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この人と語る 21世紀のアグリビジネス

戦略的な同盟で
特色ある製品を開発・販売

   
FMC株式会社

取締役農業製品事業部長 小林 弘
インタビュアー:坂田 正通 (農政ジャーナリストの会会員)
 農薬業界は、ビッグな企業を中心に世界的な規模での再編が急速に進展してきている。そうしたなかで、中規模以下の企業はどういう戦略をとっていくのか。農薬だけではなく食品機械、バイオなど幅広い事業を展開するFMC(株)の小林弘農業製品事業部長に聞いた。

小林 弘 氏

食品機械、農薬など幅広い事業を世界的に展開

ジョーン・ビーン・スプレイヤー
ジョーン・ビーン・スプレイヤー
第二次世界大戦時につくられた水陸両用車
第二次世界大戦時につくられた
水陸両用車

 −−社名のFMCというのは、何の略称ですか。

 小林 Food Machinery Corporation (フード・マシナリー・コーポレーション)の頭文字からきています。

 −−食品機械が主体の会社ですか。

 小林 1883年に、カリフォルニアのサンホゼの果樹園でカイガラムシが大発生したときに、防除のために石灰硫黄合剤を散布するジョーン・ビーン・スプレイヤーという散布機を開発したことから、会社は始まっています。現在でも、木の大きさによつて撒布量をコンピュター制御するスピードスプレイヤーを作つています。
 その後、1900年代初めには収穫した果物を加工する機械の開発を行い、缶詰や包装、選果機とかに進んでいきます。さらに1920年頃にはトラクター等農業機械にも進出していますが、キャタピラーなどトラクターの技術を使って戦車とか水陸両用車を第2次世界大戦のときにはつくりました。

 −−農薬や化学品を扱うようになるのはいつ頃からですか。

 小林 農薬は、1943年にナイヤガラケミカルという会社を買収し、戦後にカルボフランという殺虫剤をだしてからです。
 天然ソーダ灰の鉱山をもっていて、天然ソーダ灰と過酸化水素の生産規模は世界のトップクラスですね。その他、現在はバイオポリマーとか結晶セルロース、リチウム電池なども化学品としては扱っています。
 農業関係の機械では、ミカンジュースの搾汁機とか缶詰用の機械がありますが、北海道で使っているスイートコーンの収穫から缶詰にするまでの一連の機械、ジャガイモのピーラー(皮むき器)などがあります。その他、滅菌装置、包装、充填、製缶、フリーザーなど食品加工機械が多数あります。農業とは関係ありませんが、海底油田の採掘関係のバルブとかコンベア−など石油採掘機器もありますし、空港で人や荷物を運ぶための機器などもあります。

小林 弘 氏
(こばやし ひろし)
1946年 神奈川県生まれ
1971年 東京農工大植物防疫学科卒業。在学中の1968〜69年にシベリア鉄道でヨーロッパに渡り2年間遊学する。
1976年 FMCファーイーストに入社。
1992年 農薬事業部長 1997年 FMC日本法人設立にともない取締役農業製品事業部長に就任し、現在に至る。
趣味はエビネの栽培。小林事業部長作成のエビネカレンダーは、業界でもファンが多い。

殺虫剤の原体を供給。春には新剤も投入

 −−日本での事業の中心は・・・。

 小林 農薬関係、食品機械、バイオポリマー、そしてリチウム関係ですね。

 −−日本での農薬事業は、どうなっているのでしょうか。

 小林 現在、日本では、日産化学で販売している殺虫剤のアドバンテージ粒剤やガゼット粒剤、ビームガゼット粒剤など殺菌剤との混合剤、殺虫剤同士の混合剤ガゼットプリンス粒剤などがあるカルボスルファン剤。そしてテルスターという商標で販売されている殺虫剤ビフェントリン剤です。これには水和剤、フロアブル剤、くん煙剤、それに最近伸びてきている家庭園芸用のスプレーがあります。この2剤での原体供給が主力です。

 また、ハーデイDFというゴルフ場用除草剤の登録を昨年とりまして、現在、発売準備中です。さらに、昨年12月に登録を取得した有機リン系殺虫剤成分カズサホスを特殊な樹脂でマイクロカプセル化したセンチュウ防除剤・ラグビーMC剤を春に発売する予定です。また夏ごろには、しろあり用のべイト剤 ”ファーストライン”を発売する予定です。
 また、来年には非選択性の新除草剤 “マスターズ”を発売する予定です。

世界的に農薬市場は縮小する傾向にある

 −−日本の農薬業界は大変厳しい状況にありますが、今後についてはどう見ておられますか。

小林 弘 氏 小林 農薬の売上高が急激に減った1つの原因は、流通在庫がものすごくありましたが企業が努力して整理してきた時期と、減反が強化された時期が重なったことがあると思います。これからは急激には減らないと思いますが、徐々に減り、日本の農薬マーケットは2005年には3000億円を切ってしまうのではないかと見ています。それは水稲の減反と農産物の輸入、とくにフレッシュな野菜や果物の輸入が増え、デフレと農家経済が良くならないだろうと見ているからです。

 −−世界の農薬業界ではM&Aとか統廃合が進んでいますが、今後はどうなると思いますか。

 小林 現在の世界の農薬市場は、トップ5社で67%を占めこれにダウとデュポンを加えると81%になります。これが2000億円以上のTier(ティア=階層)1(ワン)カンパニーといわれる企業で、Tier2は1000億円以下で、この中間の企業がありません。大きい企業はどんどん合併して大きくなりますし、小さいところはほとんど規模は変わりません。これからは、極端に大きいか小さいかの両極端になり、中途半端な規模はやっていけなくると思いますね。
 現在の世界の農薬市場は300億j位ですが、減農薬とGMO(遺伝子組換え作物)の影響で、年間1%の割合で下がり、2004年には270億jになるのではないかという説があります。それと現在50億以上売っている農薬のうち30剤の特許が2005年までに切れ、ジェネリック品が出てくるとみられています。今後このウェイトが高くなれば価格が安いですから、売上げとしては下がりますね。

自らの強い部分に力を注ぎ、同規模メーカーと提携

 −−そうしたなかでFMCの今後の戦略はどういうものですか。

 小林 FMCのようなTier2のメーカーは、ニッチマーケットを狙うしかありません。しかし、新しい薬を創生するといってもそう簡単にはできませんし、莫大なお金がかかります。これからはTier2の会社同士で戦略的な同盟を組み、開発・マーケティング・製造・販売で互いに協力し合っていかないと、生きていけないと考えています。

 −−各社の得意分野を活かすことで、全体としては補い合ってということですか。

小林 弘 氏 小林 そうです。FMCは全世界をカバーしているわけではありません。FMCが強い地域では、同盟を組んだ他社製品も売り、弱い地域ではそこに強い他社に売ってもらうわけです。製品開発でも同じことで、各社が強いところをフォーカスしてそこに力を注いでいかないと対抗できません。ビッグな会社にも、ダニ剤とかセンチュウ剤とか穴がありますから、そこを狙って特色のある製品を開発していくことだと思います。

 FMCはいまは殺虫剤だけの開発にターゲットを絞っています。そしてセンチュウの一種を使って遺伝子の解明をしているベルギーのバイオテクノロジー・ベンチャーのDevgen社と殺虫剤分野で提携し、新しい方法での新しい作用機作をもった新殺虫剤の開発をめざしています。

 −−海外原体メーカーの直販が広がっているようですが、貴社はどう考えていますか。

 小林 国によっては行っていますが、日本での登録薬剤が少ないことと、流通コストが高いこと、そして50億〜100億円規模の大型剤がないとメリットが出せませんから日本での直販は考えていません。

インターネットを活用し、サービスを強化することが・・・

 −−JAグループへアドバイスがありましたらお話ください。

 小林 JAは合併してどんどん大きくなっていますが、あとはサービスをどうするかではないでしょうか。日本の農家は規模がそれほど大きくはありませんから、JAに頼っていると思いますから、サービスが悪いと商系に移っていくことになると思います。いまはパソコンも普及してきていますから、JAがインターネットで農家に直接情報を流しE−ビジネスを含めて双方向でやればいいと思います。現場を一番つかんでいる優秀な営農指導員がおられるのですから・・・。
 E-ビジネスに立ち遅れると将来農家が離れていってしまうと思いますね。 


インタビューを終えて

ランの花
小林部長が栽培した和ラン(えびね)

 小林さんとは初対面だったが、外資系の取締役といってもバタ臭さはなく、さばけた感じの人である。学生時代シベリア〜ヨーロッパ鉄道を乗り継いでヨーロッパへ2年間留学し、滞在の長かったロンドンではクインズイングリシュの発音に耳慣れていた。25年前、FMC社の入社試験を受けた際の面接官は、アメリカ人だったため彼の英語の発音が聞き取り難かったという国際人。入社時に、FMC社の開発した殺虫剤「アドバンテージ」が日本市場で売れ出して、農薬担当の小林さんは月給もボーナスも外資系の実力・業績主義の恩恵を受けて急上昇。運もあったとおっしゃるが、年功序列の日本の会社とは違う。

 小林さんの趣味は、和ランの栽培。和ランの好きな地域の人の異業種交流で「山の手えびね会」を組織し、月一回集まっている。えびねランの花は4月中−5月上旬に咲く。えびねラン展示会は毎年4月に世田谷の砧会館で開き、地域の人を楽しませている。「えびね会」のえびねランを写真にした会社カレンダーは評判がよくて、ひっぱりだこ。2001年カレンダーは全て売リ切れとのこと。(坂田)



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