族の事になると、にこにこされる。奥さんと3人のお子さんは日本で暮らし、4年になる。家族は皆日本人との交流が楽しく在日生活をエンジョイしている。何時も新しい発見があり、お金では買えない経験をしていると云われる。スティーブン・タトルさんはまだ40才、国際企業ダウケミカル社アグロサイエンス事業部から派遣されている。親日家の将来に期待したい。(坂田)



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