顧客第一で考えると新しいものが捉えやすい (株)科学飼料研究所 代表取締役社長インタビュー 谷 容全 氏 インタビュアー:坂田 正通 (農政ジャーナリストの会会員)
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◆プレミックスの製造からスタート −−設立は1967年ですね。最初にこれまでの歩みと最近の業務内容をお話いただけますか。
谷
設立当時は、1961年に制定された旧農業基本法が掲げていた選択的拡大路線のさなかで畜産部門も成長期だったわけですね。高度成長にともなって食生活でも肉の消費が増えていった時期ですから、当社の経営も最初の10年間ほどは上向きだったといえるでしょう。 ◆防疫体制づくりは共同で取り組んでこそ −−畜産事業をめぐっては、最近では口蹄疫や海外では狂牛病の発生など、防疫、安全性の確保が改めて大きな問題としてクローズアップされていますが、どう考えておられますか。
谷 防疫問題というのは、実に難しい問題ですね。たとえば、有機栽培でいえば、ある畑だけ有機農法をやっても隣の畑で農薬を使えばその影響を受けてしまうことがあるように、JAグループだけで防疫体制を作るだけでは万全でない。みんな共同で取り組まなければならない問題ですね。 ◆海水系養殖魚の飼料開発が課題 −−そうした畜産事業の環境変化にともなって事業の内容はどう変化してきていますか。
家畜というのは経済動物ですから、成長促進や病気対策が求められる世界ですね。ですから、当社はそのための微量要素や薬剤などのきめ細かな製造を得意技としてきたといえるでしょう。たとえば、人工乳にしても原料は脱脂粉乳やホエーパウダーを使いますが、農家が使うときにスムーズに溶けなければ使えませんし、牛や豚の嗜好性も考えなくてはならない。そういうきめの細かさが必要とされる仕事ですね。 それから養魚飼料については10年ほど前から製造して農協に供給していますが、われわれの製品はマス、アユ、コイなどの内水系の養殖魚の飼料です。しかし、これらは魚の市場として大きなものではなく、まして餌となるともっと小さなマーケットですね。そこで今後の課題としては、ハマチやアジといった海水系の養殖魚の飼料開発になると考えています。今は、まだハマチなどの餌は半分が生餌なんですね。イワシなどです。市場としては100万tあるといわれていますが、このうちの50万tが生餌ですが、生餌は海も汚すし効率も悪いということで今後は普通の餌に変わっていくと見込まれています。 注目されるマーケットですからわれわれとしてもこの分野での取り組みが課題だと考えていて、たとえば、病気に強い餌だとか、他社と差別化して生産性の上がる養魚飼料の開発に挑戦していかなければならないと思います。 ◆オープンな体制で研究開発すべき −−商品開発力が課題というわけですね。
谷
われわれのような成熟産業は、いかに新しいもの開発していくかが重要だと思います。価格競争に巻き込まれるというのは、開発を怠った当然の報いだと私は思う。商品力を強化すればいいわけで、何年も何年も同じ商品を出すから価格競争ということになってしまう。
◆依存からの脱却が当面の課題に −−一方で、全農も統合連合が進み協同会社にとってもいろいろと課題があると思いますが。
谷
私としては、いわばこれまでの全農による護送船団方式が終焉する時代を迎えたという認識が必要だと思っています。これは大きな変化であって、そうなると協同会社としては、本来の全農が期待する機能を発揮すると同時にどう自立化を図るのかということが非常に明確になってきたわけです。つまり、難しいことですが、どう依存性から脱却するか、です。これが当面の課題でしょうね。
◆顧客に焦点合わせニーズをいち早く −−社員の意識改革も求められますね。
谷
社是には、和衷協同、元気溌剌、創意工夫などを掲げています。これは創業まもない頃、初代の立岩順一社長が掲げたもので、いかにこの新しい会社をまとめていくかという意識が強かったのだと思います。そういう段階での社是として、求心力を発揮しようというこの方針は歴史的に意味があったと思います。 −−今後のご活躍を期待しています。今日はありがとうございました。
インタビューを終えて
谷社長のことを上司が「センスが良い」と誉めていたし、元全農の会長が海外出張に同行し、谷さんの人柄について絶賛していたことを思い出した。他人と違った何かを持っているからだろう。谷さんは世が世であれば、真言宗のお坊さん。人々にお説教していたかもしれないのに、なまじ学問してサラリーマンになったばかりに生家のお寺を継がなかった。現世では教えを生かせなくとも、来世では屈託なく活き活きとして暮らせるような雰囲気が谷さんにはある。インタビューも漫談風に終始。 |