この人と語る 21世紀のアグリビジネス 安全な新技術を提供し食料増産へ貢献が使命 もっと農家に対するサービスを 水稲を戦略的な作物だと位置づけています ダウ・ケミカル日本株式会社 ダウ・アグロサイエンス事業部門管掌 代表取締役副社長スティーブン・タトル氏
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米国ミシガン州に本社を置くダウ・ケミカル社は、革新的な化学品、農業製品の開発・生産・販売を世界162カ国に広がる顧客へ提供している。1998年からは農薬部門もダウの100%関連会社となり、名称もダウ・アグロサイエンスと変更された。日本ではダウ・ケミカル日本の事業部門として農薬事業を行っている。今回は、昨年11月に同社の副社長に就任したスティーブン・タトル氏に21世紀の事業展望を聞いた。 −−オハイオ州立大学農学部のご出身ですね。米国では農学部の人気が高いとか。 「農学は非常に人気のある学科です。これまでは農業といえば、トウモロコシ、大豆、アルファルファといった作物生産のことだけを考えていましたが、最近ではたとえばゴルフ場の芝、家庭用の芝や花木、花壇苗の栽培など、単に食料を生産するだけではなく農業関連分野が大変広がってきました。ですから、農学部を卒業してもいろいろな選択肢があるわけです。 −−地球上では今でも飢餓や栄養不足に苦しむ人も多いですし、農産物の3分の1は病害虫や雑草によって失われていると言われています。農業の大切さについてはどうお考えですか。 「私たちは、ダウを問題解決のための技術的手段を提供する企業、と定義しています。 農業の歴史を見れば、常に農産物の収量を上げるということにつきていると思います。その過程のなかで、常に新しい技術が用いられ農産物の増収を図ってきたわけですが、新しいテクノロジーはこれからもずっと必要になっていくと思いますね。 ◆世界25地域の中で日本はトップ5のひとつ −−ダウの世界戦略からすると日本はどう位置づけられているのでしょうか。 「ダウは、世界を25の地域に分けて仕事をしていますが、そのなかのトップ5に日本・韓国地域が入っています。それは単にマーケットが大きいというだけではなくて、たとえば新しい植物防疫の技術が開発された場合、それを受け入れる力量のある国だということです。 また、地域別ではなく、製品ごとにマーケットを細分化した戦略も立てるわけですが、その観点でいえば水稲を戦略的な作物と私たちは位置づけていますから、日本と韓国は大変重要になるわけです。 ◆日本の農薬市場の成長が止まってしまったこと −−日本の農薬業界では、外資系の大メーカーが直接販売を始めて、とくにフォーミュレータの経営が良くないといわれています。その点についてはいかがお考えですか。 「欧米の大メーカーの直接販売だけが業界不振の原因ではないでしょう。それも一部あると思いますが大事なのは日本の農薬市場の成長が止まってしまった、あるいは減反や農耕地の減少という問題から縮小していることが第一の原因ではないでしょうか。 一方、農薬の流通を見ると、これまでのようにメーカーからフォーミュレーター・代理店を通じて段階的に農家まで販売されていくという形態以外に、Eコマースという形態での販売も出てくるでしょうし、米国ではカタログ販売での農薬取引も行われています。このように流通が多様化してきているわけですから、私たちも一部の製品については代理店から農家に直接販売するという取り組みも始めているわけです」 −−日本では農薬に対してあまりいいイメージを持っていない人が多いのですが、米国ではいかがでしょうか。 「データを示して実証できるわけではありませんが、日本よりは受け入れられているでしょう。ただ完璧に農薬が受け入れられているということではありません。ですから、私たち農薬会社としては、今ある手段に安住するのではなく、要求される条件をはるかに満たすような新しいテクノロジーを開発していかなくてはならないと思います。その例が先ほどお話しましたセントリコン・システムですし、ほかにも日本ではスピノエースという名前で上市した野菜用殺虫剤があります。これは、天然物由来の物質を使用したもので米国では大統領からグリーン・ケミストリー特別表彰を受けた環境保全型農業に合致すると考えている薬剤です。 このように私たちの業界は、現在売れているからいいと考えるのではなく、消費者は農薬にいいイメージを持ってはいませんから、常により安全なより環境に優しい製品をつくっていくことが大事ではないでしょうか」 ◆資本参加は流通ルートを求めていたから −−このほど菱商農材(株)に資本参加されましたがその理由と、今後の既存フォミュレータとの関係についてお聞かせください。 「その理由は、菱商農材(株)も日本市場のなかで新製品を求めていましたし、私たちは製品を末端に届けるための流通ルートを求めていたからです。お互いの考え方が一致したわけですね。 −−ご家族も日本で暮らしているのですか。 「はい。家族も日本での生活を楽しんでいます。日本の田舎にも出かけていますが、自分たちの知らなかったことを発見できることがみんなの喜びになっていますね。また、異なる文化の国に住むと自分の国のこともよく見えてきます。ですから、こういう経験は計り知れない価値があると思っていますし、自分や家族の人生にとってもかけがえのないことだと思っています」 −−どうもありがとうございました。 インタビューを終えて |