戦略的な同盟で 特色ある製品を開発・販売 FMC株式会社 取締役農業製品事業部長 小林 弘 氏 インタビュアー:坂田 正通 (農政ジャーナリストの会会員)
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◆食品機械、農薬など幅広い事業を世界的に展開
−−社名のFMCというのは、何の略称ですか。 小林 Food Machinery Corporation (フード・マシナリー・コーポレーション)の頭文字からきています。 −−食品機械が主体の会社ですか。 小林 1883年に、カリフォルニアのサンホゼの果樹園でカイガラムシが大発生したときに、防除のために石灰硫黄合剤を散布するジョーン・ビーン・スプレイヤーという散布機を開発したことから、会社は始まっています。現在でも、木の大きさによつて撒布量をコンピュター制御するスピードスプレイヤーを作つています。 −−農薬や化学品を扱うようになるのはいつ頃からですか。 小林 農薬は、1943年にナイヤガラケミカルという会社を買収し、戦後にカルボフランという殺虫剤をだしてからです。
◆殺虫剤の原体を供給。春には新剤も投入 −−日本での事業の中心は・・・。 小林 農薬関係、食品機械、バイオポリマー、そしてリチウム関係ですね。 −−日本での農薬事業は、どうなっているのでしょうか。 小林 現在、日本では、日産化学で販売している殺虫剤のアドバンテージ粒剤やガゼット粒剤、ビームガゼット粒剤など殺菌剤との混合剤、殺虫剤同士の混合剤ガゼットプリンス粒剤などがあるカルボスルファン剤。そしてテルスターという商標で販売されている殺虫剤ビフェントリン剤です。これには水和剤、フロアブル剤、くん煙剤、それに最近伸びてきている家庭園芸用のスプレーがあります。この2剤での原体供給が主力です。 ◆世界的に農薬市場は縮小する傾向にある −−日本の農薬業界は大変厳しい状況にありますが、今後についてはどう見ておられますか。 小林 農薬の売上高が急激に減った1つの原因は、流通在庫がものすごくありましたが企業が努力して整理してきた時期と、減反が強化された時期が重なったことがあると思います。これからは急激には減らないと思いますが、徐々に減り、日本の農薬マーケットは2005年には3000億円を切ってしまうのではないかと見ています。それは水稲の減反と農産物の輸入、とくにフレッシュな野菜や果物の輸入が増え、デフレと農家経済が良くならないだろうと見ているからです。 −−世界の農薬業界ではM&Aとか統廃合が進んでいますが、今後はどうなると思いますか。 小林 現在の世界の農薬市場は、トップ5社で67%を占めこれにダウとデュポンを加えると81%になります。これが2000億円以上のTier(ティア=階層)1(ワン)カンパニーといわれる企業で、Tier2は1000億円以下で、この中間の企業がありません。大きい企業はどんどん合併して大きくなりますし、小さいところはほとんど規模は変わりません。これからは、極端に大きいか小さいかの両極端になり、中途半端な規模はやっていけなくると思いますね。 ◆自らの強い部分に力を注ぎ、同規模メーカーと提携 −−そうしたなかでFMCの今後の戦略はどういうものですか。 小林 FMCのようなTier2のメーカーは、ニッチマーケットを狙うしかありません。しかし、新しい薬を創生するといってもそう簡単にはできませんし、莫大なお金がかかります。これからはTier2の会社同士で戦略的な同盟を組み、開発・マーケティング・製造・販売で互いに協力し合っていかないと、生きていけないと考えています。 −−各社の得意分野を活かすことで、全体としては補い合ってということですか。 小林 そうです。FMCは全世界をカバーしているわけではありません。FMCが強い地域では、同盟を組んだ他社製品も売り、弱い地域ではそこに強い他社に売ってもらうわけです。製品開発でも同じことで、各社が強いところをフォーカスしてそこに力を注いでいかないと対抗できません。ビッグな会社にも、ダニ剤とかセンチュウ剤とか穴がありますから、そこを狙って特色のある製品を開発していくことだと思います。 −−海外原体メーカーの直販が広がっているようですが、貴社はどう考えていますか。 小林 国によっては行っていますが、日本での登録薬剤が少ないことと、流通コストが高いこと、そして50億〜100億円規模の大型剤がないとメリットが出せませんから日本での直販は考えていません。 ◆インターネットを活用し、サービスを強化することが・・・ −−JAグループへアドバイスがありましたらお話ください。 小林 JAは合併してどんどん大きくなっていますが、あとはサービスをどうするかではないでしょうか。日本の農家は規模がそれほど大きくはありませんから、JAに頼っていると思いますから、サービスが悪いと商系に移っていくことになると思います。いまはパソコンも普及してきていますから、JAがインターネットで農家に直接情報を流しE−ビジネスを含めて双方向でやればいいと思います。現場を一番つかんでいる優秀な営農指導員がおられるのですから・・・。 インタビューを終えて
小林さんとは初対面だったが、外資系の取締役といってもバタ臭さはなく、さばけた感じの人である。学生時代シベリア〜ヨーロッパ鉄道を乗り継いでヨーロッパへ2年間留学し、滞在の長かったロンドンではクインズイングリシュの発音に耳慣れていた。25年前、FMC社の入社試験を受けた際の面接官は、アメリカ人だったため彼の英語の発音が聞き取り難かったという国際人。入社時に、FMC社の開発した殺虫剤「アドバンテージ」が日本市場で売れ出して、農薬担当の小林さんは月給もボーナスも外資系の実力・業績主義の恩恵を受けて急上昇。運もあったとおっしゃるが、年功序列の日本の会社とは違う。 小林さんの趣味は、和ランの栽培。和ランの好きな地域の人の異業種交流で「山の手えびね会」を組織し、月一回集まっている。えびねランの花は4月中−5月上旬に咲く。えびねラン展示会は毎年4月に世田谷の砧会館で開き、地域の人を楽しませている。「えびね会」のえびねランを写真にした会社カレンダーは評判がよくて、ひっぱりだこ。2001年カレンダーは全て売リ切れとのこと。(坂田) |