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この人と語る 21世紀のアグリビジネス

顧客第一で考えると新しいものが捉えやすい
   
(株)科学飼料研究所

代表取締役社長インタビュー   谷 容全
インタビュアー:坂田 正通 (農政ジャーナリストの会会員)
 系統の畜産事業の一翼を担う協同会社(株)科学飼料研究所は、健全経営の企業として、系統内外からの評価も高い。畜産事業は、牛肉の輸入自由化の洗礼を受けて以来、厳しい事業環境の中にあるが 「顧客第一主義で、ニーズに対応した商品開発が大切」と語る谷社長に、新世紀を生きる企業としての姿勢を、また畜産事業をめぐる様々な問題を訊いてみた。

谷 容全 氏

プレミックスの製造からスタート

  −−設立は1967年ですね。最初にこれまでの歩みと最近の業務内容をお話いただけますか。

   設立当時は、1961年に制定された旧農業基本法が掲げていた選択的拡大路線のさなかで畜産部門も成長期だったわけですね。高度成長にともなって食生活でも肉の消費が増えていった時期ですから、当社の経営も最初の10年間ほどは上向きだったといえるでしょう。
 当社はプレミックスの製造会社としてスタートしました。プレミックスとは、ビタミンやミネラルなどの微量要素を予め飼料に加えるという飼料添加物のことです。現在の生産量は8000tほどですべて飼料会社に供給していますが、ずっと経営の柱だったわけです。飼料添加物はサプリメントともいわれますが、それは飼料を家畜に与える際に添加するもので、われわれのプレミックスは飼料原料という位置づけですから若干異なります。
 その後、業界に大きな影響を与えたのがやはり牛肉の輸入自由化ですね。おそらく自由化以前の1988年ぐらいが配合飼料の生産量もピークだったと思いますが、それから輸入畜産物がどんどん増えてきてそれにともなって日本の畜産業界が縮小を余儀なくされてきたという状況にあると思います。

防疫体制づくりは共同で取り組んでこそ

−−畜産事業をめぐっては、最近では口蹄疫や海外では狂牛病の発生など、防疫、安全性の確保が改めて大きな問題としてクローズアップされていますが、どう考えておられますか。 谷 容全 氏

   防疫問題というのは、実に難しい問題ですね。たとえば、有機栽培でいえば、ある畑だけ有機農法をやっても隣の畑で農薬を使えばその影響を受けてしまうことがあるように、JAグループだけで防疫体制を作るだけでは万全でない。みんな共同で取り組まなければならない問題ですね。
 防疫問題は、家畜の生育が不良だというような現象ではなく、病原菌がいなければ何の問題もない。ところが一旦発生すると大問題になるわけです。これは日本でも国をあげて真剣に考えるべき重要な問題だと思いますね。

海水系養殖魚の飼料開発が課題

  −−そうした畜産事業の環境変化にともなって事業の内容はどう変化してきていますか。

谷 容全 氏
(たに やすまさ)
昭和12年4月岡山県生まれ。東京農工大学農学部卒。
昭和36年全購連(現全農)入会。
昭和51年全農大阪支所飼料畜産部飼料課長、
昭和57年米国全農組貿(株)、
昭和60年全農飼料部単味副原料課長、
昭和63年同会東京支所次長、
平成3年米国全農組貿(株)代表取締役社長、
平成6年全農参事、
平成9年(株)科学飼料研究所参与、
同年同社専務取締役、
平成10年6月同社代表取締役社長。
   プレミックスに加えて、牛豚の人工乳(代用乳)、動物薬・ワクチン、養魚飼料、それから動物薬や飼料添加物の原体加工などの分野まで最近では手がけています。
 家畜というのは経済動物ですから、成長促進や病気対策が求められる世界ですね。ですから、当社はそのための微量要素や薬剤などのきめ細かな製造を得意技としてきたといえるでしょう。たとえば、人工乳にしても原料は脱脂粉乳やホエーパウダーを使いますが、農家が使うときにスムーズに溶けなければ使えませんし、牛や豚の嗜好性も考えなくてはならない。そういうきめの細かさが必要とされる仕事ですね。
 それから養魚飼料については10年ほど前から製造して農協に供給していますが、われわれの製品はマス、アユ、コイなどの内水系の養殖魚の飼料です。しかし、これらは魚の市場として大きなものではなく、まして餌となるともっと小さなマーケットですね。そこで今後の課題としては、ハマチやアジといった海水系の養殖魚の飼料開発になると考えています。今は、まだハマチなどの餌は半分が生餌なんですね。イワシなどです。市場としては100万tあるといわれていますが、このうちの50万tが生餌ですが、生餌は海も汚すし効率も悪いということで今後は普通の餌に変わっていくと見込まれています。
 注目されるマーケットですからわれわれとしてもこの分野での取り組みが課題だと考えていて、たとえば、病気に強い餌だとか、他社と差別化して生産性の上がる養魚飼料の開発に挑戦していかなければならないと思います。

オープンな体制で研究開発すべき

  −−商品開発力が課題というわけですね。

   われわれのような成熟産業は、いかに新しいもの開発していくかが重要だと思います。価格競争に巻き込まれるというのは、開発を怠った当然の報いだと私は思う。商品力を強化すればいいわけで、何年も何年も同じ商品を出すから価格競争ということになってしまう。
 だから、この問題はわれわれだけではなく、全農にも商品開発力が一層期待されることになると思います。そのときに全農独自で開発するのがいちばん望ましいけれども、大学や他の研究機関とタイアップするなど選択肢もあると思いますね。JAグループとしては、その点も視野に入れ本腰を入れなくてはいけないと思うんですが。たとえば、国内だけでなく海外のさまざまなメーカーも含めて連携するなど、もっとオープンな体制での研究開発を考えるべきではないでしょうかね。

依存からの脱却が当面の課題に

  −−一方で、全農も統合連合が進み協同会社にとってもいろいろと課題があると思いますが。

   私としては、いわばこれまでの全農による護送船団方式が終焉する時代を迎えたという認識が必要だと思っています。これは大きな変化であって、そうなると協同会社としては、本来の全農が期待する機能を発揮すると同時にどう自立化を図るのかということが非常に明確になってきたわけです。つまり、難しいことですが、どう依存性から脱却するか、です。これが当面の課題でしょうね。
 そのためには、研究開発のための人材の育成や当社としての執行体制を考え直さなければならないでしょうし、同時に日々メーカーとしていコストダウンを図りいいものを作っていくか、研究開発とあわせて製造部門の充実も課題になるでしょう。

顧客に焦点合わせニーズをいち早く

  −−社員の意識改革も求められますね。

   社是には、和衷協同、元気溌剌、創意工夫などを掲げています。これは創業まもない頃、初代の立岩順一社長が掲げたもので、いかにこの新しい会社をまとめていくかという意識が強かったのだと思います。そういう段階での社是として、求心力を発揮しようというこの方針は歴史的に意味があったと思います。
 しかし、社長が社是を否定的に言うのもなんですが(笑)、これからはやはり顧客を大事にしようとか、外に向けたわれわれの姿勢はどうあるべきか、そのことをもっと意識して仕事をすべきだと思いますね。
 それから当社は、3つの工場とワクチンセンター、開発センターを持っていますが、資本金は1億円であってやはり規模からすれば中小企業ですよ。そういう認識を持つことが必要だと私は言っています。
 ただ、当社の場合、飼料添加物や薬剤の開発を柱としてきましたから、専門知識や技術を身につけた人材を採用して育成してきており、この点は今後新しい事業を発展させるうえで条件は整っていると考えています。
 やはり商売をやっている限りは顧客第一で考えるべきでしょう。おそらく顧客第一で考えることが新しいニーズや変化を捉えやすいと思うんですね。
 中小企業庁の調査によると、創造法認定経営者の前職は、半分近く営業マンで、その次に研究開発部門に従事していた人となっているんですね。本当に顧客が必要としているニーズをいち早くつかんで、それに基づいて新たな事業を具体化したということだと思う。だから、顧客に焦点を合わせるというのはいろいろな面で今後は大変重要だと考えています。

 −−今後のご活躍を期待しています。今日はありがとうございました。


インタビューを終えて
谷 容全 氏
谷 容全 社長

 谷社長のことを上司が「センスが良い」と誉めていたし、元全農の会長が海外出張に同行し、谷さんの人柄について絶賛していたことを思い出した。他人と違った何かを持っているからだろう。谷さんは世が世であれば、真言宗のお坊さん。人々にお説教していたかもしれないのに、なまじ学問してサラリーマンになったばかりに生家のお寺を継がなかった。現世では教えを生かせなくとも、来世では屈託なく活き活きとして暮らせるような雰囲気が谷さんにはある。インタビューも漫談風に終始。
 資本と経営は分離すべしが谷社長の信条。株主(資本)の全農は、協同会社の経営は現場にまかせよと出向人事に関しても厳しい姿勢を示す。獣医や薬剤師など専門家を早くから社員に採用しており、お客の信頼も厚い無借金会社の主である。趣味は広く何でもこなす。8年の海外駐在でも英会話は下手と謙遜。 (坂田)