この人と語る 21世紀のアグリビジネス 農協とともに農村経済を支えて −「大きな企業」より「立派な企業」をめざす 星野物産株式会社 会長 星野 精助 氏
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群馬県大間々町に本社のある星野物産(株)は「上州手振りうどん」で有名だが、ほかにも飼料・肥料製造、物流業など幅広く事業を展開しており農協組織との関係も深い。その事業展開の原点には「日本農業の中核になる農協に協力する」という発想があったという。今年、85歳になる星野精助会長にこれまでの歩みを振り返ってもらうとともに、21世紀への提言を聞いた。今回は、かつて系統肥料の群馬県担当を務め全農監事、全中常務も歴任した田久保一政氏にも同席してもらった。 |
■星野物産の前身は、明治35年に創業した福岡屋星野商店で米麦、肥料薪炭の販売業を営んでおられたのですね。その後の歩みをお聞かせいただけますか。 創業者は、親父(新吉氏)ですから、私は先代が発想したものを整理したり、管理して会社らしい恰好にしてきたわけです。いわゆる2代目ですよ。 これがひとつの大きな分かれ目でした。戦前の商人は、産業組合設立が盛んになっていくと反産運動のほうに入っていったのです。しかし、金子先生は「商人はただもっと買ってくれとか、安く売ってくれというだけ。産業組合は生活指導をするんだ、商人にはそれができない」という考え方を聞かされていたものですから、先生の言うことがすぐに理解できた。 ■金子与重郎さんは店によく遊びに来ていたそうですね。 そうですね。そのころは現在の日産化学のセールスマンとして河野謙三さん(後に参議院議長)も来ていた。それで二人で社会主義か、資本主義かと議論するわけです。金子さんの家は地主でしたが、社会主義的な考え方で農村には産業組合が必要だということを強調していました。 ●最初は6割の農協が株主になって● ■先代の後を引き継がれたのは昭和23年、33歳のときですね。農協を通じて肥料や飼料を売るというのは当時は斬新だったと思いますが。 群馬組合肥料の設立の翌年には飼料も扱うようになり、さらに28年には化成肥料も製造する関東化成工業(株)となりました。 アメリカでは当時、配合飼料会社が大規模な企業になっていることを当時の河野一郎農林大臣と会食したときに聞きまして、それで日本もいずれそうなるだろうと、3交代で月産1万トン程度の生産量の工場として稼働させました。しかし、それでも不足したものですから、経済連の直営工場として群馬くみあい飼料ができたんですね。たしかに飼料は毎年どんどん伸びる時代でした。 ●集落座談会で農業経営のあり方を話し回る●
田久保 当時の状況を補足しますと、群馬県の系統肥料のシェアは全国では下から数えて2番めぐらいだったと思いますが、これをいかに上げるかが最大の目標でした。そこで関東化成の化成肥料をかついで各農協を回ることになったんです。農協とはいかなるものか、農業経営をどうしなければならないかを説いて回りましたね。関東化成のジープを借りて県内を走り回ったことを覚えています。
農業というものは、協同組合とタイアップすることによってこそ力が出てくるという認識が星野さんにあって、それと不即不離の形で経済連があった。そしてわれわれ全農も入ってという本当に一丸となって運動をすすめたことが成果につながったと思いますね。 ●利益は手段、儲けるのではなく儲かる企業を● ■「なくてはならぬ企業、大きさよりも立派な企業」と言われていますが、そうした考え方にはお母さんの影響もあったそうですね。 お袋は、儲けるのと儲かるのでは違うよ、といっていました。儲けようというのではなく、儲かるようにしなければだめだよと。儲かるというのは相手が授けてくれることで、儲けるというのは相手から取る、ということだとお袋なりの解釈を教えてくれましたね。そうすると、たとえば、お得意さまにいいものを作るとか、欲しいものをつくるとか、なるべくコストを下げるということになってくるわけですね。 加藤さんとは仏教の勉強を通じて知り合いましたが、親鸞が語った人間のあり方としての「生かされている」という言葉を色紙に書いて贈ってくれました。毎日、それを見ているんですが、今は、「生き残るため」という言葉をよく使いますね。ただ、それは自分が喰わんがためじゃないかと、そうではなくて「生かされる」にはどうすればいいか考えるべきでじゃないかと思うんですね。 ●農協という言葉を恥ずかしがったら本末転倒●
■21世紀に向けて農協を中心としたアグリビジネスに関係する若い世代への提言をお聞かせください。 ずっと仏教や歴史を勉強していますが、最近、玉木懿夫という人が1905年に「英国衰亡論」を書いているのを知りました。それは最盛期の英国の憂うべき現象を記して日本の若者に警告を発したものですが、そこには「田舎を嫌い、都会を好む」、「農業の衰退、自給率の低下」、「商業競争に熱中」、「国よりパンを愛す。公共精神の低下」などと書かれています。これは今の日本が非常に似ていると思いますね。 ただ合理化すればいいんだという考えで、特徴を失ってしまえば組織にしろ、国にしろかえって弱くなってしまうのではないか。合理的経営が主題となっていくと、逆に足下が揺らいでくるんじゃないでしょうか。目的と手段を取り違えて自己保存だけを強めていくと逆に衰退が強まっていくんじゃないかと思いますね。 インタビューを終えて 結婚生活60周年を孫などファミリー一族に囲まれ、温泉で昨年お祝いしたという。今まで浮いた噂はなかったのに、お話をうかがっていると星野さんの一番恐いのは奥様のようにも映る。 (坂田) |